第50話 なるほど大体分かった
「津原くんとは確かに、良くない関係だったかもしれないけど?私は一緒で楽しかったし、優しい津原くんがとっても好きだったの。」
「俺結構無理してましたけど。」
「無理してでも、私との時間を作ってくれてたんだよね。その一途な想いも素敵だなぁ。」
駄目だこの人、全部都合よく捕らえてくるタイプの人だ。
「津原くんが興味を引こうと色々話したり、何とか視界に入ろうとしてきたり。二人じゃないって知ったら落ち込むけど、私が構ってあげると凄く笑顔になったんだよ。」
「「……??」」
今この場にいる全員が、この短い時間での意味不明な会話に首をかしげていた。えっと何だって?俺がショボくれたりなんだりって。
「私が津原くんを笑顔にできるって、私じゃないと津原くんは笑顔になれないって分かってきたのはその頃かなぁ。でもあの頃の私はまだその気持ちに、何て名前を付ければいいか分からなかっただけなの。」
「な、なあ橘さん。」
「どうしたの津原くん?」
「えっとその、いやいいや続けてくれ。」
「ふふ、そんなに私と話したかったかな?ごめんねちょっと待ってて。」
というと俺の鼻先に指を持ってくる。あ、この扱い知ってる犬だ。俺は目の前に餌を置かれた、躾のされた犬のように思われてますねこれ。
「今なら分かるんだ。きっとあれは恋であって、今も消えないこの気持ちは愛なんだよ。私は津原くんを愛してるみたい。だから側にいたいし、知らないことが無いように過ごしたいだけなんだ。」
「ねえ菫、本気なのね?」
「どうしたの真祐美ちゃん、そういえばいつから津原くんの側にいるの?なんでいるの?私の味方じゃないの?」
「前にあんた言ってたわよね、まずは友達からって。ちょっとずつ仲良くなりたいとか。」
「そうだね。でも友達とかなんとか、のんびりしてると津原くんはどんどん離れるかなぁって不安で。現にこの場に、私が知らない人がたっくさんいるから。私と離れたたった1ヶ月くらいで、津原くんは人を惹き付けちゃう。」
「俺を人タラシみたいに言うな。それに橘さんが興味なかっただけで、何人かは元々俺の友達だ。」
「そうだったんだね、もっと津原くんを知れて嬉しいな。」
そう言って笑う彼女の笑顔、あいにくだが俺には怖いものに見える。この場にいる奴は大体同じ意見らしく、だんだん室温が下がってきたような。
「そういえば……あなたは同じクラスだよね。」
「あ、ああ。校外学習でも挨拶したが、華狼と」
「うん何となく覚えてるから。でもいいよ、同じクラスメイトってだけで。」
「そうか……以外だな。クラスの人気者の裏側は、こうも暗いものだったか。」
「だって君ってば、私を疑うような目をしてるじゃない。それって良い印象じゃないし、津原くんに近づくなって目にも見えるよ。」
「悪いな目付きは元々悪い。それに過去の経緯もそうだが、いくつか不信な部分は見えていたんだ。だからこんな目にもなる。」
「そっかそっか、じゃあ仕方ないね。でもあんまり邪魔されると、私もいい気分じゃないんだよ?」
「それは光栄だ。そうやってストレスでも貯めて、いつか爆発させると良い。」
「……中々口が減らないね。」
「友達は津原くらいだ、他に失くすものもない。だからあいつが困るなら、どうにかしてやりたいだけだ。」
「華狼、お前ほんと良い奴だよ。」
なんでこんなに好感度が高いのかしら。なんかイベントでもこなしたか?もうこれメーター振りきってんだろ。
「まあいいよ君は。同性相手に津原くんがってなるなら、君も油断ならないけど。」
「そんな趣味はねえよ。」
「そうだよね!」
「……いやもしそうだったら諦めてくれる?」
「んー悩んじゃうね。どうにか離さないようにして、私以外を見れなくしちゃうかも。」
「あっじゃあノーマルでお願いします。」
発言は遊ぶように聞こえるが、芯にやりそうだなっと思わせる何かを感じる。
「なあ橘さんだっけか!」
「どうしたの津原くんのお友達さん?」
「どう聞いたってあんたのそれは、綺麗な物じゃないんだが!進士を傷つけるつもりなのか!」
「結構声が大きいね。私が津原くんを?そんなつもりはないよ。」
「俺からも確認したい。進士はあなたといるのが苦痛なはずだ、いるだけで傷つけるという認識はないのか。」
「今はそうかもね。でもそれは私が苦手で、一緒にいることに慣れてないのかなぁって。だから少しでも側にいて、私に慣れてもらえたら。」
「……イカれてる。」
[最後に。]
「あなたも何かあるの?津原くんのお友達さん。」
[校内で進士を敵視させてるのはあんた?]
おおう核心というか、今一番ほしい部分に突っ込んだな朱音。
「……言ってる意味が分からないかな。」
[今津原は、知らない奴らに睨まれてる。あんたじゃないの?仕組んだのは。]
「さっきも話したけどさぁ、私は津原くんを傷つけるような事はしないよ。」
[その言葉を信じろっての?]
「そうだよ。むしろあなたのその発言、私が何かしたって確信でもあるの?理由もなく人を疑うような人なの?」
[津原を睨む奴らは、あんたのファンらしいからね。]
「へーそんな人達がいるんだ。怖いね、私がどっかで人気者になってるんだ……津原くん怖いよ。」
「あーうん怖いね~。」
俺はあんたが怖いっての。
[別れた直後にもあんた、周りに言い触らしてた前科がある。]
「あれは相談してたんだよ。私に何か良くない部分があったのかな、津原くんが何か言ってなかったかなって聞いてたの。」
[そんなのあんたが一番分かってただろうに。]
「さっきから何なのかな。まるで私が全部分かってて、どうなるかも知ってて話したみたいに言うね。」
[私はそう思ってるよ。]
「何あなた、津原くんが好きなの?私が邪魔でどかしたいとか?」
[友達を傷つけられて、怒らない方が不思議だと思わない?あんたの心象は最悪から始まってるから。]
「私も今、あなたが凄く嫌いになったよ。」
「うー、なんだか難しいっす。橘さんはそのぉ、好きなんすよね津原さんを。」
「そうだよ?」
「でもそのぉ、あえて無視したりって接し方をしてたんすよね。」
「そんなことしてないけど。」
「いやいや!そう聞こえたっすよ。津原さんが嫌なのに人数増やしたり、割り込まないと会話できないほど放っておいたって考えになるっす。今だって側にいると嫌だって気持ちを、その無視してるじゃないすか。」
「それじゃああなたは、津原くんの気持ちを尊重して私は二度と近づくなって事かな。」
「え、えっとぉ。」
「そうすると私、好きな人に二度と会えなくなっちゃう。すぐ目の前にいるのに話せないし、触れることもできない生活ってどう思うかな?それをあなたは私にしろって言うの?」
「ううう~。」
「心咲さんありがとう、でも無理しなくて良い。多分言えば言うほど、向こうも活気が出ちまうから。」
「お力になれなくて申し訳ないっす。」
いやいや発言してくれただけありがてえよ。
「は~い先輩から質問。」
「あなたですか、何かありますか。」
「おおさっきとは随分接し方違うね、そんな冷たい人だったなんて悲しいなぁしくしく。」
そう泣き真似をしながら、七畝さんは俺に近づいてきて片腕に抱き付いてきた。
「慰めておくれよ津原く~ん。」
「お~よしよし、じゃないですよなんすかこ」
「何してるんですか。」
橘さんが親の敵を見るように睨む、だが七畝さんはそんな視線流しながら淡々と言ってみせた。
「だって七畝さんたち、もう付き合ってるからさ~。」
え初耳。
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