第28話 腹一杯は眠くなるじゃんな。

「いざ食べてみたが、いけるもんだな。」


時間は経ちまして今現在、全てを空にした俺達はお互いに讃え合いながら腹を擦っていた。最初は多いと思ったが、3当分して盛り付けたら割りといけそうって……頑張ったんです。


「うっぷ、七畝さん限界でござ。」


「あ、愛があれば何て事はない。」


「いや高志途中から手止まって、俺と七畝さんでフォローしてたからな。」

 

「その件はすまない。あまり食べない方だと自覚はあった、その為の進士だったからな。」


「おろ?津原くん大食いなのかえ。」


「知り合いの中じゃよく食べる方、くらいの認識で良いっすよ。」


周りよりは食べると思う。中学の時は運動部だったし、それでかなり食べてた。高校ではのんびりしようと帰宅部だが、縮んだとはいえよく入る。


「だが進士、帰宅部になったんだから抑えんと太るぞ。」


「ざけんな。食べた分はしっかり動いて……何とかしてるっての。」


「間があったよ津原くん、めちゃ怪しいよ。」


「まあ助けられてる身だ、感謝こそすれど非難する立場ではない。進士はよく食べるということだ。」


「残すよりは良いだろ。」


「それは確かだにゃ~。っえぷ。」


「こら女子。」


各員おちゃらけてはいたが、話すことで腹部の苦しみを忘れたいだけだ。食べ物はまだ良かった、そこにドリンクが加わり破壊力は最高潮へ。


「どうだ2人とも、動けそうか?」


「俺はいけるぞ。」


「七畝さんもなんとか~。」


「では会計とするか。」


「てか本当に支払い良いのか?こんだけ満足に飲み食いしちまったけど。」


「んえ!?七畝さん先輩なのに奢られるの!?」


「元よりその予定だったんです七畝先輩、なので気にしないでいただけると。」


「うぅ、七畝さん嬉しくて泣けちゃうよ。」


「今日この日の為に貯めた軍資金、それが火を吹く時だ!」 


「火吹いたら燃えて0になるぞ。」


席に座ったまま呼び出しボタンを押し、これから来る店員を待つとする。この後帰って何するか……ん?なんか忘れてる気がする。


「では店員さんが来たら、呪文を唱えるんだぞ。」


「あーい了解なり。」


「あ、てか七畝さんいつの間に。」


「津原くんがお手洗いの間に、最後の締めを教わったのだよんっふっふ。」


ちくしょうマジで忘れてた。食べきった達成感でメインの呪文を、本番って時まで頭から消しちまってたぜ。え?俺何言うの?


「あの~高志さん、ちなみに呪文てどんな」


「「冷え冷えハートにサーモマジカル★」」


綺麗にハモってウインクVサイン、俺は夢を見ているのだろうか。これやるの俺?知らない人にこれやるの俺?


「ちなみに進士、脅したくはないんだが。これが今日の条件だよろしく頼む。」


「七畝ちゃんはパーファクトだよー。」


「……確認だ。店員さんがやってきて、そのまま直で言うのか?」


「レシートをくれる、その後に呪文はございますか?と聞いてくるそうだ。」


新しいなおい、普通ございますかとか聞かねえだろ。まあ前振りがあるだけマシだ、パッと出すより全然良い。


「あー分かったよ!やるよやりますよ!」


「「いえーい。」」


ハイタッチをする二人を前に、俺の心は荒波に揺れていた。どうやら俺の人生における難関が今、迫ってきている。てか七畝さん平気でやるな、高志は……うん。愛だな。


「お待たせしゃーした、こちらのレシート持ってレジお願いします。」


そうこうしてると店員登場、しばらく時間が経ったから別の人になっていた。


「えーとなんだ……?あっ呪文!呪文ありますか?」


「「冷え冷えハートにサーモマジカル★」」


この店員平気か?とか考えてたら置いてかれた。ねえ待ってよ!一緒にゴールしようよ!ポーズまで完璧にしないでっっ!!

ポーズのまま視線を向ける二人、あんたやるの?的に見てくる店員と三人に見られる俺。あー帰りてえ。


「ひ、冷え冷えハァートにサーモマジカルゥ★」


照れが俺を支配する。きっと今の俺は顔が真っ赤だろう、ポーズもビシッと決めて完璧に仕上げてやったさ。俺はやり遂げたんだ!


「あーありがとう、プッございます。」


笑いやがったなてめぇ。


「ではグッズお持ちしゃーすね、ちなみに照れお兄さん。」


「照れお兄さんではありません。」


「ポーズはいらなかったすよ。」


嘘だ。バッと二人の方を向くと笑う高志、サッとスマホをしまう七畝さん。こいつら……覚えとけよ。


「あーでもちゃんとしたの、偉いですはい。」


「ありがとうございます……」


店員さんは去っていった、俺のフォローまでして良い人だあの人。さて


「お前ら覚悟できてんのか?」


「待て進士!ポーズの有無を尋ねなかった、そちらにも落ち度はあるぞ。」

 

「可愛かったよ津原く~ん、ムフフ。」


「とりあえず高志は明日学食な。」


「後生だ進士!この日の出費で俺は明日から」


「グッズ……どうしようかなぁ。この恥ずかしさ埋める軍資金に、売っちゃおうかなぁ。」


「今の進士にはやると言ったらやる、覚悟がある……分かった。何とかしてみせよう。」

 

「おおサンキュー!」


勝ちました、明日の俺の飯は確約されたのです。


「はい七畝さん。」


「ど、どんな無茶を言うんだ津原くん。つ、津原くんが望むなら先輩がんば」


「写真消してジュース2本。」

 

「……ジュースを4、それで写真は見逃してほしい。」


「え俺が交渉されんの?」


「ぐぬぬ欲しがりさんめ、5本でどうだおうおう!」


「写真にどこまで執着すんの、分かりましたそれで。悪用しないでくださいよ。」


「しないよ~へへへ。」


こうして平和に解決した俺達の元に、グッズを持った店員さんがやってきた。そういや何貰えるんだ?


「それじゃ~こちらっす、それでは。」


「ありがとうございます!ついに!手に入った!」


「……クリアファイル?」


「女の子書いてあるね~これがサマルちゃん?」


高志が待ち受けにしてた子だ、つまりこの子がサマルちゃん。そんなサマルちゃんが大きくプリントされた、クリアファイルが三枚。


「なあ、素朴な疑問で悪い。」


「なんだ進士欲しがってもやらんぞ。」


「津原くん、人のもの欲しがっちゃめーだよ。」


「じゃなくて。ファイル三枚も手元にあって……どうすんの?」


「保存し鑑賞し実用する。」


「わひゃーフル活用だ~。」


「うん分かったもう何も聞かない。」


目を輝かせる高志を前に、俺はもう何も聞くまいと席を立つ。二人も準備を終え立ち上がり、会計に向かう。つっても俺と七畝さんは支払いないけど。


「お願いします。」


「ちょっとお待ちくださーい。」


気付けば夕日も沈む時間。けっこう混んできてて忙しそうだ、あっポーズ決めてる人いる。


「お待たせしゃーした。えーお会計が、一万円すね。」


聞き間違いかな。いやでも高志くん一万だしたな、お会計終わったな。え?ジュースとご飯よ?確かに量多かったけど。


「それでは行くか。七畝先輩、今日はありがとうございました。」


「いーんだよ佐熊くん、後輩助けずして何が先輩か。」


「にしても結構な金額だったな。」


「まあな。食事というより、グッズ等の料金が乗っかってくるとやむを得ん。」


「ほーん。」


「んじゃ七畝さんあっちー、じゃね。」


「七畝さんありがとうございました。」


「先輩助かりました。」


「楽しかったよ~。」


その後高志とも別れて家路につく。今日はなんか……うん。


すぐ寝てすぐ忘れよう。

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