第46話 呼び出しの語感の怖さよ
呼び出しをされた翌日、俺は震えながら登校した。相手は見知った先輩ではあるが、年上に呼び出されるってだけでヤバい。分かってくれたまへ。
本日はお手紙二通をいただいた俺の心は晴れ、大きいイベントもなく小さな攻めが続きますなぁ。さてと昼休みになったことだし、ちゃんと校舎裏に行きますか。
「ふーんふんふんふーん。」
上を向いて歩こう……これからどうなろうと、今浴びている日の光を忘れないように。校舎裏と言っても、花壇があったりして殺風景ではない。そんな花壇に腰かける七畝さんを発見。
「おお津原く~ん、お久しぶりだね。」
「……いくら、ですか。」
「へ?」
俺はこれまで6年くらい、共に歩いてきた財布を地面にそっと置く。そうして膝立ちになり介錯を待つ武士のように、覚悟を決める。
「これが俺の全部です、助けて貰えませんか!!」
「えぇっとお?」
「だから命だけは」
「ちょいとお待ち。」
そっと肩に手を置かれる俺、何かを伝えようとする七畝さん。短かったなぁ俺の人生
「別に何もないよ?」
「え。」
「いやあの、津原くん何を想像してたのさ。」
「ほら校舎裏に先輩から呼び出しって、もうあれしかないじゃないすか。」
「あれ?」
「生意気な後輩をシメるってやつ。」
「七畝さんが君を。」
「はい。」
「怒るよ?」
「あっはいごめんなさい。」
この時の七畝さんの顔、まじで怖かったわ。
「おほん、それで津原くん。」
「はい何ですか七畝さん。」
「ひとまずこっちこれ、ほれほれ。」
手招きされるまま七畝さんの横に座る、あらやだ肩が触れ合っちゃうわ恥ずかしい。
「とりあえずこれ。」
「何ですかこれ?」
「うーんまあ、君を元気付ける物かなぁって。」
四角い布に包まれた物体を貰う俺、チラチラこっちを気にする七畝さん。なんだろなぁこれサイコロかな。
んなわけねえかさっさと開けよう。
「……ほお、お弁当ですか。」
「津原くんの為に先輩、張り切っちゃったぞ~。」
「まじすか。」
「大まじだよ~。」
蓋を開けて見れば綺麗な色使い。肉野菜ご飯とバランスも良い、これお金発生しないんですよね?
「俺を元気付けるためにですか。」
「津原くん最近暗かったからにゃ、先輩としてやれる事考えたもんよ。」
「ありがとうございます、七畝さんの分は?」
「それはほら、津原くん今日の昼何準備したの?」
「あー食べようと思って菓子パンと」
「それと交換しようぜ☆」
「やだ計画通りって顔してる、それで良いなら交換しますか。」
「あいあーい。」
こうしてお互いに昼御飯を交換し、早速食べ始めるとする俺達。まじで元気かどうかの確認と、食べさせてくれようと呼び出したみたいだ。ありがてぇ。
「おー美味しいです、普段から作ってるんですか?」
「ふふん、七畝さんは料理もできるのだよ。どうかねポイント高かろう?」
「んーそれをご自分で言わなければ、満点だったかと。」
「んや~厳しいぞ津原くんや。」
「まあ冗談です、ここまでしてくれたら満点通り越して殿堂入りです。」
「しっしっし大成功だね。」
「そりゃもうクリティカルですよ。」
「……ちなみにだけど、これ橘さんにはして貰ったの?」
「……お聞きしますけど、あったと少しでも思いますか?」
「ごみん。」
橘さんの料理、彼女の手作り料理。これって男子の理想かと思うんですよ、相手が自分を想って作るとかさ。もう何出てきても100点じゃない?
「そもそも橘さんが料理できるのか、俺はそれすら知りません。」
「はあ~改めて聞いても中々だよ、お幸せな毎日だったんだね!」
「嫌味と分かっていますよ先輩。」
「最初のお返しだよ後輩くん。」
「橘さんの料理ねえ……怖い怖い。」
「え、いつの間にそんな恐れが出てきたの。」
「いや色々ありまして。」
思い返せば出てくる様々、七畝さんには話しても良いんじゃなかろうかと話す。しかしバイト話は華狼との作戦なので、そこは言うわけにはいかねえ。
ひとまず今は、橘さんがいかに恐ろしい存在かを唱えるのが大切だ。
「お、おぉう……大変だね。その蓋が空いたドリンク、どうしたのさ。」
「トイレに流したあと、外の自販機の捨て場に捨てました。家に置いとくと何があるか。」
「んまぁそこまで警戒するよ、むしろ七畝さん安心しちゃった。また橘さんに寄っちゃうかと。」
「ないないないないないないないないないないないない。」
「分かった、分かったから……壊れたように呟かないでおくれよ。」
「それで先輩、どう思いますか?橘さんまだ俺の事好きなのか、ただ破滅させたいのか。」
「七畝さんとしてはね~ちょっっと違う考えかな。」
「ほう?」
「多分好き、に当てはまるんだろうけどさ。単なる好きだったら迷惑かけたり、無理矢理押し掛けはしないはずなんだけど。」
「そうっすよねぇ。」
「見方を変えたらさ?愛ゆえの暴走って可愛い感じになるけど。」
「暴走しすぎて今学年単位で睨まれてますが。」
「そこら辺加えて思うなら、どうしても欲しいって感じだよね~。数量限定の物を買いたいみたいな、どうしてもこれが食べたいみたいな。」
「……俺は物ですか?」
「もちろん七畝さんはそうじゃないよ?これでも料理アピールしたり、胃袋から掴もうと愛してるからね。」
「その件はすでに掴まれましたよ。」
「っしゃ。」
ぐっと拳を握る七畝さん。ずいぶん前に感じるけど、俺この人に告白されてたなぁ。あれかしらモテ期?いやもうモテは良い枯れてもいい。
「橘さんは津原くんを、どう見てるのかな。」
「どう、ですか。考えたこともないですね。俺は好きな人、まあ広く言えば人として見てましたが。」
「でも橘さんは君を置いて他を、はあ考えるだけで嫌になるけど。」
「俺と過ごすって感覚無かったでしょうね、だとしてあの行動ならおかしいですよ。」
「それがおかしくない、とすると?」
「……その答えは余りにも突拍子、それに現実だとしたら相当な相手じゃないすか。」
「それでも1つの選択になるじゃろ?七畝さん君よりは長生きだから、目を背けちゃう話だってポンポンしちゃうんだからさ。」
「お弁当ありがとうございました、箱は洗って返します。」
七畝さんの一言で、どこか見ないフリしていた可能性を考えてしまった。ここにこのままいれば、彼女は容赦なくそれを口に出すだろう。
だとすれば俺の二ヶ月が、全て馬鹿らしく思えてしまうから。
「んー帰っちゃうの?」
「ええ。用件は昼御飯でしたので、済んだらまた一人に戻らないといけません。」
「……終わったその思い出を、津原くんは大切にしているんだね。」
その一言を言われて、思わず七畝さんの胸ぐらを掴みそうになる自分がいた。まあそうはならんし、幸い近くの壁に手を叩きつけるだけだ。
「……俺があの日々を大切に?」
「だってそうじゃない?本当はそうだったかもを忘れて、悪いところはあったが良かったなんて思いたいんじゃないの。」
「そう、見えるんですか。」
「七畝さんはそう考えちゃうよ。そうじゃなきゃ、この場でさっきの続きをしようじゃないか。」
ほれ、と手を招く先輩。だがそれに乗るつもりは全く無かった。
「……初めてあなたといて、ここまで気分悪くなりましたよ。」
「嫌いになったかにゃ?」
「嫌いです、今この時なら橘さんと同じくらいね。」
「……」
「ご馳走さまでした、箱は朱音にでも渡します。」
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去ってく津原くんの背中が見えなくなった、だから我慢してた涙を溢す。だって無理じゃない?好きな人に嫌われたみたいでさ。
(嫌な立ち回りしちゃってるなぁ私。)
津原くんは口では橘さんを色々言ってるよ?でも顔見れば少しは分かっちゃう、それでもあの日々は良かったみたいな顔を。確かに今はもう好きじゃないんだろうけどさ。
きっと彼は、初恋の日々を心のどこかに綺麗に飾っているんだと思う。
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