第35話 1人の時の風邪ってやばい

「ごほっっ!」


溜まった疲れが出るとどうなる?大体体調を崩す。そんな俺も風邪を引いて、現在家族が出払った家で寝ております。

暇だ……薬を飲んだから熱は下がった、咳も朝よりは酷くねえ。だが外に出るのはダルい、だから横になってる俺。


こんな日は色々考えるものだ、これまでとかこれからとか。俺は何がしたいとかできるのかとか、そうやって考えると……眠くなるな。

ここは本能にしたがって寝るとしよう。人体の休息すなわち眠りだ、寝れば寝るだけ早く治る!そんな気がする!だが俺の耳にピンポーン、と鳴る音が。


「……」


なんで今?まだ午前中で家にゃ誰もいない。本当なら母さんがいたかもだが、予定があったらしいから優先してもらった。さすがに1人でできるもん。

つまり出るなら俺、だが荷物とか何も聞いてねえ。ここは居留守ってことで許してもらうか。

ピンポーン。


(そろそろ諦めろよ。)


何ということでしょう。あれからインターホンが止みません、恐らく僕は命を狙われています。……てか俺の客なのか?そういやスマホ見てねえや。


[本当に体調悪いの?]


[ねえ開けてよ。]


[起きてないの?]


[家にいるんだよね?]


[もしかして無視なの?]


[見 て る ん で し ょ ?]


俺はすぐさまスマホの電源を落とす、どうやら朱音が来て……何してんだあいつ?今学校のはずなんだが。

つうかよく家覚えてたな、最後家で集まったの中三だったよな。ひとまず相手も分かったし、ふらつく足で玄関へ。


「今、開ける。」


そして玄関を開けると確かに朱音だ。片手にビニール袋ぶら下げて、制服じゃなくジャージとラフな姿。ちゃんとマスクもしちゃってこの子ったら。


「なん、の、用だ。」


すらすらと言葉が出ない。それにスマホを忘れてしまい、朱音の文が読めないぞこりゃ。それに気づいたか、持ってた袋をこちらに渡してくる。


「ん。」


「見舞い、か。」 


中を見ればスポドリだのゼリーだの、風邪に使える便利グッズが多く入ってた。


「何故に。」


「今から登校。」


その言葉でなんとなーく察した。朱音は夜通し起きていて、昼登校する光景をよく見ていた。なんでもネトゲ?が楽しいとかなんとか。


「ネットだとチャットで楽。」


「そうか。」


「そ。」


「助か、った。」


「んじゃ。」


ジャージなのも頷ける。もはや着替えは面倒だとそのまま来たわけだ、んでも俺の風邪を知ってるとはな。色んな疑問を聞く暇もなく、朱音は立ち去った。

看病……?そんな夢見る男子じゃない。部屋に戻るとスマホに通知、いくつかメッセージがあるようだ。


[病欠は華狼から聞いた。]


[あんたが最近疲れてるとは思ってた。]


[ふざけて休む奴じゃない。]


[今回のは貸し。]


[ちなみに昨日のメンバーで、グループができた。]


と短くこれまでの経緯を書き残した朱音。どうやら上手くコトは運んでると見た。……待てよ。

つまり全員俺の欠席、朱音が体調の話を出したら全員にバレるのか?おいまずいぞ俺の静かな時間が。


[朱音さんや。]


[なんだい進士さん。]


[俺の病欠話はつまりその、皆さんご存じ?]


[放課後を震えて待て。]


この一言で分かったよ。ああ、才太と高志がいる以上家は割れる。しかし全員では来んだろ。つかそれで全員来たらビビるっての。


「ただいま~、進士ちゃんと寝てたの?」


母よあと少し早い帰宅なら。階段を上がってくる音、用事もすんで俺を見に来るようだな。


「入るわよ。」


「おう。」


「ちゃんと横になって……何この袋。」


「俺じゃ、ない。」

 

「あんた休みだからってコンビニ?」


「違う。」


スマホを見せながら説明。同級生が来て差し入れあり、中身は色々で助かったなと。母さんはしつこく男女を聞いてきたが、面倒なのではぐらかしフィニッシュ。


「しっかしあんたも、良い友達持てて良かったじゃない。」


「まあ。」


「前よりも笑顔増えたんじゃない?今の方が、あんたよく見えるよ。」

 

「そう。」


「あらやだ、母さんが邪魔しちゃ駄目ね。とにかくしっかり寝て、早く治しなさいな。」


そして部屋を出ていく母さん、1人残された俺。言われた通り寝ますよ。差し入れのジュースを飲みながら、早く治れと神頼み。


[ねえあんた起きてる?]


次は誰だと画面を見たら浅原、しまったこいつの連絡先消すの忘れてた。


[なんだ浅原、止めでも刺しに来るか?]


[忠告してあげようって気なのに、酷いわね。]


[忠告?放課後の運命なら、もう諦めてるよ。]


[……そっちじゃないわ。]


どういうことだ?そっちじゃない?俺を知ってて休みを心配やら茶化して、来るような奴他には


[菫が動くかもしれない。]


[冗談よせよ。]


[あんたの病欠聞いてから、上の空よ。写真送りましょうか?]


[どんな嫌がらせだ。それに来ると決まってないだろ?]


[でも条件は揃ってると思わない?あんたの家を知ってて、心配する人って。]

 

[勘弁してくれよ、しそうなら止めてくれって。]


[なんであたしが。]


[えぇ……そこを頼むほど俺は弱ってんの。]


しばらく返信がなかったが、俺には待つことしか出来ない。今この状況で橘さんが来るぅ?面倒になるに決まってる。


[止めたとして、あたしにメリットは?]


[むしろお前のメリットになることって何だ、俺はお前を知らないんだ。]


[そうね、あたしもあんたなんか知らないわ。]


[つまり決裂か?それならそれで良い、俺は来る時間を見計らって外に出る。]

 

[病人がなに言ってんのよ。]


[それだけ嫌なんだよ悪かったな、あとこれ送ったらちゃんと連絡先消すわ。忘れてて悪かったな。]


そうして連絡リストから削除を押そうとしたが、なにやら返信が来たので目を通す。


[あたしを消さないなら、止めても良いわよ。]


[そんなんで良いのか?]


[それと購買の菓子パンかしら。]


[あーはいはい。それで楽になれるなら、喜んでやりますよ。]


[じゃあそれで。]


以降返信なし。変わった要求だとは思うが、それで抑えになるなら上々。大方俺との線をキープして、どこかで橘さんと結ぶためだろう。

昨日本人の前で二度と関わらない発現したし、これで消したらもう何もなくなる予定だったのになぁ。仕方ないか……はぁ。ひとまず寝よう。



んー……今何時だ?時計を見ると16時。つまりは放課後、枕元に置いといた体温計で計ると熱なし。いやぁ睡眠てのは素晴らしいですな!もう治ったしゲームでもするか!

そんな俺の耳に届くインターホンの音、そして続く母親の声。


「進士ー、あんたのお友達だって。風邪は治ったの?」



おかん、頼むからそのまま追い返してくれ。

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