第47話 初めてっていつまでも覚えてるわな
「ねえ酷いと思わない!?そりゃ良いか悪いか言われたらって、ちょっと考えたりするわよ本当!」
「……」
「まあね!?あの日々に色付けるなら?明るかったかもしれないわよ!」
「……」
「だからってそれが良いかなんて分からないと思わない!?」
「……」
「あ~2割スッキリした。」
誰と話してたかって?いや誰もいねえよ、なんなら木に向かって叫んでたわ。念のため人の目を気にしまして、近くの森林公園の奥の奥で吐き出しております。
明日不審者の話しとかでたら自主しないと。
「はぁ~。」
さっき七畝さんに言われた言葉考えてた。真っ直ぐ帰るのも嫌になり、ずいぶん来てなかった公園でもう一度考えてみたりしたくなったわけ。
俺が自分で考えていたあの二ヶ月、今では笑い話や悪夢だと名前付けしてある闇のフォルダ。それは初恋って名前である。
(ゆうて思い返して、辛いことが多々でてくるのはいかがなもんか。)
付き合いました→間に挟まる浅原→止めぬ橘さん→ぐぬぬ俺、これが思い返せば出てくる記憶だ。駄目じゃん明るくねえじゃん。
ここで大事になるのが、嫌だったのかそうでもなかったのか。そして俺が今だにこれらの思い出を……いや思い出としておくことをどうするか。
[津原くん、嫌われ者さんだよ。]
通知を見て画面を確認すると、七畝さんからメッセージが入っていた。凄いなあの後で連絡できるメンタルやば。
[既読が付くだけ、先輩はラッキーだって思っとくよ。さっきはごめん、でも覚えておいて。自分を否定しちゃ駄目だからな~。]
それを最後にメッセージは終わった。
「……自分をねえ。」
思い出とは何か、過去にあった印象的な出来事だそうだ。俺にとってあれだけ印象的で、消えそうもない記憶はないな。断言できる。
でも嫌な思い出ってのはいつの間にか、知らない内に忘れたりするだろ?そりゃふと浮かんでうわぁ……てなることもあるだろうよ。
(だけど俺、あんだけ嫌々言ってんのに全部覚えてるよ。何食べたとか何話したとか、嫌なはずなんだけど。)
俺は嫌だ嫌だと口にしてた、けれどその時の俺は楽しかったんだろう。楽しい毎日だったんだろう、すごく眩しい毎日だったろう。
今の俺には想像できない気持ちや、昔の俺が持ってた熱のような物。そりゃさ?大声で否定したい訳さ。んな訳あるか!あんな日々は地獄だって。
「あんな日々は地獄だー!!」
声に出してみました、一割スッキリしました。けれどさあ忘れようと頭を働かせるほど、嫌でも馬鹿な自分が笑ってやがる。
浅原に邪魔されたって橘さんが味方じゃなくたって、家で一人にされたって。俺は笑ってたよ、そりゃ楽しそうに笑いやがった。まぬけじゃねえか。
[自分を否定しちゃ駄目。]
さっき七畝さんから来たメッセージを思い出す。ここで馬鹿な自分を違うって、俺とこいつは別人だろうと逃げることはすげえ楽だ。だって目をそらせば良い。
それが出来てしまったら、俺はもっと酷い男になってたかもしれんな。
「んー……」
あ~、まぬけな俺よ。お前はすげえ楽しそうだな、その数ヵ月後になってみろよ。なんか睨まれて息苦しい毎日だぜ?楽しいって出来事もあるっちゃあるが。
「結局俺、楽しかったのかねえ。」
今思えば嫌だった、でも昔は楽しかった。言葉にすればこんなに簡単だが、それを言葉に作るために馬鹿みたいな時間がかかった。
七畝さんにもしもを突かれて、楽しかった思い出を壊したくなくて噛みついた。そうやって防衛しちまうくらいには、大切だったみたいだな。
「……ぷっ、ガキだな俺も。」
七畝さんに突かれた部分、そして俺が大事にしちまった初めての思い出たち。だが今こうして再確認したら、そろそろ目を背ける時間は終わりだな。しっかりと考えるべきだ。
「橘さんは俺の事、どうとも思ってなかったって事を。」
俺が見ようとしなかった可能性を。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
初めは何なんだろうって気持ちだった。男子から告白なんていくらかされかけて、でも真祐美ちゃんに言われて逃げちゃったり直前で詰まって終わっちゃったり。
だから初めて邪魔もされないし、最後まで告白されたのが津原くんだった。正直何もなかった、興味本意で生まれるものがあれば良いと思ってた。
「あれ~?ここにもいない。」
図書室をチラ見して、いないなら出る私。
それから付き合ったけど、一緒に話してご飯食べて出掛けて。友達みたいな日々だったなぁって。
なんなら私より津原くん、真祐美ちゃんと話してたからね。止めなかった私も私なんだけど。
「……もう帰ってるか。」
下駄箱を見て私も帰ることにした。
津原くんてば、真祐美に色々言われても私が相手しなくても、それでも笑顔で楽しそうだった。私にはよく分からないんだ。
でもね、その内ちょっとした感情が沸いてきた。津原くんが私と話してて、真祐美に邪魔されると寂しそうな顔をするんだ。可愛かったなぁ……
[お兄ちゃんなら家にいないです。]
[そっか、ありがとね。]
見張りに連絡して確認する。
それから私は、津原くんが寂しそう・話したいのにって顔を見るときゅんとしちゃった。遊んで欲しい犬が、どうしてって顔をするでしょ?それだった。
真祐美とわざと話して、デートにも呼んで後ろを歩く津原くん。見返る度にパッと顔を明るくして、それで真祐美に向き直るとシュンとするの。
「いつものコンビニ……じゃないんだ。」
よく寄ってるらしいけどいなかった。
それで家に来たいって言葉をお預けして、向こうの家には行くけど見張りと話してたの。廊下で会ったりたまに部屋を覗くと、それは可愛かった。
でも最後の方には全部諦めて、もう可愛かった津原くんが見れなかった。それで私は初めて寂しいって、どうしてって気持ちになったの。
「あとは、どこだろう。」
誰かと遊んでるのかな。
だから最後の方は私から、津原くんに色々話してみたけど冷たい顔。それでも可愛かったあの顔を見たくて、同じことをするけど視線は私じゃなかった。
津原くんが離れてくって感覚が耐えられなくて、どうしようって思ってたらフラれちゃった。好かれてるからって私、馬鹿だったんだな~って。
[帰ってきたら連絡します。]
見張りからの連絡、重要性無いから無視。
これを愛だとか恋だとか、形容できるのか私には分からない。だって初恋かもしれないもの、形が歪でも良い思い出なの。
側に津原くんがいない日々が続いて、真祐美と過ごすけどぽっかり穴が開く。そこにいた彼がとてもとても、大きなピースだったみたい。
「どこだろうな~♪」
案外探すのも楽しいな。
津原くんのシュンとした顔も、私と話すだけで満開の笑顔をするところも。真祐美と私の事で喧嘩してるところも、休みに会えるからってすごく喜んでたもの。
全部が私にはとっても明るくて、とっても大切な思い出。でも津原くんを傷つけてたのかもって、反省はしてるんだけどね。
(待っててね津原くん。)
津原くんは私といると喜ぶんだよ。私がいないから寂しくて、私が側じゃないと駄目なんだよ。私でいっぱいに津原くんを埋めてあげないと。
最近色々顔を出して、あの顔をあの笑顔をあの可愛さをあのシュンとした表情をあの津原くんを。誰がどうしてようが最後には私が。
「だぁ~いすきだよ津原くん、だから神様お願い。私にちょうだい?彼と一緒に毎日を。」
私が夢に見る可能性を。
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