第20話 全く嫌になるってもんよ

「……理由は、聞けるかな。」


「言う必要ある?全部分かってると思うんだが。」


「しっかり聞きたいの。」


「ああそう。」


悪いな我が校の男達よ、お前らなら頷くんだろう。俺は無理!断固拒否!もう関わりたくねぇんだよ。


「まず1つ。橘さんを俺は全く知らない、知らない同士がいきなり恋人とか地雷だろ。」


まず前提がおかしいと思ってはいた。そりゃね?俺だって一目惚れだ!とか言って即告ったよ?でもお互いを知らずに踏み出したって良いこと無いだろ。


「2つ。橘さんは言っていたが、浅原が何もしないわけがない。俺は騒がしいのは苦手だ。あと邪魔されるのもな。」


どこまでも付いてくる人間スピーカー浅原。やれ私がやれ私が、と橘マウントを披露してくる恐ろしいモンスターだ。

想像してみろ。例えば橘さんと映画デートなんて幻想を。真ん中に何故か浅原が座る、そして橘と話そうにも壁となる。なんなら浅原と話してて橘はこっちを忘れてる。


「3つ。あんたといると学校で騒がれる、俺は静かに暮らしたいんよ。」


これが一番かもしらん。俺は平凡な1高校生なの、それが人気者と付き合うと弊害しかないの。そりゃ俺から一目惚れだと以下省略。

現に付き合った時も別れた時も、周りからあーだこーだ因縁つけられたり。彼女を泣かせたな!なんて反応。まじめんどかったあいつら。


「4つ。そもそも橘さんの気持ちはどうなの、俺が好きなの?俺は好き、ここ重要な。でもそっちの気持ちは知らない。」


この世には星の数ほど男がいる。俺という星が流れたんだ、他の星に夢を語っても良いだろう……なんか気持ち悪りいな。

例えば同学年に、王子と呼ばれる奴がいるらしい。なんでも成績もスポーツも、果ては女の子のもてなしまで完璧だとか。俺である必要がない。


「5つ。今の俺は恋愛ってやつ、したくない。前回のがトラウマでね、恋は楽しくないと思ってるから遠慮してる。」


何を生意気なと思うだろう、めんご。だってさぁ!初めての恋がさぁ!一個も報われないわ思い出1つ作れないわ!嫌になるだろ!!

きっと普通の色恋はこうじゃない、頭では分かってるんだ。しかしスタートでコケると次に……て時に足がすくむもんだ。少なくとも今の俺はそれ。


「以上、俺が断る5つの理由。」


「……。」


「何も言えないよな?だろうさ、俺が同じこと言われても黙る。」


「そうじゃ、なくて。」


「え。」


「1つくらい、言いかえ、せる、かなって。」


やけに言葉に詰まるなぁと顔を見れば、あらなんと橘さん泣いてました。嘘でしょ?泣く要素無かったって。汗かな暑いもんね。


「でも、全部わたじが、わるぐで。」


「いやいや泣く事ないでしょ。ほらハンカチとティッシュ、とりあえず落ち着けって。」


こういう時優しいと駄目なのかねぇ、と反省はするが何もしない方が気分悪い。


「……ごめんなさい。」


「そんで?もう納得してくれたよな。じゃあここでお別れに」


「津原くんは。」


嘘だろこ奴まだ来るか、この子ってこんな押し強いなんて。いやそんなの知るほど、深いもんでもなかったわな。


「私を知らないし、私が想ってるか分からないって事だよね。」


「お、分かってくれた!つまりもう俺達は」


「じゃあたくさん聞いて!全部ちゃんと……答えるから。」


「んん?」  


何言ってんだこの人。え?これでじゃあ分かった、とお互いに背を向けて去るシーンだろ。


「いや別に。何も知りたくないけど、そもそも興味ないのよもう。」


何を悲しそうにするのかこの子。クラスメイトとの付き合いなんて、お互い名字が分かれば満点だろ。名前やら家族構成なんてのは、友達とかになると思うが。

その点橘さんと俺はクラスメイト、詳しく話す事なんて1つもない。


「もう良いよな、俺人を待たせるのは好きじゃない。確かにあの日、返事も聞かずに帰った俺は悪かった。でも分かったろ?もう気持ちが無いんだ。」


いや違うな。


「正しく言うなら、少しずつ壊れてたんだ。最初は細かいヒビだったけど、割れ目が広がって粉々になった。そんな感じ。」


「……」


「それじゃあ俺はこれで。」


スマホを確認すると中々に時間が経ち、グループメッセージには集合場所が書かれていた。遅れる訳にもいかんし、さっさと移動するとしよう。


「……ねえあんた。」


「うわ。珍しくいないと思ったのに、何か用か。」


やはり出たか浅原。どうしているのか知らんが、さすがの繋がりだと感心する。


「菫との話はどうなったの?」


「さすがのお前も、会話を盗み聞きはしないか。」


「……私が出るとその、余計こじれるって。」


「事前に釘刺されてたのか、やるな橘さん。」


「私の話は良いのよ!」


「はいはい。結論だけ伝えるが、戻るつもりはない。お互いに頑張ろうって感じだな。」


そう伝えると納得したような、だよねーって顔を見せた浅原。あれおかしいな、こんな奴だったか?


「そうだろうって考えてたけど、想像通りね。」


「少しの間にずいぶん音量落ちたな。どうした?風邪か?」


「殴るわよ。」


「いや悪い悪い。でもそれくらい大人しいと、俺の時より次の彼氏さんはやりやすいだろうな。」


「……あたしなりに、反省はしてる。あんたに言われて、菫とも喧嘩になって。この前あんたの友達にも言われて、あたしはやり過ぎなのかもって。」


「まじか。」


全米が震撼するぞ。あの浅原が!?反省ぃ!?


「菫を守ってあげないと。あの子は大人しくて言い寄られると詰まって、困った顔をしてって。馬鹿よね、それは子供の菫だったのに。」


「正直に言おう、俺は今感動してる。あれだけ橘命だったお前からその台詞と態度、嘘じゃないと願うがね。」


「……菫は、どうだった?」


「しっかり俺の顔を見て、言いたいことまっすぐ伝えてきたよ。俺も言い返したが、それでもまっすぐに向かってきた。弱いとは思わなかったぜ。」


「そう。」


「ああ。」


短い問答をした後、浅原は憑き物が落ちた顔でこっちを見てくる。なんだやんのか。


「不思議なもんね。あんたとこれだけ喋ったの、今日が初めてな気がするわ。」


「間違いじゃねえだろ。だいたい橘と話してて、俺には小姑みてえな態度だったからな。」


「わ、悪かったわよ。」


「ちゃんと謝れて偉いねえ~。」


おっとその拳は反則だろう。飛んできた拳を後ろに下がって避け、張本人は顔真っ赤。


「っっとにムカつく!!」


「悪かった、これでおあいこだな。」


「は?」


「これまでのお前の態度と、俺の態度。今お互いに悪かったって、一度清算しよう。」


「……あんたさ。」


「んだよ。」


「案外優しい所あるのね。」


「そうでもしねえと、どっかの浅原さんが可哀想だからな。」


「良いわよ。これでお互いチャラ、になればいいけど。」


「気にしてない、て言葉は嘘になる。ただもう橘さんと絡むことも無いだろうし、そうするとお前とも会わない。後は時間が解決ってやつだ。」


「津原がそう言うなら、とりあえず流してあげる。」


「へいへい。」


さあて会話おーわり。さっさと帰ってねっころ


「それともう1つ。」


「あんだよ、まだ何かあったか?」


「この前、あんたと友達の事を浮気だって。その事を謝りたいわ。それであたし、しっかり清算できるはず。」


顎が外れそうだ。今目の前にいる子を人間スピーカーと呼んだのは誰だ、俺が成敗してやる。


「浅原、お前割と繊細なんだな。清算だとかちゃんと謝るとか、良い子じゃねえの。」


「言ったでしょ。あたしなりに反省してて、それで謝れるなら謝るわよ。」


「……とりあえず前嶋には伝えとく。その後OKでたら、あー。」


「これ。」


そう言って渡された紙切れ。なんだ準備良いじゃねえか、てか浅原の連絡先なんぞ獲得するとは。


「悪用したらスマホ壊すから。」


「今回の件が終われば消す、なんなら目の前で消去してやるよ。」


「まあ頼んだわ。とりあえずあたしは、菫を見てくる。」


「あー忘れてた。橘さんいたな、俺は先に集合しとくわ。」


そう言って浅原は橘さんの元へ、俺は華狼たちが待つ場所へ。少し前に決着ついた話だと、俺は思い込んでいたのかもな。

やっぱ人間、話さないと何も分からねえ。俺は今日まで浅原はスピーカー、橘さんは突っ立ってるお姫様だった。その印象が、会話の中で変わった。


まあ付き合うとかは絶対ない、うん。

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