第30話 謝れることは素晴らしい

「と、言うわけで朱音。」


[何がどういう訳。]


「ちょっと津原、ちゃんと説明してないの?」


「いや前にちゃんとちょこっと言ったぞ。」


[???]


現在放課後です。そういや浅原と朱音のマッチング、忘れる前にしちゃおうと急遽お呼びしました。どっちも暇で助かったぜ本当。

放課後の教室で三人、端っこに固まって座る。


「とりあえず座って座って。そして浅原よ、このスマホを眺めて話したまへ。」


そう言って俺は浅原の前にスマホを置く。


「え?良いけど……眺めて何になるのよ。」


[よろしく。]


「?」


「目の前に相手がおるじゃろ?そして送られるメッセージ、そういうことさ。」


「待って待って直で話さないの?」


[顔を合わせてる、これもまた直会話。]


「悪いな。朱音は喋るのに疲れた、可哀想な現代っ子なんだ。」


[うるさい。]


げしっと足を蹴られる。酷いあなたが言わないからと、俺が弁明してあげたのに。俺はこの付き合いになれてるから違和感ないが、初対面じゃ難しいか。


「まあ浅原さんや、呼び出したのは俺達ってことで。来てくれた事に感謝しましょうや。」


「それもそうね。あたしが無理言ってるんだもの、ありがとう。」


[驚いた。また意味もなく怒鳴って、疲れるのかと。]


「そ、その件は……そうねそこら辺まとめて今日の件になるわ。」


そう今日集まったのは他でもない、浅原が謝りたいからだそうだ。何を?なんて聞く無粋な奴ではないので、とりあえず俺は傍観することに。


「てか津原、別に帰っても平気よ。あんたを付き合わせるつもりもないし。」


[そこは心配なく。]


「この時間確保のために、俺はこの後朱音に付き合わねばならん。それに俺も関係ないって訳じゃないだろ?」


「……ねえあんたら何にも、ないのよね。」


「[ないね。]」


何を言うか、と朱音と顔を合わせ不思議がる。全くやめてくれよこれは友情だ。


「ぶっちゃけて言うと奢って機嫌とって、今ここに呼び出してます。」


[デザートが待ってるの。]


「納得したわ。あと津原、それならあたしに言いなさいよ。少しは出すから。」


思わず目が飛び出ると思った。まじで誰なのこいつ?


「気持ちは受け取っとくさ。」


「そうもいかないわ、それに津原に貸し作るのも嫌いなの。」


「あー確かに。そこ気にするなら、後で多少出してもらおうかしら。」


[男気ないぞー。]


「男気より明日の飯じゃい。」


月のお小遣いで生きる俺にとって、あまり自由に出費もできない現状。ここは恥を忍んでも助力願い、金額を浮かせるべきだ。


「じゃあ俺は今から空気ね、はいどうぞ。」


[うざ。]


「ムカつ……んっんん!」


飲み込んだ奴と吐き出した奴。いやもう後半聞こえてるから、そこで飲み込んで意味ねえよ。


「えーとじゃあ、前嶋さんよね。」


[そう、そちらは浅原さん。]


「自己紹介はいらないわね。」


[まあね。私は進士の友達、あんたは橘さんの友達。またの名を人間スピーカー。]


「……津原?」


「ひゅーぴゅぴゅー。」


[で?本題は?]


一呼吸ついて、浅原は話し出す。俺?俺はイヤホンしながらソシャゲの周回してますよ。素材が貯まってうれぴー。


「前に公園で、二人に悪いこと言っちゃったわ。それを謝りたかったの。」


[それは浮気だなんだって奴?]


「ちゃんと事実も状況も、何も聞かずに決めつけてわめいて……反省してるわ。」

 

[あんた、本当に変わったみたいね。]


「変わったより、視野が広がったって感じかしら。前はずいぶん狭い世界で、周りを見ず生きてた気分。」


[その通りだから、私は何も言わない。]


「でもまだ足りない。した事全部にケリつけて、あたしはもう少しだけ進める。」


[あんたの自己満足に付き合えって?]


「……そうね。隠すつもりもないわ、あたしの為に謝らせてほしい。」


少し沈黙。謝るってのは素晴らしいこと、と言われる世の中ですね。場合によって謝罪ってのは、ただの自己満足になる。

相手はもう忘れたいとか掘り返したくない、無くしたものにしてる場合もある。それでも謝ってスッキリして、やった側が軽くなる。やられた側は嫌になる。

まあ今回の件そこまで重くないけど。


[まあいいよ。]


「え。」


[進士も気にしてないし、私もどーでもいい。それでもあんたがスッキリするなら]


とスマホをいじってた顔を上げ、しっかりと自分の口で


「私はあんたを許すよ。」


朱音は淡々と述べた。でもこれ凄いんですよ?この子普段喋らないんですから。


「……ありがとう。てかあんた喋った方が、いい感じに聞こえるけど。」


[疲れるっての、今回は特別サービス。]


「そう。」


ふっと笑いながら、憑き物が落ちた顔の浅原さん。良かったねと駆け寄る相手でもないので、俺としても確認をしておこう。


「さて浅原、これでお前の頼みごとは解消だな。」


「ええ。津原を頼る形になって悪かったけど、これで終わりね。」


「よし!これで俺とお前には何もないよな!」


「?」

 

「よぉし終わり終わり。」


[一人でスッキリすんな。]


これでこいつとはもう関わり無し、きっぱり他人スタートを切れるわけだ。まあそんな感動を理解もされんだろうし、黙って心で喜んでおこう。


「さてと行きますか朱音さんや。」


[あいさっさ。]

 

「あんま高いのは勘弁してよね。」


「まあまあ俺も出しますから。」


[そこまでは要求……しないはず。]


こうして悶着もなく話は終わり、俺達は夕日が綺麗な放課後を終えようとしていた。


「で?どこ行くよ。」


[昨日高志と行ったとこは?]


「ねえ。」


「あーあそこ?雰囲気はよかったぞ、メニューも美味しかったし。」


[ならそこでいい。]


「ちょっと。」


ぐいっと浅原に引っ張られる、何だおい危ないじゃねえかあと制服伸びちゃうじゃない。


「なんだ浅原、もしかして肉でもかぶりつきたいのか?」


「あんたねぇ、スマホあたしにも見せなさいよ。」


「え、えぇ!?俺の秘密を覗いて、なにしようってんでぃ!」


「違うっての。前嶋さんのが見えないから、あんた独り言みたいよ。」  


[路上でスマホに独り言する一般高校生ウケる。]


「あー……はいどうぞ。」


と言って俺は浅原にスマホを渡す。


「……いいの?」


「前にお前に取られた時、特にいじらず返した実績がある。それにもう話はついたから、二人で親交でも深めておけ。」


「ありがとう。」


そうして俺が先導し、女子二人は後ろでトーク開始。なんか一瞬橘さんといた時を思い出したが、不思議と今は苦痛なんて無かった。


「え?嘘津原そんなことしてたの?」


「おい朱音~余計なこと話すと怒るぞ~。」



しまったその可能性を忘れていた。

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