第56話 枕変わると眠れないとかあるよね

「よっしゃクリアだ!」


「いえーい。」


ノリだけでハイタッチをし、俺たちはゲームを終えた。朱音の腕前は知っていたが……もう俺後半立ってるだけだよ。ボスも任せっきりよ情けねえ。


「いい肉壁だった。」


「いつの間に俺そんな役に?」


「最初から。」


ふっと鼻で笑う朱音。つまりゲームが選ばれた瞬間から俺の役目は、主人公を守ってやられるポジションだったわけだ。


「まあ積みゲーが消えたんだ、その点は感謝してるさ。にしてもこんな時間か。」


「早いもので。」


「で俺どこで寝んの?開けたスペースがあるから、せめて毛布一枚貰えるとありがたいが。」


「ん。」


指差す先には元から敷いてある布団、あのこれどう考えても普段使ってる寝床ですよね?ゲームのしすぎで混乱してるのかな?


「何言ってんのあんた、あそこはそっちの寝るところでしょうが。」


「いや。」


「話すのだるいならほれ、こっち使えこっち。」


そういってスマホをかざす、朱音さん話しすぎて口回り筋肉痛なっちゃいますよ。ほらもう早速使ってきたよ。


[舐めるな、真のゲーマーはチェアーで寝落ちする。]


「つまりあれか、あの椅子でプレイしながら寝ると。」


[最後にその布団を使ったのは、恐らく半年前。]


「ねえ綺麗だよねあれ、洗濯とかはしてるのかなあれ。」


[たまに親がやってるはず。]


「……はずで終わらせるんすね朱音さん。」


[だから進士はあそこ。私のベッドはそう、リクライニングもするそのチェアーなのさ。]


「さいですか。」


向こうが良いって言うし、これ以上突っかかっても得るものはなさそうだ。なので大人しく布団を使おう、そして明日への英気を養うとする。


「じゃあお先。」


[のんびりどうぞ。]


「はいおやすみなさいっと。」


さぁて寝ますか!と入ったんですけど、いつもの枕じゃないから落ち着かない。何度も身体を右へ左へ、俺のベストポジションを探す旅が始まっていた。

あっここだ。ついに見つけた俺の頭の楽園……やっと寝れそうだな。さてと動画でも見ながらっと。


[ねえ進士。]


なんか見ながら寝ようと見ていたスマホに、朱音からのメッセージ。


「んだよ、もう少しで寝るところだったんだが。」


[あんた平気なんだよね?]


「……ていうと?」


[今のあんた、軽くいじめられてる。]


「そんな大層な話しじゃねえさ、実害ないし。」


[……]


「まあ人様から見たら気になるか。俺が平気ってのも、強がりに見えてたりすんのか?」


[どうだか。]


「そこで適当言うのか……どうだろうなぁ。」


見つけたベスポジを手放し、天井を眺めながら一息ついてみる。


「正直に言えば、お前らがいないと折れてたかもわからん。なんだか独り身になってからこれまで、回りに恵まれ過ぎて怖いくらいさ。」


[それで?]


「まさか元カノから狙われて、今じゃ机に花を添えて貰える人気者さ。俺だけなら部屋に籠って……そうだな、ゲームでもして現実逃避してたかな。」


[やめとけやめとけ。]


「お前に言われたくねえよ。んだからまあ、友達って奴がいる間は平気さ。俺にだけ被害があるならな、周りに飛び火したら俺も我慢ならん。」


[私は平気だけどね。]


「お前が平気でもよ、俺が嫌だっての。」


[その言葉。]


「あい?」


急に顔を上げて俺を見る朱音さん。


「その言葉そのまま返す。」


「……はあどうも。」


「馬鹿。」


「ひでぇな馬鹿って。」


「言ってる意味考えろ。」


「意味だぁ?俺が嫌だとなんか問題」


「あんたが平気でも!」


うわ大声どうした、すげえ珍しい場面だから固まっちまうっての。


「あんたが平気でも、私が嫌なの。」


「……あーそういうことか。」


「……そうだよ。」


「意外な言葉だな。」


「は?」


怖い朱音さん。さっき少し乙女だったのに急に殺し屋、落ち着いてごめんて。


「多分俺自分の評価がさ、低いんだよな。俺なんかって考えもあるしよ、俺がどうなろうとそれで事態が落ちつくならそれでいい。」


「だからって。」


「俺は周りが大事なわけ、それ守れるなら自分はどうなっても平気かもな。まあよりを戻すのだけは絶対ありえねえ。」


「そこは変わらないか。」


「まあな。んだから俺が大事に思われてる?ての?俺のために誰かが、なんて想像は全くできないのさ。助けてやりたいが、助けを求めちゃいけないと思ってる。」


「……いつの間にあんた、そんな寂しい奴になったの。」


「寂しい奴か……元からかもな。まずここまで腹割って話す事も少ねえし、俺って自己犠牲の塊だからな~。」


実際人に助けて貰えるなんて、あまり想像できないもんだ。自分が誰かを助ける、それこそ外で困ってる人に手を伸ばすってのは良くある話。

それを自分がするのは考えれるが、いざ自分が困ってるときしてもらえるかは想像できねえ。それを望むほど、俺って人間がいい奴とも思えないし。


「だからかさっきの言葉、結構嬉しかったぞ。」


「……そこが分かっててやるなら、私は止めない。」


「もう聞いちまったからな。忘れないさ、ただやり方は変えないと思うが。」


「そう。」


朱音はゲームに戻り、俺への会話は終わったと見える。


「なあ朱音。」


「何。」


「ありがとうな。」


それ一言言ってベスポジに戻る。やっぱここだな……あっもう眠りにおち


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


後ろから寝息が聞こえる、進士はよく寝れてるみたい。思い付きだったけど、部屋に呼ぶのはちょっとあれだったかも。


「……寝てるね。」


寝顔を見るくらい泊めてあげてるんだ、文句言われないだろう。ここはあんたの敵はいない、ゆっくり休める安全な場所なんだから。しっかり休みな。

進士とは、というかあの三人とはもう長くなる。中学の頃、つまらなかった毎日を楽しくしてくれた。ゲームばっかりで登校もせず、部屋にいた方が楽しいと思ってた。


「今度は、私が何とかする。」


ある日進士がプリントを持ってきた。それで一度引き受けたからか、来る頻度が多くなっていった。律儀にやらなくても良いのにさ、私も出ない日もあった。

でもいつからか顔を合わせて、部屋の前まで来るようになって、部屋で遊ぶようになって。こいつの根気みたいなのに、私は負けたんだよね。


「あんたはなんで、私に届け続けたのか。いつ教えてくれんのよ。」


こいつはただの一言も、通って来た理由を吐こうとしない。最初は学校に来ればと言われた、次にこいつらと仲良くなったらと言われた。

そうやって才太や高志と進士、つるむようになったら学校も悪くなかった。居場所が出来たことが嬉しかった。でも理由を聞くとさあ?と首をかしげるだけ。ムカつく。


「……この。」


軽くデコピンする。私はこいつに恩があるんだ、画面の中だけじゃ分からなかった物があるって。こいつは困ってる奴に声をかけれる奴だ、でも自分の困ってることは死んでも教えてくれない。


「本当に馬鹿な奴。」


こいつが橘さんと付き合った時は凄く嬉しそうで、進士にも居場所が出来たと思った。でも居場所は幸せじゃなくて、今壊されそうになってる。

進士の考えてることは、あんまり本人が教えてくれないから。それでもこいつが作った場所が、私を受け入れてくれる場所がどうにかされるなら。


「よく寝なよ、進士。」




やれることをやる、進士1人にさせない。

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