第39話 もしもの話は盛り上がる

「いやいやいやいや。」


「いやいやいやいや。」


「「いやいやいやいや。」」


まさかの話が飛び出しました。もしかしたら元カノさんが、とても悪どい人かもしれないとの事です。


「仮にもお前友達だろ、言っちゃ駄目なラインあるじゃん。」


「そうだけれど、短期間に同じ様なことが続いたのよ?それに間違ったことをしてるなら、止めないと。」


「おーおーご立派なことで。だが考えてみろよ、橘さんそこまで頭が回るのか?」


「……今のは聞き流すわ。そうね、あの子は少し抜けてるとは思うわ。けれど学力は高いし」


「学力の高さイコールは怪しいぞ、頭が良くても会話とか人付き合いとか。それこそ今回みたいに人を操る?のは訳が違うだろ。」


「少なくとも頭は良いと思うわ。」


「あーあとあれ。友達にだからこそ隠す、ヤバイ1面とか。今回なんてそれだろ真実なら。」


「なんだか楽しくなってきたわね。」


屋上でなーにやってんだ俺ら。浅原は一人で盛り上がってきたし、俺は俺でもしかしてを考えはするが……ねえだろ。ただ後先考えてないだけだと思うが。


「じゃあ考えられる説を挙げていきましょう。」


「なあ、それ昼休みで終わるか?」


「今出して、放課後にでも考えを話しましょう。」


「俺たちそんな仲良くないはずですけど。」


「あら、じゃあ一人で頭を抱える?良いのよ菫の一人勝ちだったとしてもあたしは。」


何を勝ち誇ったような顔してんだ浅原、改めて確認したいがお前の友達を疑い尽くすんだぞ。人の心はないのか貴様。最近取り戻した説あるしなこいつ。


「ワーサハラサンオネガイシマスー。」


「腹立つわね。」


「それで説とやらだが、そっちはどんなのがあんだ。俺はそうだな、後先考えてない説と前も聞いてくれたから話しちゃった説。」


「あたしは知略巡る囲い込み説、もしくは酷い別れ方された復讐ね。」


「後者ならお前も標的になるんじゃ」


「あらもう時間ねじゃあ放課後にでも。」


おい逃げやがった。復讐ねぇ、まあ一番現実味があるっちゃあるな。この私を!て俺を困らせる戦法ってわけだ。効果抜群なのは言わずもがな。

戻らないわけにいかんし、しぶしぶクラスに戻る俺。席に座り教科書を出そうと引き出しに手を入れ、おや新しいお手紙が届いてますわね。


[コレ以上メガミを困ラせるな。]


「女神……?」


確かに女神と書いてある。いや正確にはカタカナだし、なんなら一人一文字担当したように書き方もバラバラだ。つまりこれは何人もの生徒が、一枚の紙に込めれるだけの怨念を入れたわけだ。


「津原どうし……またか。しかも朝の物ではないな、なんと書いてあったのだ。」


「あーこれな。ラブレターみたいなもんさ、これ以上女神を困らせるなとさ。」


「女神?いつの間に信仰の話に、いや違うか。」


「ああ違う。こいつらの崇拝はきっと、このクラスのあの人だろうよ。」


「そして神を困らせる悪魔の登場か、面白くはないだろうな。」


「おい誰が悪魔だ。」


「物の例えだが、向こうはそう思ってるのだろう。」


「ですよねー。だがこれでハッキリした、知略ではなかったことがな。」


「む?」


「いやなんでもない。早く離れとけ、お前も悪魔になっちまうぞ。」


「自分は気にしないのだが……無理も無茶もするな。その時は一言声をかけろ。」


「おーお優しい涙が出てきたぜ。」


「茶化す元気はあるようだな。」


そうして華狼は席に戻った。素人が言うと寒く聞こえるかもだが、視線て奴を感じたもんでな。ちらっと見返しゃ五人程の男女、女子まで崇拝してんのかよ。


[調子どう。]


[だいたい原因はわかった。あとは解決策だな。]


[無茶する気?]


[する必要があるならするさ。]


[馬鹿。]


朱音さんに釘刺されちまったよ。


[ちょい津原くんや。]


[はいなんすか先輩。]


[なんだかこっちでも、気のせいか君の名前が聞こえるよ。]


[え、上級生の所でもですか。]


[うんうん。愛しのなんたらを汚すおんたらみたいな。]


[あーうんだいたい分かりました。]


[気を付けたまへよ。何かあればこの七畝、駆けつけてみせますぞ。]


[肝に刻んどきますよ。]


なんだか大事だなぁ、アイドルと熱愛したわけでもねぇのに。実際そんな感覚なのか?ただここまで話が出来すぎてると……まさかな。

考えてもみよう。橘さんは今年入学した、確かに噂にもなっていた。美人がこのクラスにって、他所からもそりゃ見に来る奴がいたさ。


(たった3ヶ月くらいで、仮にファンクラブと名付けよう。そんな組織を組めるのか?しかも学年を飛び越えて。)


今俺は見えない敵に監視され、人数も年上かも分からない奴らが相手になってる。確かに頼れる知り合いはいるが、敵の親しい奴も敵なんて言われちゃ孤独でいるのが一番安心できる。

つまりこれが終わらない限り、俺はこの学校でたった一人の男である。マズイな……こないだの校外学習みてぇに班やら団体で動く際、俺以外が敵だとどうなる?


(なんだこれ、考える程まるでゆっくりと締め上げられるような。)


今の俺は首を絞められ、ゆっくりと窒息している感覚だ。俺が休んだ事が引き金なのか、前からコレは進んでいたのか。そして何より


(この話を作ったのは、誰なんだ?)


幸い放課後になり、個人で活動する分には人を巻き込まないだろう。だが心咲さんに勉強見てもらわんとだし、他の奴らにも事情くらいは話さないといかん。

そういやこんな事態になってるが、橘さんはどこだ?昨日家まで来たが、学校じゃ一言も話しかけられてないな。


チラッと見れば登校はしてるし、普通通りに過ごしている気がする。そして目線が合った、ホッとしたような顔をして前を見直す。

昨日押し掛けてしまったから遠慮してる……?それか俺の事態を理解していて、酷くならないよう距離を置いている?何を考えている?


(不味いぞ。橘さんばかり考えて、鈍っている気がする。)


どこまでが作戦だそもそも作戦なのか俺は踊ってるだけなのか見えない糸が俺の四肢を


「……はら、津原!」


「お、おう。」


気づけば放課後。華狼が心配そうにこちらを見て、声をかけてくれたみたいだ。そして動いてもねえのに、汗が吹き出していた。


「わ、わりぃな華狼。ちょっと考えてたんだ。」


「……津原、自分は言ったはずだ。協力も相談も聞く、友達の困り顔は見ているこちらも嫌な気持ちだ。」


「ったく、素晴らしい友情に乾杯したいぜ。」


「津原気づいているか。今のお前は、冗談を言っていても笑えていないぞ。」


言われて思わず顔を確かめる。見るからに困っていて、助けてくれって顔をした冴えない男。こりゃ誰でも声かけたくなるかもな。


「……俺が思うより、俺は追い詰められてるのかもな。」


「なあ津」


「悪い華狼、今日はこの悩み持ち帰る。話せない訳じゃない、ただ今の俺は思ってるより冷静じゃない。」


「それなら津原、この後時間はあるか?」


「あああるさ。それこそ部屋で閉じ籠って、熟考するくらいにはな。」


「ならばまたお邪魔するぞ。」


「……そう来たか。ったく最近知り合った奴とは思えないくらい、ズカズカ来やがる。」


「あいにく自分も暇なのだ、それにこの前の続きも読みたい。」


最もらしい理由をつけながら、華狼の優しさが胸に染みるところだ。そうだ心咲さん……て俺連絡先知らねえな。朱音に頼んで無かったことにって、話を通してもらうか。頼んだ朱音!


[あんた平気?]


気づけば浅原からメッセージ、ドア付近を見れば少し顔をだし覗く浅原。何故か橘さんにバレないようにって感じだ。


[何してんのお前。]


[だって気まずいじゃない。昨日の今日でまた会ってたら、菫になんて言われるか。]


[あー。一応先に言っとく、原因はわかった。]


[あらそう。]


[学校でて左に進めばコンビニがあるはずだ、そこで合流はどうだ。]


[それ良いわ、じゃあお先に。]


なんで乗り気なんだあいつ。華狼を連れて教室を出て下駄箱へ、と思ったら後ろから足音が。


「津原くん、昨日はごめんなさい。治ったならよかった。」


「おお橘さんどうもご丁寧にそれじゃあ。」


「あっ待って。」


そう言って持っていたものを差し出す橘さん。なんだ爆弾か何か?と思ったらスポーツドリンクだった。


「えへへ、昨日私忘れちゃって……少しでも元気になってね。」

 

「ああどうもそれじゃあ。」




呼び止めてまでの用事か?と思いながら俺たちは学校を後にした。

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