第34話 不意な遭遇は心臓に悪い

「えぇ誰ですかあなた。」


「いやさすがに厳しいよね!?」


「……いけると思ったんだが。」


「まあまあ進士、今から暇かな?」


「暇じゃないな、俺は帰る使命がある。」 


「暇みたいだね。」


なんて失礼な奴だこいつ。今目の前にいるのは豊美くん、最近しつこい男の子。いい加減諦めてもらえませんかね本当。


「暇だったとしても、お前に使う時間はないよ豊美くん。」


「でもさ、橘さんとは話したんだよね。」


「あ?本人から聞いたのか。そうだな、向こうから詰め寄られて仕方なく話したさ。」


「じゃあ僕もそうしたって……良いんだよね?」


「何か話があるのか?今の俺に。」


「なかったら待ってないよ。」


「そもそもどうして会うんだよ。俺は用事で遅くなって、誰とも会う予定はなかったんだが。」


考え直したら怖いよこの人。なんで俺と会えたんだ?今日は相談への付き合いで今は夕方、なんならもう日が沈む。だってのにこやつ。


「進士昼休みも放課後も、すぐにどっか行ってたよね。でも僕帰るときね、進士の靴がまだあるって気づいたんだよ。」


「ねえ発言わかってます?それかなり怖い発言ですよ。」


「それで前に一緒に帰ってたこの道で、ちょっと待ってたんだ。」


「普通の生徒が帰った時間から考えりゃ、こんな何もない道に一時間近く立ってた話しになるが。」


「でもそれでチャンスが来るなら。」


もう分かんねえな。こいつの俺への執着?もそうだが仲直りがしたいだとか。豊美は悪い奴じゃないだろう、社交性だって高い。好かれるんじゃないか。


「そんなチャンスどぶに捨てて、誰かと遊びに行けよ。学生の一日は貴重だぞ君。」


「僕にはこの時が貴重なんだ。」


「同じクラスのよしみで助言してやる、その価値観捨てた方がいいぞ。」


「……進士はさ、少しの間に結構変わったよね。」


「そうか?独り身になった以外、普段と変わらんぞ俺は。」


「華狼くんと話してたし、前より楽しそうだよ今の進士は。」


「そう見えるか。まあ辛い彼女との思い出や、話も聞かず俺を悪者にする友人も消えたからな。」

 

「はは……厳しいけど、間違ってないね。僕今でも思うよ、少しでも進士の話を聞くべきだったって。」


「別にいいだろ。おかげで今の俺は楽しそうで、かなり身軽に過ごせてるんだから。」


「僕はずっと後悔してるよ。」


「じゃあ次からは人の話を聞きな。」


「進士!」


うるっさいな本当、俺はまっすぐ帰りたいだが。白状と思われたってしるか疲れてるんだ。だが帰してくれないらしく、俺の前で邪魔してきやがる。


「なんだよ豊美くん、用があるなら早く言え。もちろん俺は仲直りだとか謝罪なんて、欠片も欲しくない。お前にできるのは横に退いて、俺の帰り道を開けることだ。」


「いらないって言われたけど……あの日はごめん。友達である君の話を聞きもせず、僕は思い込みで君を非難しちゃった。」


「だからいらねえ」

 

「その上で言わせてほしいんだ。また友達になるじゃなくて、せめてクラスメイトとして。」


「はあ。」


「同じクラスの人として、軽い話とか挨拶はしてほしい……わがままかな?」


中々妥協してきたな、と思う。こんな場合良くある話は、前の関係に戻ることを望むもんだろう。そこら辺全部諦めて、日々の一言二言を欲しがる程度に止めた。


「お前はそれでいいんだな。」


「むしろ僕は、これ以上を望めないと思う。」


「……それで良いなら飲むとする。これまでの避け方は改めて、クラスメイトになら戻るとしよう。」


「あ、ありが」


「だからって必要以上に話しかけるなよ。これで許したとかされたとか、無かったことにはしてねえから。」


「……うん。」


「明日からよろしく豊美くん。」


後ろ手にバイバイしながら、俺は同じクラスの男子にお別れを告げる。まあ前よりは気楽に日々を過ごし、同じ空間にいても疲れはしないだろう。


「ただいま。」


「ああお帰り進……あんたなんかあったの?」


「なんだい母さん、俺は日々学業で疲れてるっての。」


「いつもよりしんどいって顔してたわよ。」


「まじ?」


顔に出てたか。考えりゃ帰りも遅くなり、途中には待ち伏せを喰らったんだ。ただ学校を終えるより疲れたか。


「うん認めるわ今日疲れた。」


「そうかい、夕飯もあるしちゃちゃっと着替えなさい。」


「あいよ。」


そうして自室で荷物を下ろす、それと一緒に今日の疲れがどっと来ちまった。慣れない事したしいらん話の手間もあったし。


[何逃げてんだお前。]


[ねえ言葉が強いよ朱音さん。]


[ちょっと校内探したこっちの身にもなれ。]


[そんなイベントあったのか笑う。]


[明日覚えとけよ全員でかかるからな。]


[ちょっと体調悪いから行けないかも。]


既読はついたが返事なし。恐らく明日の俺は大変になるだろう、今日だって忙しかったのによ。


[ちょっと津原くんやい。]


[何ですか先輩さん。]


[急に消えて平気だったの?]


[俺は必要無くなったと思ったので。]


[皆て探したんだからね。]


[すいません。]


しっかり謝罪をしたことだし、これで少しは罪が軽くなった……はずだ。返信もそこそこに食事のため下へ、夕飯中も何回か心配されたが。


「はー……」


豊美に言われたが、今の俺は前より楽しいのかもな。昔馴染みとまた話してるし、先輩とはたまたま知り合ったし。

華狼とも知り合って今度は心咲さんねえ。不思議なもんだ、幸せだった恋人の時より不幸と言われる、今の独り身の方が充実してんだ。


「しっかしテストは安心だが、勉強したくねえなあ。」


学生が逃げられないテスト問題、本日心咲さんの悩みを聞いたことで先生は確保した。だが結局は本人の頑張り次第よ。

まあ色々考えたって仕方ねえな!もう今日は寝るに限る!お休み俺!



んでもって次の日、本当に疲れていたんですね私。

風邪引きました。

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