第33話 さあ楽しいお話会だ
「では始めよう。」
そう切り出す俺。
「わ、分かったっす、お願いしますっす。」
これから始まるのはそう、ただの日常会話だ。
才太の場合
「一番は俺か!よろしく頼むぞ!」
「は、はいっす。お願いしますっす。」
「心咲さんだったか!勉強ができるって聞いたぞ!」
「まあ一応学年一位っすね。」
「すっげえな!俺なんて下から数えるぞ!」
「ほ、ほほお。」
終始才太の勢いに飲まれそうな会話となる。
高志の場合
「良いかい?彼女こそ俺の理想、俺の全てなんだ!」
「そちらの画面の方すか?」
「そう。名はサマルたん、俺の嫁である。」
「え?佐熊さん結婚されてるんすか。」
「彼女を独り占めなどできない……むしろ世の全員に知らしめるべきだ!」
「んんぅ?」
ごめんそいつの妄想は忘れてくれ。
朱音の場合
[よろしく。]
「いえいえこちらこそっす。」
[御趣味は?]
「アルバイトっすね、月末に給料見ると嬉しいっす。」
[好きな食べ物は?]
「パスタっすね。」
[どんな男がタイプ?]
「んー側で支えてくれる人っす。」
お見合いか?あいつ定型文で乗りきってねえか?
祷の場合
「よろしくだよ~悩める少女くん。」
「お願いしますっす。」
「先輩としてはね、もっと色んな人と話すべきだと思うな。」
「ほほお、そうなんすか?」
「君の価値観を否定はできんね。働くことに意義があるのは、多くの人が語っておるし。」
「まあ嫌々でも働く人もいるっすけど。」
「学校で人と関わるのは、要は価値観を広げる為の入り口だね。」
「なるほどっす。」
先輩……めっちゃ先輩してる、さすがだな。
真祐美の場合
「なんだか面談みたいね。」
「言われてみればそっすね、でも楽しいっすよ。」
「なら良かったわ。それで?何話しましょうか。」
「そっすね~、今の女子は何が流行ってるんすか?」
「そうね。最近だと駅前にできたモールが」
俺には余りにも高度な会話を繰り広げてたわ。
颯岔の場合
「よろしく頼む。」
「お手柔らかにっす。」
「色々考えたんだが、自分にはこれしかないと思ってな。」
「なんすかそれ。」
「最近自分が見ている動物チャンネルだ、動物は好きか?」
「自分は好きなんすけど、親がアレルギーだったりで実物とは縁がないっす。」
「ならばこそ、だろう。届かないものを画面越しで見る、虚しさを感じるだろうが満たされるものもあるぞ。」
「むーなるほどっす。見たら欲しくなっちゃうと思ったすけど、眺めるだけで満足もあるんすね。」
華狼の方が心配だったが、あいつやるな。
俺の場合
「で?どうだった心咲さん。」
「……どうってなんすか?」
「この場のたった七人、まあ俺は外して六人。会話して何か感じたか?」
「そっすね。色々知れた事も、そう考えるんだと思った話しもあったっす。」
「たった六人で凄かったろ、しかも全員バラバラだし。」
「皆さん個性があって面白いっす。」
「楽しかったんじゃないか?」
「……そっすね、認めるっす。」
「心咲さん、あんた自分が思ってるより話したがりだと思うぞ。」
「自分がっすか?」
「笑ってたしな、普段無いんじゃないか?話すこと。」
「バイトは働く場所すから、家も……まあ当てはまるっすね。」
「先輩も言ってたが、色んな奴と関わると自分にない考えとか思い方が見えるもんだ。多分それは、学生の俺達にしかできないと思う。」
「そうすかね。」
「さっきバイトは働く所って言ったろ。このまま卒業して就職したら、忙しすぎて話せないんじゃないか?」
「んー。」
「それに社会の方がこの学校より、数えられない程の人がいるわけだ。その沢山の考え方や思い方、働きながら考えれるか?」
「……」
「今学生の内に色んな考えに触れる。それこそ心咲しんの一位を妬む奴もいれば、心から誉める人だっている。これだって考えの違いだろ。」
「つまり津原さんは、学校に来ることで視野が広がるってコトすか。」
「まあ俺だってガキだ、分かったつもりになってるだけ。それでもたった六人と会話して得た経験と、クラス40人と話したらどうなるかって想像してみろ。」
「……きっとみんな、違う考えがあったりするんすかね。」
「それで自分と似た考えと合えば、それは多分友達だ。じゃなくても会話には、学びが多いと思うぞ。」
「それで会話は学生の内の方が、たくさんできるっすね。」
「だって心咲さん、店長さんに最近どう?とか聞けるか?」
「む、無理っす。」
「でも俺とか、あいつらになら?」
「できるっす。」
「これが俺の考える、学生とか学校だから得るもの。どうだ、少しは響いたか?」
「……」
おーおー考え込んでやんの。たっぷり悩め、俺がこの何週間かで得た苦しみを味わえ。こんなに会話させたのは、俺自身の経験があってこそだ。
ここ最近色んな奴と話して、どう見られてたどう見てたを嫌でも感じさせられた。俺と橘さんは上手くいってるとか幸せだとか、んな訳ねえのによ。そうやって人の数思いがある。
あとなんで俺こんなに頑張るの?
「それで答えは出そうか。」
「……まず自分にはリハビリがいるっすね。」
「なんじゃそら。」
「すぐに学校の外に場所ができて、中での接し方が分からないっすよ。そもそもどんな話をすれば~とかっす。」
「どうやら来る理由とか意味とか、少しは掴めたのかもな。」
「お店のお客さんを見て、色んな人がいると楽しんでたっす。それと同じっすね、もっと色んな人の在り方を考えるべきかもっす。」
「なんか大きな話しになってきたな。もっと簡単に言えよ、お喋りしたいって。」
めちゃくちゃ噛み砕けばそういう話、色んな人と話したいってな。そんで聞いて聞かれて、どんな相手なのかを知りたいと。
「ず、ずいぶん簡単に言ってくれるっすね。」
「難しいのとか遠回しは、俺自身が苦手なんだよ。物事は直球でなんぼだ。」
「そのお喋りは、ここにいる皆さんとも適応されるっすか?」
「それは自分で聞くことだ。俺があーいんじゃね?っても向こうはどう思うか、練習がてらぶつかってこいよ。」
「……津原さんて。」
「なんだ。」
「優しいんだかじゃないんだか、不思議な人っす。」
「いやいや優しいだろ。これだけの用意してお悩み聞いて、決着つけたんだからよ。」
「それは今度のテストのためっすよね。」
「……さあ?」
俺が誤魔化すと心咲さんは立ち上がり、他の六人に声かけしに行った。大方これからも~って所だろ。解決……にはならんが改善したかもしらんな。
さて帰るか。
「というわけで、これからよろしくっす。」
「おおよ!俺あんま話できねえけどな!」
「ふふ、このジャンルを徹底的に叩き込んでやる。」
「先輩の胸を借りて、大きくなりなさ~い。」
「あたしにやれることがあるなら。」
[お手柔らかに。]
「自分も不器用な方だからな、津原も……津原はどこだ?」
「「ん?」」
僕ですか?もう帰りましたよっと。いやだってもう出番無いんですもん、なんならこのまま孤独な男として生きていくしか。
ひとまずテストの不安はなくなり、俺は帰り道をのんびり歩く。勉強の不安がなくなったし、俺もアルバイト探してみるかな~。
「や、やあ進士!奇遇だね!」
「……はぁ。」
どうしているんだ豊美くん。
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