第41話 現実は小説よりってね

「まあ仲間が多い方が助かるが、人数いてこの事件終わるぅ?」


「津原、悩みは分かるがそう悲観するな。少なくともあの学校に六人くらいは、お前の味方がいる。」


「逆を言えば……て考えない方がいいわね。」


「とにかく睨まれて生きるのはよ、ぶっちゃけ橘さんといた時に慣れたんだ。悲しくもそこは問題じゃねえ。」


「お、おおう。」


「そ、そうなのね。じゃあ何が問題なのよ。」


「俺以外と、もし嫌がらせとか始まった場合だ。」


別に俺はどうなってもって感じだが、今の俺は幸運にも周りがいる。そこに迷惑がかかるようじゃ、問題をどうにかしないといけねえ。

そう思うと橘さんといた時より、今の俺はだいぶ人に恵まれたもんだな。あのまま付き合ってたら、橘さん以外と関わることはなかったはずだ。


「今思えば別れてからここまで、ずいぶん上手く回ってるもんだ。」


「どういうことだ?」


「菫と離れて、気づいたらあんたの周り賑やかだったわね。」


「華狼と会ったのも離れた後、前の友達とも話し出して先輩に心咲さんときた。数で言われりゃ少ないが、片手程の相手ができたら上出来だろ。」


「まあそうだな。仮に津原が付き合ったままなら、バスの座席も話すきっかけも変わったろう。」


「あたしはどこまでも馬鹿で、きっと救われない人間だったわ。」


「そろそろ自虐やめとけよ浅原、んで折角できた今を壊されるのだけが怖いもんだ。」


「そうなると難しいな。しかしそこまで過激に、目立つような真似はしないだろう。」


「じゃあバレないように呼び出して、しめる可能性はあるわけね。」


「しめるってお前……まあ調子に乗るなって言われんだろうな。でもさぁ俺何もしてないぜ?もう話してもいねえし。」


「津原がしなくても」


「菫が動くと」


「無理って訳か。どうすっかねえ、お願いしてみる?俺の名前を出すんじゃねえって。」


「脅迫みたいな発言だな。」


「効果は出そうだけれど、それで菫が泣いたら大変ね。あんた以外泣かせる相手いないでしょ。」


「悔しいが橘さんを泣かせるのは、俺しかいないだろうな。」


「中々聞かない台詞だな。」


え~考えるほどめんどくさい、もう不登校になろうかな。部屋でネトゲでも初めて、世界救っとく方がもしかして有意義なんじゃね。


「俺タンク職に憧れてんだよね。」


「急に何よ。」


「津原よ、悲しいが今お前はリアルタンクしてるぞ。」


「おお華狼、この言語が分かるとはやるな。」


「なんなのよ……」


「実際どうするかね。浅原からやんわりとさ、橘さんを何とか」


「それができたら、昨日の訪問だって止めれたわ。」


「あーじゃあ華狼がこう根回しして」


「すまんが他を当たってくれ。」


「んーじゃあ俺が不登校になって」


「「なし。」」


「……詰みですね。」


こうして考えても暗い案しかねえ、どうするのが正解なのかなぁ。


「とにかく要点はこうだな。俺は一部橘さんファンから悪魔とされ、まだ実害はないが睨まれてる。そして俺といると巻き込まれ、何されるかわかんねえと。」


「そしてこの状況が偶然か、作られたものかも定かではない。仮に狙われたものならば、これからを警戒した方が良いだろう。」


「もし菫のゴールがあんたとの復縁で、あんたを一人にするって計画なら確かにね。あたし達図書室組に何があるかって、考えたくないけれど。」


「本当に橘さんがね~あるのかね~。」


「……あんた能天気じゃない?」


「そうか?だってやることは決まってる。俺がこれから一人で過ごして、一人で卒業すりゃいいんだろ?」


「覚悟決まりすぎではないか。それに言葉で簡単に言えるが、中々辛いものだと思うぞ。」


「間違いがない方法で、しかも迷惑もかからねえじゃんか。それによ、俺が一人になることが目標なら釣れるかもしれねえ。」


「なるほどな……だが素直に頷けるものではない。津原を見捨てるような真似だ。」


「気分は良くないわね。」


「それでも他に思い付かん。一緒に睨まれてくれるなら、俺は歓迎するぜ。」


そう言うと二人とも言葉に詰まる、そらそうだろな。誰とも知らない他人に敵意を向けられる、しかもいつ解決するか不明だし。


「いっそ橘さんに新しい彼氏とかできたら、綺麗に終わったりしねえか。」


「どうだろうな。ここまでが描かれたものなら、津原へのそれは執着とも呼べる。」


「そもそもあんた、そんなに菫に好かれてたのね。あたしも何だかんだ側にいて、そこまでと思わなかったわ。」


「それは俺だってそうだ。なんで俺なのよ、もっといい奴いるだろ……そうだ浅原、イケメン集めて橘さんとお見合いイベントとか。」


「無茶言わないで、と言いたいわね。確かに菫とって考える人はいるでしょうけど、菫がってなると難しいと思うわ。」


「そこでまた津原の名前が出たら、事はさらに面倒になりそうだな。いっそ津原が新しい恋をすれば」


「そしたら俺も含めて、彼女まで狙われるんじゃね?ここまで計画犯なら。」


つか橘さんをヤベー奴として話してるが、まだその確証もないしな。たまたまが偶然に重なって、全部が運で片付くかもしらん。


「ひとまず今日は、確認したって事で終わろうや。人を疑うのも疲れるし、明日からを考えても疲れるしよ。」


と俺が立ち上がると、かすかにドア前から足音がしたような。色々嫌なこと考えて、神経が逆立ってんのかもな。つか誰か帰ってんのか?


「悪いな津原、あまり力になれなかった。」


「あたしは菫を見ておくわ、何かあれば知らせる。」


「ひとまずお前らが味方なのを祈るよ。」


そうして二人を帰す。家には静寂だけが残り、俺も部屋でのんびりする予定だ。と考えていた俺のスマホが震え出す、どうしたお前も悲しいのか?

んなわけねえか。と画面を確認すると通話がかかってきてた。でも知らない番号だな……出なくてもいい気がしてきた。


[津原さーん。]


と思ってたら心咲さんからのメッセージ、うんこれはそういうことかな。


「もしもし。」


[おー繋がったっす。お疲れっす。]


「何かありました?てか番号どこで……」


[番号は朱音さんが教えてくれたっす。]


あいつなんて事を。


「それで何のようです?」


[そりゃもちろん勉強っすよ。]


「へ?」


[なんか津原さん大変って聞いたっす、それで通話ならと思ったっすよ。]


「俺は良いですがそっちは平気なんですか?仕事もあるでしょうし。」


[これならいつでも教えれるっす。]


「いやーありがたいです。」


[ビデオ通話とかも平気すか?解き方とか、見せた方が早いのもあるっす。]


「あーもう全然良いですよ、先生の言う通りにしますから。」


[……なんで敬語なんすか。]


「通話だとなんかさ、こうならない?」


[あー。]


「まあ心咲さんが良いなら崩しますよ。」


[さん付けもなしっす。]


「えー。」


[えーもなしっす。]


「まあ夕飯もあるし、食後お願いしますよ先生。」


[自分もかけといてあれすけど、ごはん食べるっす。]


「後でこっちからかけるとする。」


[それは助かるっす、お待ちしてるっすよー。]


そういや勉強忘れてた、教わらないと俺ヤバイんだった。だがこうして家でやれるなら、今の俺にはとてもありがたい話だ。




「家で女子とビデオ通話……」


本当どうなってんだ俺。

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