第40話 人の表と裏って難しい

「あら、一人じゃなかったのね。」


「まあな。」


「同じクラスにいると、津原の追い込まれっぷりに目を瞑れなくてな。」


「ね、ねえそんな酷いの?大丈夫なのあんた。」


「俺一人じゃ分かんなかった、て言えばどれくらいか分かるか。」


「今は平気な顔してるが、この裏で一度死んだような顔していたぞ。それはもう放っておけないほどに。」


「……菫の件でここまで。」


「まあさっさと離れようや。学校回りってなると、もしかしたらがあるから。」


「何よそれ。」


「自分らも悪魔になってしまうな。」


「???」


一人状況を理解してない浅原を置いて、ひとまず足を動かす俺達。さて歩いちゃいるが誰もいないよな?だがここで振り返って見たら、なんか負けな気がすんだよなぁ。


「……ねぇ華狼。」


「なんだ浅原さん。」


「あいつなにそわそわしてんの?」


「人気者は辛い、という奴だろう。」


「???」


俺が可哀想な奴に見えるだろう、違うんだとっても気が小さい男なんだ。そこらに転がる石ころのような、普通男子に嫉妬レターは十分な攻撃になっている。

急ぎ足で進んでいく俺達の間には、特に会話もなくさっさと家についた。


「きょ、今日は橘さん来ねえだろうな。」


「流石にないと思うけれど。」


「まあ落ち着け津原。」


どおどおと諭され、ひとまず落ち着く事にする俺。そうだ焦るな、まだ冷静でいるべき時間だ。家にはまだ誰も帰ってきてないようで、静かな室内を通りすぎ自室へ向かう。


「なんか飲み物でも……あ。」


冷蔵庫からお茶をとりつつ、そういや何か貰ったなと思い出した。人数分のコップも持ちながら、部屋へと向かう。やっと落ち着ける俺。


「はぁ~。」


「お疲れだ津原。」


「な、なんか大変だったのね。」


「まあ軽くまとめて話すけどな」


と切り出し俺は朝からの一連の、悪夢と言える物語を話していく。変な奴らに橘さんは女神扱いされてる事、そして俺は堕落の悪魔であるらしいこと。

小さな嫌がらせが見られるが、まだ実害がないのだけは幸いだ。そのうち上履きとか隠されるのかなぁ。


「……本当にそんなことがあったの?」


「なんだよ疑うのかよ夢かも知らん。」


「自信をもて津原。お前は確かに狙われ、明確に敵意を向けられてるぞ。」


「あーうん、今一番欲しくない言葉ありがとう。」


「菫に、その、ファン的な人達が?」


「まあ可愛く言えばファンクラブだろうな、宗教に足突っ込んでねえと思うが。」


「浅原さん、中学の頃に似た事は無かったのか?」


「無かったわよ。そもそも1学生に、そんなクラブができるなんて。」


「だよなぁそう思うよなぁ。まあ一応、有名人ではあるよな橘さん。」


「美人だなんだと、最初の頃は見物人もいた記憶がある。」


「へぇ菫ってそんなに人気あったのね。」


「……お前無頓着じゃねえか?」


「あの時はほら、菫本人を守るのに必死だったのよ。」


「自分の記憶ではそうだな、他学年もいたと思うぞ。新入生を見に来ると言われても、あれは以上だったかもな。」


「学校1の美人だとか?そんな話しになってんのかねえ。」


今更ながら、俺もあんま橘さんを知らないと知った。まあ一目惚れからの告白まで、周りも見ずに爆走してたからな。

と会話合間に飲み物を口に運ぼうと、貰ったものを鞄から出す事に。スポドリかぁ甘そうだな、と蓋を捻ると簡単に開いた。


「……ん?」


「どうした津原、橘さんから貰った物だろうそれ。」


「菫が渡したの?」


「いやそうなんだが、ほれ華狼。」


少しさわった蓋を戻してパス、受け取った華狼はなんだと視線を向けてくる。


「蓋開けてみろよ。」


「何を言う、今自身が開けていただろう。」


「軽く捻っただけ、普通ならぱきって音すんだろ?」


「……言いたいことが、何となく分かりはした。」


「ちょっと何よ、それが苦手とか?あたしが飲んだ方がいい?」


「待て待て浅原、お前買った飲み物が簡単に開いたら怖くねえか。」


「浅原さん、普通新品はきつく絞めてあるはずだ。」


「それは菫が開けておいて、あんたがすぐ飲めるようにしたんじゃないの。」


「昨日渡せなかった奴らしい。日を跨いでまで、開けたドリンク渡すかねえ。」


「そこは菫の優しさじゃないの。どっかでタイミングがあれば、渡さなきゃって感じの。」


「人から貰うものが既に開いている、これは病人とはいえ気になるだろう。そこに気づかぬ橘さんなのか?」


「菫は確かに抜けてるかも、でも気遣いはできる子よ。」


「なら疑うべきだな。蓋が開けられたドリンク、ずっと渡すタイミングを見ていたブツ。」


「……何が言いたいのよ。」


「あまり怖がらせたくないが、こういった濁る飲み物に薬でも混ざったとて見えないだろうな。」


「ちょっと物騒な話だなぁ。あり得ると思う?どうよ?」


「な、ないわよ!そこまで言うなら、あたしが飲むわよ!」


「……危険だと思うが、浅原さんも友達のためだろう。」


スッと浅原にドリンクを渡す華狼、少し戸惑いながら受け取る浅原。え本気で飲むのやめとけって、仮説とはいえ何があるかわかんねえぞ。


「「「……」」」


誰も話さない沈黙、ただ物事の進行を見るだけの時間が進んでいく。


「ねえ。」


「なんだ浅原。」


「どうしたのだ浅原さん。」


「とりあえず止めていいかしら。」


だよねーと華狼と目で語る。ひとまずドリンクは真ん中に置いて、会話を戻すとする。


「とにかく今後俺は、顔も知らん奴らに何かされるだろって話だ。」


「それって菫に言えば、何とかしてくれないかしら。」


「逆効果だろう。むしろ津原が何か言ったかと、更なる敵意が膨らむ可能性もある。」


「ったくなんで綺麗に終わったはずなのに、こうも後から問題が出てくんだよ。」


「「綺麗に……?」」


なんだ二人してそんな目で、綺麗に終わりましたってまじで。コクった場所に呼び出してしっかり合意して、その上でお互い幸せになろうって、うんそんな感じだったはず。


「とりあえずここで、一つの疑問を解消していいか。」


「何よ、この状況より気になることがあるの?」


「あるさ。浅原、お前どっち側だ。」


「どういうこと、なんて聞かなくても分かるわね。」


「自分も気にはなっている。これまでの交友を考えても、昨日の突撃も実はと考えてしまうだろう。」


「昨日の件ならこれを見て解決すると思うわ。」


とスマホを見せてくる浅原。そこには俺の心配と見舞いを訴える橘さんと、それを止めなんとか収めようとする浅原のやり取りがある。

だがまぁ信用できるか、となると難しいわな。お互い打合せしてメッセージをやり取りし、今こうして潜り込んでいる可能性もある。


「……こっぴどく俺に言われて、それでもこうして会う事については。」


「まあ普通ならあんたとあたし、菫がいない時点でもう接点もないわよね。何て言えばいいのかしら……他の価値観を見たくなったと言えば伝わるかしら。」


「これまでの橘さん世界を捨て、嫌われてる津原に話しかけるほどか?」


「あたしが馬鹿な時に、あんたは嫌味とは言え正しいことを言っていたわ。」


「嫌味は伝わってたのか良かった。」


「何も知らないあたしが、少しでも普通になるなら。あたしの知り合いで一番普通な、あんたといるのが良いかもって。」


「……誉めてる?」


「自分勝手でしょう?あたし菫に構いすぎて、何が正しいのか分からなかったの。それでいざ離れて、誰も周りにいないの。笑えちゃうわ。」


「自分は知らないが、かなり尖った性格だったと聞く。」


「そうして菫以外に浮かんだのはあんた、あたしが馬鹿な時期に知り合ったあんただけ。でも話しかけるったって何を話せば良いのか、ひとまず謝るってことを実践したわ。」


「んで俺はそれを聞いて、俺もお前も他人になって顔も合わせないだろうと。だから嫌な記憶引きずるのも疲れるし、完全に0で仕切り直しだって提案したわな。」


「正直それ言われて、何も言い返せなかったわ。けれどこのまま一人になったら、あたし何も分からないと思ったの。不思議だけれど、あんたも菫もいないあたしが想像できなくて。」


「津原も相当だが、浅原さんも相当だな。」


「「うるさい。」」 


「……で、失くしちゃいけないかもって。だからあんたの友達に謝る必要もあったから、色々考えて今に至るわ。」


「はしょったなこいつ。」


「最初は菫の力に、なんて時期もあったこと認めるわ。けれど今は、あんたと周りとの時間が楽しい自分がいるの。壊したくないわ、それに菫は自分でやるって言っていたの。横やりなんていれないわ。」


「津原、ひとまず疑うことは止めるとしないか?今の津原には、一人でも敵じゃないと思える相手が必要だろう。」


「……まあ良いか。」


なんか難しい話しになっちまったが、ようはあれだろ?浅原の本音までは読めねえけど、少なくとも橘さんの一人立ちは邪魔する奴じゃねえ。


「てか何、橘さんそんな宣言してんの?」


「諦めないとか、まずはお友達かららしいわよ。」


「お断りだよ。」


「バッサリだな。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




[へえ、真祐美ちゃんがいるんだ。]


[部屋で3人でいるみたい。]


[そっかそっか、少しでも会話が聞こえたら教えてね。]


不穏な会話、津原たちは静かに帰ってきた人物に気づいてないだろう。





[よろしくね日葵ちゃん。]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る