第22話 ただいま戻りましたとさ

[お話するから迎えに来なされ。]


[授業いつ終わります?]


[4時頃。]


[学校近くのファミレスとかどうです。]


[おやおや殊勝な後輩くんだ。]


[ドリンクバーなら出しますよ。]


[のった。]


津原進士、ただいま学習を終え帰還しました!いやー疲れた疲れた。そんな俺のスマホにメッセージ、どうやら七畝さんをお待ちしなければならぬらしい。

バスからぞろぞろ降りて帰るだけ。今は3時を少し回った時間だ、結構暇だな俺。


「おーしお前ら!さっさと家に帰れよ、疲れてるだろうし、寄り道なんて考えずにな。」


「だそうだ津原、そっちはどうする?」


「まだまだ遊ぶぜ俺は、華狼は帰るみたいだな。」


「実際疲れた1日だった。まあ悪いことばかりじゃないが、さすがに休息が欲しいな。」


「おいおい良いことあったのか、俺は災難と最悪の波が凄かったぞ。」


「……お前の苦労はまた次の機会な。」


「あーい。」


流れで一緒に降りた華狼と別れ、俺は集合場所のファミレスへ向かう。ドリンクバーって正義だよね、組み合わせで色々味わえるし。


「おーい進士!」


「そういえば今日はどうだったんだ?」


[興味ある。]


「いや来たと思えば好奇心かい。明日の昼にでも話すから、疲れた俺を休ませてくれ。」


「なんだ進士疲れたのか!もっと運動しようぜ!」


「才太の意見はあれだが、疲れる程の事態はあったのだな。」


[明日逃げれると思うなよ。]


「えっこわ。」


本来ならこいつらの所に行ってたから、今日の騒ぎ全部見られてたんだよなぁ……神よありがとう。挨拶もそこそこに歩き出す俺、降りた人混みのおかげか例の方々にはバレずに動けてるみたいだ。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


「後で一人来るので二人です。」


「かしこまりました、お席にご案内します。」


とても普通に入店、案内されて座った席でやっと一息つく。とりあえずでドリンクバー二つを注文、土産やら鞄をおろしリラックス。いざ行かん飲み物チョイス、まあ炭酸ですけどね。


[今向かってるよーん。]


[ジュース美味しいよーん。]


[ん?喧嘩か?大泣きしてやろうか。]


[社会的勝利はやめましょう。]


もう少しで着くらしい七畝さんを待ちながら、今日で一つ片付いた問題に思考を使う。橘さんがああもしつこい人だとは、そして浅原が真人間になる日が来るとは。明日の天気予報が荒れるかもしらん。

不意に肩を叩かれ振り向けば、頬に刺さる指。


「じゃじゃーん、リアル七畝さん来ました。」


「この指がなければ満点なんですが。」


「愛嬌だよ津原くん。さてさて、何飲もっかな~。」


「あー七畝さんの分も頼まないと。」

 

「あれれ、僕の分はないのか~。」


「嘘です、もう頼んでありますよ。出すって言ったのは俺ですから。」  


「おおーありがたーい!」


うきうきで飲み物を取りに行く七畝さん。これくらいで元気だなぁと思う反面、少し楽しい自分がいた。ファミレス……橘さん……浅原、やめよう頭が痛くなる。


「おまち~、どしたの険しい顔して。」


「いやぁ疲れたなと。」


「疲れが顔に出たわけか、そりゃお疲れ様でして。」


「いえいえ七畝さんこそ、学校お疲れ様です。」


「なんか辞めるみたいに言うねぇ。」


「ははは。」


「とりあえず乾杯だー!」


何に、と思ったが野暮だな。コップをカチンと鳴らし、お互いに喉を潤すとした。くぅー!この刺激がねえと1日が終わらないぜ。


「んで?んでんで?」


「なんすか。」


「そんなの当然!何かあったって話だよ。」


「今日ですか。そうですね、色々あって疲れましたまる。」


「ちょいちょい津原さんよぉ、縮めすぎですぜ。」


「語るも涙、聞くも涙の話なもんで。」


「うひゃーハンカチ用意するね。」


そうして話し出す俺。序盤の座禅やら精進料理の話しはそこそこに、伝えるべき本題にさっさと移るか。


「途中までは逃げれたんすけど、橘さんに捕まりまして。」

 

「ほうほう。」


「そんでタイマンしまして。」


「んおっ!?」


「俺が勝ちました。」


「おー……歯ぁくいしばるかい?」


「こわ。でもこれが本当なんです、呼ばれて行ったらもう一度付き合いたいって言われまして。」


「OKしたの?」

 

「まさか!無理無理無理ですよ!こちとら嫌な気持ちしかないのに、再スタートなんて切れません。」


「そっか。はぁ~良かった~。」


何故か安心する七畝さん。おいおい万が一があると、どっかで考えてたって事か?


「いやぁ安心したよ。仮にも一度は本気な相手さん、その人に言い寄られて津原くんがー!て。」


「はは面白いですね、あー傑作だ。」


「顔が笑ってないよ。」

 

「もしそうしたとしたら、俺が相当のマゾになります。」


「でさ。肝心の向こうは何て言ってたの?」


「俺が言ってたこと分かったとか、これから知り合っていきたいだとか。なんで俺にって聞きましたけど、どうもしつこくて。」

 

「そりゃ津原くんが良い人だからじゃないかにゃー。」


「他にも良い奴いるって思いますけど。」


「じゃあ津原くんさ。嫌だと思うけど、四月頃の君を思い出してみて。」


「……念のためビニール袋広げますね。」


「あっそこまでなのねごめんね。」


どうして地獄のような体験を、と思いながらも四月頃の俺。まさしく橘さんしか見えてなかった頃を思い出す。


「その時の君に聞いてごらん?どうして橘さんなのか、他にも女子はたくさんいるだろって。」


「……」


「どう?」


「ちょっと過去に戻ってこいつしばきます。」


「諦めな坊や、そいつは君自身なんだから。」


「はぁ、そうなんすよねぇ。」


「で?」


正直思い出の中にしか存在しない、あの頃の俺。そいつは迷いなく言った。彼女しか考えられない、彼女でなければ意味がないと。


「だよねー。」

 

「で、これが何なんですか?」


「多分橘さん、津原くんが思ってるより惚れてたのかもね。」


「嘘だ。」


「でなきゃこっぴどくフられて、そう何度も近づいたりしないと思うよ。少なくとも七畝さんなら、1週間は家で寝るね。」


橘さんが俺を?まあいくら鈍感な奴でも、ここまで向こうから接近があると勘ぐるだろうが。俺だってそこまで馬鹿じゃない、多分それを無意識に弾いてたんだ。


「まあ君の場合、それまでの扱いがあるからにゃ~。あり得ないって答えが出るだろうけど。」


「まさしくその通りです。」


「でも外野から見ると違うんだってこと、覚えておきなはれ。そんで一番駄目なのは、固くなった頭で全部決めないこと。」


「固い頭かぁ。難しい話しますね、先輩みたいです。」

 

「先輩だからの助言だよ。」


「この頭カッチカチに固まってますから、時間はかかるでしょうね。」


「もしかしたらずっと固いかもね。」


といたずらに笑う七畝さん。俺の中で橘さんと負の遺産が多すぎて、どうにも嫌な人にしか思えない現状がある。固いのかぁ?


「七畝さん。」

 

「お、なんだい津原くん。」


「俺の頭はきっと柔らかいですよ。」


「嘘~。」


「確かに七畝さんの言う通り。体験やら思い込みで橘さんを見てるのは、否定できないかもしれません。ですが今この話を聞いても、俺の頭には同じ思いしか浮かんでこないんです。」


そう。諭されるとは違うが、素直になれと言われたんだろうな。だが俺の素直な根っこが言ってる、もう無理マジ無理やっぱ無理!と。すげーな俺の根っこ。


「むしろ固かったのは最初の恋の俺で、柔らかくなって今の俺になったんだと思います。」


「……そかそか。あちゃー七畝さん余計なマネしちゃったかねー。」


「そうですよ全く。」


「まさかの肯定!?」


「でも良い機会でした、俺一人じゃ考えたくもない話題ですし。」


「なら良かった。」


「にしても七畝さん。」


「どったの津原くん。」


「俺に橘さんはまだ好きかもよー、て教えて俺がよし!待ってて橘さん!てなったらどうするつもりだったんですか。」


「……ズルは良くないかなぁって。」


「ズル?」


ズルって何の事だ?まさかジュースに何か入れたのか!?


違うか。

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