第27話 俺はどうしてここにいる

「いらっしゃいませ~。」


俺はとあるカフェにいた。あれから放課後、高志に誘われるままに着いて来た。他の奴ら?みんな何なのか知ってるらしい、俺以外は用事だってさ。たまたま全員な!


「すまないな進士、一人だと限界があったのだ。」


「なあ高志……そろそろ教えてくれよ。俺は何をするんだ?」


「メニューを見れば分かる。」


メニューねぇ、普通のカフェにある飲み物に食べ物に。コラボメニューでグッズ付き、店員さんに呪文を唱えて限定アイテムを


「俺帰っても良い?」


「何を言う。この場は俺が持つから、安心して食事をして良い。」


「そうじゃなくて嫌な予感がするんですよ。」


「慌てるな、今はまだその時ではない。」


これだ、他の奴が逃げたのはこれだ。これなら華狼も誘って犠牲を増やすべきだったな。


「それで?予想はつくけど何のコラボだよ。」


「ふっふっふっ、俺が求めるものは1つだろう!」


ビシッと聞こえそうな音と共に、スマホの画面を俺に見せてくる高志。その画面には彼が愛を誓った、サマルたんがでかでかと写っている。


「ですよねー。」


「そうだとも!冷えきった心を暖めるため、サーマルテクノロジーを用いて温もりを与える少女!現代の冷めきった大人達に捧げる熱伝導ファンタジー!」


「なんっっっかいも聞いたよ。放送当初、最終回に二期制作決定とある度に聞かされてるよ。」


「そんなサマルたんとコラボすると聞いて、この日のために準備してきたのだ。進士よ食べるが良い、だがその代わり頼む。」


「ゆうて呪文って書いてあるけどよ。」


そう言って改めてメニューを見直す。飲み物頼めばコースター、食べ物頼むと作中の名シーン場面の缶バッジが貰えるみたいだ。


「ちなみにどんくらい頼」


「コンプリートだ。」


「……はい?」


「ドリンクは6種、食事に付いてくる缶バッジが6種の計12種類だ。全て手に入れるぞ。」


「俺たちは二人だぞ?」


「理解している。だが男児たるもの!やる前から諦めてはいけない!」


「絶対人数間違えてるって。」


「すみません。」


「はーいお待ちくださーい。」


聞こえてないのかな?高志くん注文始めちゃったよ。もう逃げられない事を悟った俺は、窓から外を眺めることにした。うーん綺麗……あ。


「高志、魂に誓う逃げる訳じゃない。ちょっと外に行ってくる。」


「待ってるぞ進士。」


外を見たタイミング、通りかかったタイミング、全てが神がかっていて俺は涙を流すところだった。


「七畝さん。」


「およよ?津原くんじゃないか、どうしたの。」


「何も言わず来てください。」


「えっやだロマンチック。」


七畝さんの肩をぐいぐい押しながら、俺はカフェに戻る。高志が何事かと顔で語ったいたが、ひとまず着席する。


「おい進士、困ったからと拐うのは犯罪だぞ。」


「違う違う。この人は七畝祷さんだ、先輩で最近知り合った。」


「どーも七畝さんだよ。君は……津原くんの友達かい?」


「佐熊高志と言います。進士とは中学からの付き合いで、長いものです。」

 

「ほほぉ中学からねえ。ちょと昔の津原くん、教えてもらおっかな~。」


「いいから。と、いうわけだ高志。助っ人連れてきたぜ!」


多分下校してただろう七畝さんを捕まえ、これで3人。つまり3当分できるってわけだ、これで随分楽になるぞ。


「それでそれで、七畝さんはどして呼ばれたのかにゃー?」


「それはですね……高志、説明。」    


「丸投げだと!?ええっと、この店は今アニメとコラボしてまして、グッズの為に注文した食品を食べてもらえたらと。」


「把握した、先輩に任せたまへ。」

 

「よろしくお願いします。」


どーんと胸を張る先輩、今だ誰この人状態の高志、全てを知りながら喋らない俺。この狭いテーブルはカオスそのものだった。


「おい、おい進士。それで誰なんだこの先輩は。」


「七畝さんでよいぞよー。」


「あっありがとうございます。」


「七畝さんはだな、あーあの日。俺の事は放っておいてくれ!て飛び出したあの日知り合った。」


「屋上で熱く語り合ったんだ~。」


「……?」


「つまり俺の事情を知ってて、味方って事だよ。」

 

「そしてフラれたのでーす。」


「!?」


「ちょっと七畝さん。」


「事実じゃないかね少年よ。」


「ま、待ってくれ整理させてくれ。つまり……なんだ?七畝先輩は進士の……えー……友達か?」


「「それでいこう。」」


今更この関係をどう表すか。七畝さんとは屋上で相談したり放課後話したり、気軽にメッセージしあう仲だ。もうこれ友達で良いよね。


「フラれた、というのはどういうことだ?」


「えへへ~それはね~。」


「話せば長くなるんだよ。俺の告白から別れるまで全部見られて、フリーになったから付き合おうって言われた。以上。」


「長くないじゃないか!」


「なんか七畝さんが嫌な女じゃないか~。」


「とにかく仲良しさんだよ。」


「り、理解した。」


「よろしくだよ。」


ちょうど会話の終わりに注文が届きだし、あっという間にテーブルは一杯になった。おーリッチ。


「それじゃあ食べるか。」

 

「すまないな2人とも。特に七畝先輩は急だろうに、この後家庭での食事など平気か?」


「んー平気。」  


少し暗い顔、に見えた。そう言えば俺はこの人を知らないな、俺はよく知られてるんだが。


「そういや連絡してなかった、ちょっと電話してくる。」


「てらっしゃー。」


「分かった。」


家に掛けたらしばらくの沈黙の後、母が出た。事情を伝えると作る前で良かったと言われ、あまり遅くなるな、とも。


「分かったサンキュー。」

 

「ねえ進士、日葵となんかあったの?」


「何がさ。」 


「日葵が通知みて、無言で受話器渡してきたからびっくりしたわよ。」


「喉痛いんじゃね?」


「そうなのかしら、飴あげないと。」


「おう。それじゃ、なるべく早く帰るわ。」


「はいよ。」


なんだ妹が出てたのか。偉いぞ妹、沈黙を守りたまへ。テーブルに戻ると少しは打ち解けたか、二人が話していた。


「へー津原くんそんな事したんだ。」


「友達ながら恥ずかしい場面でした。」


「おい俺をネタに仲良くなるな。」


戻ってきた俺は改めてテーブルを見る。ドリンク2杯と6皿の食事、これを三人で食べきる。そして会計の後店員さんに魔法の呪文を唱えて、限定商品を獲得!



キツくない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る