第44話 誰に見られてるやらって

「俺ってそんな人気者じゃなかったよな、ただの学生Aのはずなんだが。」


「そうは言うが津原、お前の注目度は今や一位なんじゃないか。」


「嫌なんだが?」


「諦めろ。変な話しになるが、橘さんとあった時点でこうなる運命だったのかもな。」


「怖い怖い。」


なんて肝が冷える話をしてたって、腹が減るもんです。なのでご飯は食べますよええ、いやぁ生クリームが俺の唯一の味方だ。

もうずっと甘いもの食べてようかしら、それでまた甘さが切れたらまた甘いものを食べる。そうすると幸せが永遠に続くじゃん!


「なあ津原、友人として言っておくぞ。時折黙って地面を眺めるのはやめとけ。」


「何を言うか、これは精神の安定に必要なんだよ。」


「……そろそろ限界か。」


憐れむ目で俺を見る華狼。えぇ?俺そんなだろまだ、俺が本当に追い詰められたら白米に土かけるって。ふりかけ感覚で食すよ。


「まあ自分等の中に通じてる、可能性がある人物はいないと考えたいがな。」


「唯一繋がりが濃いのが浅原、次に俺だろ?んで華狼に……って序列つけたって意味はないか。俺が橘さんと繋がってるとか、意外性はあるがオチは最悪。」


「んー面白いとは思うが、それが実際に起きてたら二発殴る。」


「一発にしてくれませんかね。」


「これまでの苦労を考えろ。」


ふんっと鼻息荒く言う華狼、いやぁその件は本当にすみませんて。朝からご苦労かけてますよへへへ。


「へへへ肩でも揉みやしょうか。」


「今一発使っても良いか?」


「行使権じゃねえのよ、やめてくれ肉体も追い詰めないでくれ。」


うーん冗談は言えますね私。さて暗い話が立ち込めておりますが、一つくらい明るい話題はないかね。やなことたくさん幸せ一つ、これくらいが良い人生よ。


「そうだ華狼、俺バイト始めたいんだけど。」


「急だな。」


「情けねえ話なんだが、前は放課後色々やってて暇じゃなかったんだよ。でも今は家に帰ってのんびり、気付けば夜を迎えて寝るだけ。分かる?俺駄目になっちゃうの。」


「それでアルバイトか。部活はやらんのか?それも学生の楽しみだろう。」


「今の俺が学校に1分、いや1秒でもいたいと思いますか?」


「すまなかった。」


「それでさ、なんか良いバイト先とか知らんか?まあテスト終わった後になるし、先の話になるけどよ。」


「と言われてもだな、自分も帰宅部を謳歌している身だ。そういった知識はないな。」 


「だよな~良いとこねえかな。こうほら、座って時間が過ぎて給料が入るみたいな。」


「夢を見るな、現実はもっと厳しい。」


「今この現実以上じゃなきゃ、俺どこでも働けると思うんだよね。」


「まあ全員に……いや待て。この話は使えないか?」


「使う?華狼が俺を雇うってこと?」


「バカを言うな。この話、自分以外に話したか?」


「今ここでしか言ってな……あーそゆこと。これほど調度良い話題もなかったな。」


「言わずとももう伝わったな、後はどこで働くかだが。」


とここで華狼が念のためか、屋上のドア向こうを見に行った。これで聞き耳されてちゃ意味ないからな、戻ってきたところで話を続ける。


「この学校生徒が来ない場所で、俺たち二人以外に知られないようにか。遠くで探せばあるだろうが、ちょいとキツいなあ。」


「しかしそれで、どこの誰が漏らしてるか分かるやもだ。分かれば後は辞めて、近場に移せば平気だろう。」


「おぉうエゲつない発案、さすが華狼さんだぜ。」


さてこの二人しか知らないバイト話、これが漏れたら俺たち二人なのか第三者か。リスクも低いし楽にやれそうだ。


「だけど華狼さんや、俺たち二人だと狭い狭い世界になるぞ。お互いバイトへの知識0だ。」


「うーむ、だが今時検索すればいくらでもあるだろう。なんなら町を歩き、張り紙を見つけても良いかもしれん。」


「じゃあ次の休みにでも、隣町くらいに偵察行くか。テスト前の息抜きってな~。」


「ま、まあ良いだろう。」


さらっと遊びを取り付けて、昼休みの終わりをチャイムがお知らせする。教室に戻り残りの教科をこなすが、なんだか橘さんが俺を見てる。

何ですかね、あれか浅原との件を言いたいのかしら。いやこれ以上関わらないでほしい。


「じゃあ津原、ここの文呼んでくれ~。」


「はい。」


幸い席が遠くて助かってるが、放課後になればわからん。向こうから詰めて来たら俺は逃げるしかなく、それもまた周囲の悪評を買う可能性がある。

さて放課後になりまして、後は帰るだけとなった時間です。ひとまず荷物を纏めて立ち上がり、教室を後にする。


[調子どう。]


[変わらねえな、なんか睨まれた蛙って気分。]


[蛙は鶏肉の味らしい。]


[俺は食われねえよなめんな。]


[健闘を祈る。]


朱音なりの心配だと思いたいが。


「よお進士、調子どうだ!」


「おう才太、部活はどうだ。」


「身体を動かすのは楽しいぜ、進士も動けばスカッとするかもな。」


「お気遣い感謝だ。それより良いのか、少しでも練習しねえと選ばれないとか。」


「それよりもダチだ……まあ元気そうだな!何かあれば話せよ。」


じゃ、と手を振り去る才太。なんだあの爽やかイケメン、気遣いの天才かよ。


「泣かせてくれるぜ……」


「誰が?」


誰がって聞くあなたは誰なのよ、と振り向けば橘さん。いや背後にいつの間に立つんだ、人によっては肘で顔を殴られるぞ。背後に立つなって理由で。


「何か用ですか橘さん。」


「あのね津原くん、真祐美ちゃんとはどう?」


「どうってなんすか。浅原とはあんだけ喧嘩して、仲悪いのご存知でしょう?」


「でも真祐美ちゃんが言ってたよ?津原くんの家で遊んだって、楽しかったみたいだね。」


「浅原がですか?どんな理由か分かりませんが、俺を困らせたいだけじゃないですかね。」


「もしくは津原くんは私のって、アピールしてるのかもね。」


ふふっと笑う橘さん。しかし目は薄く開いていて、こちらの様子をしっかり観察してるみたいだ。あいにく事前にバレてるの知ってるから、そう簡単に動揺しねえから。


「はっはっはっ面白いですね。浅原と俺、犬と猿みたいな組み合わせが。」


「ねー面白いよね……本当に。」


「話はそれだけですか、特に何もなく疑われるのも心外です。帰りますね。」


「真祐美ちゃんが嘘ついてるってことかな。」


「じゃないですかね。」


「真祐美ちゃん言ってたよ~、相変わらず津原は駄目なところが多くて困るって。だからあたしが何とかしないととか。」


「あいつは俺の親か何かでしょうか。」


「……真祐美ちゃんの事で困ってないかな?私力になれると思うよ?」


「橘さんを困らせはしないですよ、お気遣いはありがとうございます。」


「無理しないでね……」


まだ言いたそうだが、これ以上嘘に付き合う必要もねえな。浅原と俺がどこまで通じてるか、そこは分かってないのか?ひとまず釘刺しに来たって所か。

歩きながらスマホを……と思ったが止めた。何故かって?背後の橘さんがまだ見てる、今この会話が終わってすぐ連絡をとるなら誰だろう。嘘か本当か確かめるべき相手に連絡するのがセオリー。


(ここですぐ連絡をとると、浅原との繋がりが疑われるかもしれん。この後すぐ浅原の所に戻られたら、俺からの連絡をチラ見されちまう。)


本当の狙いはそこかもな。なんて思いながら1度家に帰る事にする、スマホで求人を覗きながらのんびりとね。




「簡単に尻尾は掴めないか。」


笑う橘さんを俺は知らなかったけれど。

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