第37話 厄介は波のように

「どういうことなの真祐美ちゃん!」


「ちょ、ちょっと菫落ち着いて。」 


[じゃああれは置いといて。]


「それで進士!」


「どうして彼女がここに?」


「なあ津原よ、ここの漫画読んでもいいか?」


「うーん困った。」


喧嘩二人、興味あり三人漫画一人。ここはとても賑やかな場所です、俺はこんなの望んではいませんがね!

とりあえず浅原と橘さんが盛り上がってるから、この子達は部屋に置いておこう。


「頑張れよ浅原、俺は馴染みに説明してくるわ。華狼よ漫画は持っていけ、全員リビングに移動。」


「たすけ」


「真祐美ちゃんてば!」


すまんな、自分の安全に精一杯なんだ。リビングでは母親が夕飯の準備をしているところだった。


「あらあんたどうしたの。」


「なんか二人で話したいらしいから、それ以外で降りてきただけ。母さんは気にしないでくれ。」


「あらそう、みんなゆっくりしてていいからね。」


母の言葉に頷きながら、五人でのんびりできるソファーに移動。テレビと堕落を合わせたこの組み合わせ、父に感謝である。


「華狼は読んでて良いぞ。さて三人とも、質問したまへ。この津原が答えてしんぜよう。」


[偉そうにするな。]


なんだよ人がテンション上げてたのに、にしてもそんなに話すことねえよなあ。


「短縮して話すが、俺の病欠をクラスで知った向こうが暴走した。分かりやすいだろ?はい終わり解散!」


「すげえ簡単だな!俺は分かったぞ!」


[省きすぎだぞ。]


「……なあ進士、お前にその気持ちはもう無いんだろ?」


「あっったりまえだろ血を見たいか?」


「すまん。つまりあれか?向こうはまだ、なのか。」


「まだなのか!そうか大変だな!」


[分かってから話せ運動部。]


「あれってなんだ高志、変に溜めずにちゃっちゃと」


「まだ好きと言いたいんだろう。」


外野の漫画男が何か言ってきた。何をおっしゃるのあなた?そんなこと欠片も考えたことなかったんだが。ありえないないないない。


「冗談だろお前ら、俺こっぴどく別れたから一ミリもないと思うぞ。」


「認めろ進士。普通嫌いな男なら、心配も突撃もされないはずだ。」


「だとして迷惑でしかないが。」


「進士は好かれてるんだな!分かったぞ!」


[鈍いとかじゃなく、完全に排除してたのかその道を。]


「まあ津原の心情を察せばこそだな。一番考えられるのに、一番考えたくないものだ。」


「なあまだ夢でも見てるかもしらん……誰か俺を殴ってく」


容赦ない拳二秒前、生命維持のため避けた俺偉いと思うんだよね。


[おい動くなよ。]


「分かった今の危機感は本物だ。悪かった見逃してくれ、にしても嫌な話だなぁ。」


「無理もない進士、そこでこれだ!この全話セット特典映像付きサマルたんを見れば現実など」


「高志!相変わらず熱があるな!道連れはやめとけ!」


道連れとは言ったが、こんな現実を忘れられるならどっぷり浸かりたい。何の間違いだよ……つかどうしてそうなる?なんで俺なの?


「分かった!こんな美しい私がフラれるなんて、とムキになってんだ!全て解決したぞ。」


「「ないな。」」


「まだ熱あるのか!」


[さすがに否定。]


「えぇ、なんだよお前ら友達だろ。ここは俺を応援するとこだろ、もしくはそうだねって俺を安心させてくれ。」


「面倒な奴だな……だが進士、それを知ったところで何も変わらんだろ?それともあれか、美少女に好かれてときめいたか。」


[おいおい恋愛ゲームじゃねえの。]


「だが津原がそんなロマンス脳と、この場の全員が思ってないのは事実だな。」


「分かってるじゃねえか。態度なんて変わってたまるか、俺は俺だ。酷い目に遭った交際期間は消えねえし、この気持ちに嘘はねえ。」


そこだけは譲れない。周りや親身な奴からどう見られようが、大事な根っこの気持ちは変えない。俺は別れてスッキリしてる、向こうからまた告白されようが全て打ち返す。


「ひとまずあれだな!橘さんの固執も理由があったか!」


「とりあえず進士。お前は好かれてる、よっぽどの事がなければ向こうもアタックするだろう。」


[あの姿勢を見ればありえる、いつ負けるか楽しみ。]


「ふー……なあ津原。これ全巻借りてもいいか?」


「どうすりゃ、どうすりゃ橘さんはいなくなるんだ?あと華狼は別にいいが、まとめてだと重いぞ。」


このままの状況だとつまり……嫌な奴に永遠迫られ、向こうが折れるまで逃げ回るしかないのか?俺の選択肢はそれしか


「ん?」


「ど、どうした!体調悪いのか!」


「いや違うんだ。今橘さんに攻められるこの状況、これってさ。」


「女の子に好かれ攻められる、言ってみたい台詞だな!俺にはサマルたんが待っていてくれるが!!」


「それは俺がフリーだからじゃないのか?ほらあれだよ、別れたのに次に行かないから未練があるみたいな。」


[ねえもしかして最低な話してるこいつ?]


「橘さんも俺がフリーだから、まだ私を忘れてないとか思ってんじゃねえのか!?だからいけると思われてんじゃ。」


「……自分は言わないぞ、津原その先は止めておけ。」


そうだそうだそうだ、全部繋がるぞ。いつまでも俺に付きまとうのも、向こうからコクられたのも今日の突撃も。俺が一人だから、まだ橘さんを覚えてると思われていてその隙を攻められてんだ。


「よし決めた。橘さんの為にも、彼女作るか。」


「「[バカか?]」」


「大胆な答えだな!」


「俺自身はそんなつもりないけどぉ、橘さんがいつまでも俺に時間を使うのはぁ悪いもんなぁ。」


「わざとらしく話すな。」


「だから俺が誰かとそうなれば、向こうも俺を諦め次にいけると思うんだ。」


[あほか。]


「誰か良い相手紹介してくれ。」


「肝心なところは他力本願なのか……」


「俺は無理だな!縁がねえ!」


[真面目に答えなくていい。]


よし考えは纏まった、俺のこの最高の考え……いけるぞ。ならばこの考えを形にしないといけないな、お客様たちにはお帰りいただこう。


「よしじゃあ上の奴らも君らも、そろそろ帰りなさい。俺は計画を考えるとする。」


[あーはいはい。]


「進士、よく寝ることだ。多分風邪の余韻で、ハイになってると思うぞ。」


「そうなのか!大変だな!」


「自分も上に付き合おう、漫画はありがたく借りるぞ。」


俺がハイになってる?まあ少しあるかもな。あれだけ苦しかった時間から解放され、今なら空も飛べるくらい軽く感じるし。

階段を上がり部屋の前に行けば、もう騒ぐ声もしなくなっていた。そっとドアを開ける。


「あの~終わりました?」


「あんた……覚悟しなさいよ。」


「いやいや、そもそっちが連れてきたんだ。逃げ出しても文句ないだろ。」


「はぁ、まあそうね。」


「で橘さんは……え寝てんの?」


「あの後1から話して、あたしとあんたに何もないと分かったら安心したみたいね。」


「それで寝落ちて。」


「朝からあんたを心配してたのよ。本人も気づかない所で、疲れてたんだと思うわ。」


「なんだそりゃ。」


「菫、菫ってば。そろそろ起きてよ。」


「ん……なぁに真祐美ちゃん。」


「何じゃないわよ、そろそろ帰るわよ。」


「……私寝てたの!?」


「「寝てた。」」


華狼?あああいつならドアが開いて、お目当てのもの持ってすぐ下に戻ったよ。


「ほら帰った帰った。」


「そういうこと、菫も疲れてるのよ。」


「そ、そうなのかなぁ。ごめんね津原くん!ベットも借りちゃって。」


「あー構わ、おいそんなガッツリ寝てたのか。」


「は、恥ずかしい……」


「はいはい乙女になるのも良いけど、早く動きなさい。」


帰る時間と分かってから全員早かった。二人を玄関に連れていき、玄関先で挨拶といこう。


「まあ混乱はあったが、見舞いは助かった。ありがとうな。」


「おう!明日学校でな!」


「なあ進士本当に良いのか?これを見れば嫌なこと全て」


[また明日。]


「すまん津原、なるべく早く返すとする。」


「ま、あんたが元気なら良いんじゃない?ねえ菫。」


「そ、そうだね。」


「はいじゃあさよなら。」


全員が散ったのを見て中に戻り、夕飯を食べて部屋に戻った。おいなんだ俺の布団から別人の匂いが、消臭スプレーはどこだ!寝れねえぞ!



つか恋人作るとか何言ってたんだ俺、あほらしあん時の俺バカだろ。

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