もしも話 これは全部風邪のせい

「津原くん……平気?」


「た、橘さん。」


俺が風邪を引いて休んだ次の日、何故か別れたはずの元カノさんがやって来た。いやいやおかしいだろ、つかよく来れたね俺なら行かないよ。


「様子気になっちゃって、顔色は良さそうだね。」


「ま、まあ寝たら良くなったから。」


「そっか良かった。」


そう言って微笑む橘さん、何故か動揺する俺。これは風邪に浮かされた、気の迷いだと思うんだが。ほらあるじゃん?弱ってるとき良くされると、なんか好きになる奴。


「えっと……あがっても良かったり、する?」


「あ、ああどうぞ。」


色々考えてる所に言われた提案、思わず了承しちまった。改めてメンタル凄いな君尊敬しちゃうわ。そうして二人で俺の部屋に、あれ?まずくないこれ?


「あれだけ一緒にいたのに、お部屋は初めてだね。」


「まあいっつも女子で、なんか話してたもんな。」


「ずっと津原くんを一人にして……よくないことしてたって分かったよ。」


唐突に始まった反省会を聞きながら、俺はこの状況をどうするか悩んでいた。元カノと2人で俺は病み上がりで、正直頭がまだ混乱してる。


「まあもう終わった関係だし、気にすることないだろ。」


「だとしてもかな。もういいからって、言わないのは違うと思うの。」


「そんなもんか。」


「そんなもんだよ。」


待て待て部屋に女子と二人だぁ?しかもしっとりな雰囲気だし、誰か助けてくれ!あと一人マトモな奴来てくれー!!


「……ねえ津原くん、津原くんは今幸せかな。」


「まあ憑き物が落ちたってか、気楽にはなれたかな。幸せってのは分からんけど。」


「そっか。」


とたんに下を向く橘さん。おや攻めすぎたか?憑き物は言い過ぎたか~いやこれまでの発言よりは、すげー優しいと思うんだが。


「あっ忘れてた!はい津原くん、これどうぞ。」


「あっどうもご親切に。」


その手にあるはスポドリ、風邪の相棒レベルにありがたいが……これ受け取った瞬間なにか発生しないよな。急に怖いお兄さんとか来ない?


「ちゃんと水分とらないとね。」


「お、おうありがとう。いくらだ、ちゃんと払う。」


「いいよこれくらい。」


「でもなぁ後腐れない方が」


「まあまあ飲んじゃって。」


そう言われ飲む俺。飲んだ後で気づいた、渡されたペットボトルの蓋が元から空いてた事に。なんか軽く空いたと思ったんだよな~ははは。


「……」


なんかその様子をじっと見てくる橘さん。穴が開くほどってこんな感じか、いや変に見られると飲みずらいんだが。


「あ、ありがとう橘さん。美味しかったよ。」


「ちゃんと飲めたね……良かった。」


ふと微笑む彼女の顔に、何故か妙に惹き付けられる。なんだ?熱がぶり返したか。ボーッとする気が、寝ないとマズイ。


「な、なあ橘さ、ん。」


「どうしたの?津原くん。」


そう言って首をかしげる彼女。何故だ目線が離せない、俺は何かされ


「津原くんどうしたの?ちょっとごめんね。」


まるで小さい子の熱を測るように、おでこを合わせてくる橘さん。思わずその唇に目が奪われる……近い近いやめろなんだこれ。


「ちょっと熱が……あっ。」


橘さんも気づいたのか、至近距離での見つめあいが続いてしまう。聞こえるのは二人の呼吸音くらい、変に汗が吹き出す。緊張してるのがバレバレだな。


「……津原くんが良いなら、いいよ。」


「な、なにを」


橘さんが目をつぶる、いわゆる待ちの姿勢だ。ここまでされて分からない男もいない、でも俺はこの人とはもう終わってて。でもこうしてお見舞いに来るほど好かれてて、俺の気持ちはドウナッテル。


「むー!津原くんの意気地無し。」


「い、いやだって俺達、そんな関係じゃないし。」


「お堅いよ津原くん。海外じゃ挨拶変わりに、チューするって聞いたことあるし。」


「ここ日本なんだが。」


「……でもまあいっか。その顔見れて、満足した。」


そして離れる橘さん、あれだ小悪魔みてえな笑い顔。


「じゃね津原くん、今度は我慢しちゃやだよ。」


バイバイ、と家から出ていった彼女。部屋に残ったのは妙な空気と、果てしなく動揺した俺。そして貰ったドリンクの空ボトルだけだった。




「ふふ……次は我慢できるかな♪」




これはあの日、他に誰もこなかった場合の話である。

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