第42話 お勉強辛いで候う

「っだー疲れた。」


[何言ってんすか、まだノート開いただけっすよ。]


絶賛テレビ電話で見張られてる俺、この重たい一冊を開くのがどれだけ大変だったか。まあ心咲さん曰く始まってすらいないとの事、へーへー頑張らせてもらいますよ。

ゆうてお互い手元しか写してないし、これ母さん変わりに座らせても平気じゃね?


「はーい先生。」


[……まあいいっす、何からやるっすか。]


「ひとまず初日の」


なんて話をしながら勉強をしていく。内容?そんな事思い返したくもない。ただ言えることは、心咲さんは教えるのが上手いし、俺は限りなく勉強が嫌いってことだ。


「心咲さん教えるの上手いな、簡単に解けていくぞ。」


[普段から集中すれば、津原さんちゃんとできると思うっすよ。]


「いやいや無理。そういや最近学校どうよ、少しは楽しくなったか?」


[お父さんみたいっすね。そっすね、前よりは楽しいっすはい。今は皆さんと話したり、色々聞けたりして刺激的っす。]


「おーいいねお父さん安心したよ。」


[本当にパパって呼ぶっすよ。]


「俺が悪かったからそれは勘弁してくれ。」


ため息をつく心咲さん、まあ俺の儲けた会話時間が少しは効いてるらしい。いやあ俺ってば、不登校になりかけた子を救ったとか実は凄いんじゃねえの。


[ところで津原さん。]


「はいなんでござしょう。」


[孤立無援になりそうってのは、本当なんすか。]


「……ん?」


なんだそりゃ。そんな話し俺は華狼とかにしか……あーはいそうか。最近顔出してない理由とか、含めて伝えられたかもな。


「ちなみにその話し、どっから出ましたかね。」


[いわゆる図書室組のグループっすね。本来なら津原さんも入れるんすけど、気付いたらいなかったから入れてないっす。]


「あの日は忙しくてさ~心咲さんも平気そうだったし、場を壊すのも悪いと思って~。」


[ふっ。]


鼻で笑われたんだが。


[皆言ってたっすよ、逃げたなって。]


「失礼な奴らだ。」


[まあ自分は津原さんに恩があるっす、とやかく言わないっすよ。]


「その恩もこのテストが終わりゃ、綺麗に消え去るまんだが。」


[……津原さんて結構ドライっすよね。]


「そうか?そうかもな。橘さんと……てそこら辺の話しは興味ねえか。悪い忘れてくれ。」


[なんすかなんすか。恋愛話しなんてジャンル、女子なら飛び付くっすよ。]


「そんなもん?」


[そんなもんっす。実際自分は最近会ったばっかで、その橘さん?て人は名前しか知らないっすよ。こないだお見舞いも、バイトで行けなかったすから。]


「いやあの日は来ない方が良かったうん。つか病人の家にあれだけ来て、まあまあ疲れたっての。」


[っぱそっすよねー。]


良かった常識人だ。そういや心咲さんには話したことねえと思って、春頃の出会いと最近のお別れとそれからを簡潔に。


[へーそんな美人さんと津原さんが。]


「奇跡って言葉はこのためにあんのよ、俺も今考えたってありえねえとしか。」


[そこが恋の不思議さって奴じゃないすか、絶対無理でも飛び越えちゃうみたいなっす。]


「確かに笑わせようとしたバク転も、今じゃやる気にもならんし。」


[……なんすかそれ。]


「HAHAHA。」


[んで、まだ問題が解決してないってことすか。]


「あー、まあそうなるのかな。」


今日は終わり!と勉強の手を止めていたので、そのまま雑談に移行する俺たち。


「てか心咲さん平気なの?もう九時過ぎてますけど。」


[津原さん、9時に寝る高校生がいるんすか。]


「いやほら女子とかって、お肌が~と言いますじゃん。」


[このくらいなら……平気っすよ。]


「間があったぞおい。」


[それよりほら話すっす。]


「えー。」


と言われるが、今の段階だと空想の話が大きい。これが全部間違ってて勘違いだったら?もう向こうは何とも思ってなかったら?

俺はとんだ勘違い恥ずかしいお馬鹿野郎へと変身してしまう。そうはなりたくねえなぁ。


「いいか。この話しはフィクションであり実際の登場人物、団体名や施設名は架空の物として扱ってくれよ。」


[わ、分かったっす。]


そうして俺が風邪を引いた日に来た元カノさんの話し、学校では花が供えられてた話。どうやら橘さんは女神様で、俺は堕落させる悪魔だと。



「とまあここまでが、実際に起きたお話。」


[お、おぉう……す。]


「んでこっからは、あくまで考えの域をでない話だ。曰く橘さんは計算高く、俺を孤立させるために周りへ話をしているとか。」


[なんだか恐ろしくなったっすね。]


「存在も分からんファンクラブにとって、俺は邪魔なのは変わらん。そして俺が何かされるのは良いが、俺の周りに被害がいくのはお門違いだ。だから誰が何を考えてるか、それが分かるまで俺のスタンドプレイだな。」


[津原さんは、平気なんすか?]


「まあ橘さんと別れてからしばらく、一人の期間が長かったからなー。そこまで苦じゃねえ。」


[……]


「それに、これは作戦でもあるんだ。」


[作戦すか。]


「おうよ。俺が一人悲しそうに過ごす、すると首謀者橘さんはどう動くと思う?」


[えっと、津原さんに接触するすかね。]


「橘さんが何考えてるか知らんが、一人の俺を眺めて楽しむでもなんでもリアクションはある。だから一先ず向こうの罠に嵌まって、情けなく過ごすつもりだ。」


[なんか、嫌っすね。]


「まだどこまでしてくるやら。地味な嫌がらせなりお手紙ならだが、直接手を出すとは考えたくねえ。」


[じ、自分はクラスで一人っすし、色々陰口言われてるすから。津原さんと一緒でも平気っすよ?]


「……ねえ悲しいこと言ってるからやめな。いや気持ちはありがたいが、ただ解決させる時には力を借りるかもな。」


[そ、そっすか。]


「まあ全部憶測だ。明日学校に行けば案外、何も無かったりするかもしれん。」


[だと良いっすけど。何かあったら、遠慮無く頼ってほしいっす。]


「そっちがバイトじゃなければな。」


[うっ。]


「まあ時間も遅い、ここまで助かった。次はいつになる?」


[えーっとすね、明後日ならいけるっす。] 


「じゃあそれで。お世話になりましたぜ先生。」


[それじゃっす。]


とまあ明るく会話を終えたんだが、正直これからの俺に何が降りかかるやら。上履きとか隠されたらどうしよう、教科書捨てられたら買い直すの高いんだよなぁ。

つか俺に用があんなら、直接言いにくりゃいいと思うのは違うんかな。あれか?恥ずかしいとか考えてんのか。そもそも橘さんがそこまでの人なのか。


「……寝よう。」


全てを明日に託した俺は睡眠を選ぶ。なんせ起きてても嫌な考えしか浮かばんし、そうすると俺の気持ちも浮かばん。あと眠い。




明日が平和でありますように。

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