第54話 家に…帰るの怖

「やだなぁ、嫌だなぁ。」


うなだれながら歩く帰り道、これほど歩みが重い日もないだろうと俺は思う。だって家に帰っても安心できないのよ?野宿の方があんぜ……いやそこを見られたら連れ去られるかも。


[うるさい。]


帰り道が途中まで被る朱音に指摘され、ひとまず口から出る気持ちを押さえるとした。


「いやさぁ嫌なもんは嫌だろ。身内が元カノに情報流してるかもだし、てことは部屋すら安全じゃねえし。」


[うかつに色々できないね(^-^)]


「やめろ腹立つ。」


[まだ確定してないし、気負う必要ないんじゃないの。]


「そう簡単に割りきれたら、俺もこんなに悩まねえっての。」


はぁとため息つきますが、何やら朱音は考えてるのか返信が遅い。どうした、いつものように小言を言ってみせろ。


[ねえ進士。]


「なんだ朱音よ。」


[バイトバレと泊まり、バレるならどっちがまし?]


「……ん?」


何をおっしゃってるのか理解できない。俺が何処に泊まるのよ、ホテルか寝カフェにでも?俺未成年だからどこ行っても駄目なんだが。


[あんた私は信用してるよね。]


「そりゃあな。お前が敵だったなら、俺はどれだけの過去を握られてるのかって。さっきも話したが、あの場にいた奴らは信用してる。」


[じゃあ話が早い。]


そうして俺より一歩歩幅を伸ばし、俺の前に立って振り返って言った。


「私の家に避難しなよ。」


「……珍しく口を開いたと思えば、年頃の女の子が何言ってんですか。」


「今この場で、話を知るのは2人だけ。バイト話は学校でしたし、最悪漏れてる可能性もある。」


「んなこといったら、こんな道路で話してるこれだってよ」


「ここまで離れて聞く奴がいたら、同じ学校だとしても目立つ。」


歩いて通える距離ではある、がバスとか使うと楽に通える。そんな距離に俺たちはいる、俺はのんびり歩くのが好きだから歩いてる。朱音も生き急ぐ気性ではないから似たようなもんだろうな。


「まあいつもここまで来たら、俺たちくらいしかいないわな。」


「そゆこと。」


「んでここまで離れたから、やっとこの話題になったわけか。」


「そう。」


「……あの朱音さん。だんだん口数減ってますよ?疲れるならメッセにしとけよ。」


「うるさい。」


「あっはい。まあ良い提案と言いたいが、あんた女子だけど良いわけ?親とかいるだろうて。」


「そこはほら、友達が来るってだけで。」


「まあ面識がねえ訳じゃないし、ただ泊まりがなぁ。」


「やるかやらないか、早くしろ。」


「えっすいませんお願いします。」


俺は折れた。バイトするのは作戦もあるが、純粋に金が欲しい動機もある。今の働き先に迷惑かけられ、俺がまたバイト探すのもしんどいし。


「進士はこう言う。ちょっと友達の家に泊まる、夕飯はいらないと。」


「ほうほう。」


「そして日葵ちゃんが追求したら、濁して女子と楽しむと言う。」


「待て。」


「お前には早い世界がそこにあると」


「待て言ってるだろうが!」


洒落にならねえよ。


「分かった分かった。しかし追求と言っても、今あいつは俺と話さないんだぞ。」


「そっか。」


「だからそうだな……めちゃくちゃわざとらしくやるか?」


「案があると。」


「ああ。俺が準備とかにもたつく感じをだすわけ、んで痺れを切らした朱音が迎えに来る。日葵も話さないだけで俺を見てるなら、その目に二人歩く姿が写るわけだ。」


「そしてこれから泊まる、と聞いてる日葵ちゃんは。」


「そうだ。どう考えたって、これから兄はあの女と一晩を」


言ってる途中で脛を蹴られた、はいすいません調子乗りました。でもあんたが言い出したのよ!?


「それでいい。」


「珍しくやる気だな。」


「まあね。ひいてはあいつを騙せれば、私は楽しい。」


「おーおー、んじゃ一旦解散して手はず通り。」


「ん。」


と、言うわけでイベント発生しました。まあこれまで遊んだことがない訳無く、家にお邪魔したこともあったり。しかし泊まるとはねぇ……あいつ部屋の掃除してくれると良いけど。


「ただいま。」


「あらお帰り進士。夕飯もうできるけど、先に食べちゃう?」


「あー母さん、その話なんだけどさ。俺今日友達の家に泊まることに、夕飯いらなくなっちゃって。」


「あらあんた。それ決まった時に、早く話してよね。」


「ほんっとうに悪い!」


「あーはいはい。それじゃ楽しんでらっしゃいな。」


母さんはさっぱりした人だ、こう言う時はとても助かる。まあ連絡しなかった俺が100悪いけど。そうして部屋に戻る途中、リビングで日葵を見たが見ないフリ。


「さーてと。」


何がいるか分からんが、着替えとか暇潰せそうなアイテムを選んで鞄に入れる。どうせ朱音はゲームで忙しいからな、この際漫画を1から読み直すのも悪かねえ。

と持っていくものも決まり、鞄に詰め終わるとインターホンの音。


「進士~朱音ちゃんよ。久しぶりねぇ朱音ちゃん、背が伸びたかしら。」


「どうも。」


賑やかな玄関目指し階段を下る、日葵はまだリビングだがこちらを気にしている様な?まあ無視無視。


「すまん朱音待たせた。」


「遅い。」


「こら進士、女の子を迎えに来させるなんて偉くなったわね。」


母さんに小突かれながら、ひとまず合流できたわけだ。


「んじゃ行くか。」


「……進士あんた泊まるのって。」


「行ってきま~す!」


母の声が聞こえるが、今振り返ったら俺は駄目な気がする。俺はこのまま行くのだ、安全地帯へ。


「助かった朱音、最高のタイミングだったぞ。」


[まあね、少し早いかと思ったけど。]


「日葵は特に動きはねえが、リビングにいたし聞こえてたかもな。」


[あれだけ玄関で言ってたし。]


「つか母さんがべらべら話すだろうな。」


自分の子供が女子とお泊まり、多分どこのご家庭も騒ぎになるだろうて。頼むから明日帰ったときに、色々聞かれるのだけはやめてほしい。


「んで朱音さんや、そっちの親には話ついてんの?」


[安心したまえ。]


「……なんか安心できねえけど。まあいいや、安心して寝れるだけありがたい。」


そうして並んで歩く道、夕方ともあり人は少ない静かな時間だ。お互い話すこともせず、ただのんびりと前を向いて歩くだけ。


「「……」」


沈黙ってのは悪くない。そりゃ知らない奴とは気まずいが、気の知れた奴とは落ち着く部分もあるだろう。最近慌ただしかったから、こう落ち着いて過ごせる時間は大切にしないとな。


「あら着きましたね。」


[あっというまですね、ささどうぞ。]


玄関を開ける朱音に甘えて、お邪魔するとしよう。朱音の家は俺と同じく一軒家、2階に部屋があるのも同じだな。


「お邪魔します。」


[まだ帰ってきてないから、安心しな。]


「まあ後で挨拶するさ。」


朱音の部屋へと階段を上がり、部屋へのドアを開ける。いや本人が開けないのは失礼かもだが、ボーッと立ってるのも邪魔になるだろ。


「……なあ足の踏み場、どこだ?」


「良く見て、私の通った道がある。」


「あー、本当だこれか。」


朱音さんの部屋はよく言われる、汚部屋だ。脱いだものはそのままだったり、飲んだボトルは転がってるし。少し固まってる俺の横をすっと通りすぎ、自分のゲーミングチェアに座る朱音。


「くつろげ。」


「どこに座んだよ俺。」


「そこでいい、寝床で座ると良い。」


「あざーす。」


床に敷いてある布団回りだけ、寝床だからか綺麗に整理してある。いやね?普通ならここで朱音が、みたいになるかもしれんが。俺には衛生面の心配しかなかった。


「じゃあ勝手にして良いよ。」


と一言言って、朱音はヘッドホンをしてゲームを開始する。ちゃんと目を気にして、ブルーライトを切る眼鏡をして。





俺は一人漫画を読み始めた。

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