第18話 甘味みついでに腹割って

「で?噂ってどんなのよ、俺最近クラスにいねぇから気になる。」


「それは津原が一番想像できるだろうに。」


「まあまあ、こういうのは聞くのが早い。それに俺の想像だと……良い話じゃねえだろ?」


「正解だよ。」


場所は移ってお饅頭タイム、字面だけは楽しそうだ。袖振り合うもなんとやらで華狼と動き、今やクラスの内面に迫ってるって訳。


「先に言っておくが、自分も100を知る訳じゃないぞ。」


「そんな細かく聞いたら俺壊れちゃう。」


「まあ大きいところだと……橘さんを傷つけ豊美くんに見捨てられたとか。」


「おーおー、つまり纏めると」


「クズ野郎。」


「豊美に見捨てられたぁ?なんだそれ。橘さんを泣かしたってのは事実だし、そこは傷つけたと認めざるを得ない。」


「別れたのだろう?円満に済まなかった、と考えるのが自然か。」


「まあな、てかクラスの奴にちゃんと話すの初かも。」


「そこまで深掘りされたくなければ、この会話は止めるが。」


「なんだ優しいな華狼よ、点数高いぜ。」


「うるさい。」


話してばっかの手を止め、せっかく頼んだ饅頭も食べる。んーいいね、会話に使った頭に糖分が働いてる感覚だ。お茶で流して続ける。


「まず屋上に呼び出しました。」


「そもそも屋上に入れるのか?」


「内緒な。それで別れましょうって、そしたら向こうが割と嫌がって。」


「急に言われれば戸惑うだろうな。」


「だからしっっっかりと!日々の募りを口にして、もうやっていけないわ!と。」


「募るものがあったんだな、橘さんを知らない自分には分からんが。」


「……」


「どうした?」


「いや何。今まで別れたことを伝えた連中は、一番に俺を攻めてきたからよ。それこそ、橘さんを何も知らないってのに。」


「あまりイメージや印象に捕らわれない、が大事だと考えているからな。だから自分は動物が好きだ、彼らは思いのままに動くので分かりやすい。すまない話がそれてしまった。」


「この短い時間で、既に君は豊美を抜いたよ。」


思わず出そうな拍手を引っ込め、そこからも経緯を伝えていく。別れた理由に豊美との離縁、付属のスピーカー女の存在と昔馴染み達の場所に避難してること。先輩は……まあ言わなくてもいいか?にしても別れてからの方が充実してんな俺。


「ま、待ってくれ。それは本当……なんだな。」


「ああ、全て俺が体験したことさ。今後華狼が橘さんを狙うなら、ここら辺を我慢できる男であれよ。」


「いやいや冗談じゃない。ろくな会話も無く、伝えた言葉への返事もなくおまけに第三者が常に!?」


「そうだが?ちなみに、俺が付き合ってる間に橘さんとちゃーんと会話したのは……片手で足りる。」


「……それは恋人なのか?」


「それが分からないから離れたんだよ。俺の知る恋愛ってもっとこー、光ってる?てのかな。キラキラした物だと思ってんだが。」


「自分にその手の話は難しいが、確かにな。下手をすれば友達も危うい関係だと分かる。」


「いやーこうして話すのは2人目だな。」


そうなのだ。別れた、一人になりました!と宣言した奴はほぼ学校全員だが、ここまで経緯を語る相手はいなかったなぁ。

才太とか高志には遠慮というか、気を使わせたく無かったんだろう。朱音は浅原との言い合いで、何となく察しただろうがな。


「しかし自分が聞いたとて、これでクラスが変わる訳じゃないが。」


「いーんだよ。こういうのは、言えた~ってスッキリ感が大事なんだ。」


「一人で抱えるよりは、という奴か。」


「そうそう。ロマンを求めるなら、二人だけの秘密って奴。」


そうウインクしながら言ったが、華狼の反応はとても冷めていました。ですよねすみません。


「それで今日の校外学習じゃん?あいつら座席は寄せるし、さっきみたいに追っかけてくるし。」


「津原が、ではなく橘さん達が未練を見せていると。」


「たった3ヶ月くらいの間なのに、そこまで執着するかねぇ。」


「逆に津原は、そこまで綺麗に切れるものだね。」


「最後には冷めきってたし、豊美に関しては俺の言葉を聞こうともしなかった。なんかこう、百年の恋も一瞬みたいな?こいつは何かあった時、俺よりも自分の考えや周りの空気で発言するのかって考えちまって。」


「信用を失うにはこれ以上ない、たった一言が引き金になるわけだ。」


「家の家訓にもある、発言には責任を持てって。口に出したこと以上、俺はそれをそいつの意思だと捉える。逆に口に出さないなら、何もないと捉える。」


「良い家訓じゃないか。それが人生の基盤に入ってるなら、確かに2人は一番良くない事をしてしまったと。」


「そーそー、やんなっちゃうわよ。」


「……正直こうして聞くまで、津原を誤解していたよ。」


「ん?」


そう言いながら最後の一口、あーうまい。こういう時餡が~なんて語れたら良いんだが、そこまで通になれてない自分が憎い。


「自分が知る津原は、クラスで聞く悪評だけだった。今日隣に座る、同じ班の一人を善悪で言う部類の悪だと。何しろ話したこともなかったからね。」


「それは仕方ねえさ。俺だって話してみるまで、華狼って名前さえ知らなかった。」


「津原の言っていた通りかもな、口に出さねば分からない。」


「ようは腹割って話せってことだ。」


「まあ詳しく聞いた仲。この学習が終わった後も、少しは関わりが続けば良いが。」


「しっかしクラスに場所がねえからさ、俺外で食ってばっかよ。」


「暇な時はそれに付き合わせて貰おうかな。クラスの喧騒は、時に動画の音量を越えてくる。」


「あー静かな場所ね?任せとけ。」


見ると華狼も食べ終わってごちそうさま。さて次はパフェだと意気込む俺、俺の後ろを見てあって顔をする華狼。おいなんだ華狼、その顔は。


「み、み、見つけました……津原さん。」


俺もつられて後ろを見ると、そこにはとても疲れた様子の橘さんが……やっっっば。ダッッッッッル。

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