第16話 座禅で無の境地行ってみてえ

「班長、全員降りたか確認して俺に報告。」


というわけで着きましたお寺です、いやー事前に写真とか見たが……めちゃくちゃ大きい。とりあえずクラス列で待機する俺。

学年が全員一ヶ所に集まると凄い数だわ……世界征服狙えるんじゃねえのこれ?


「よーし全員いるな。これから中に入って本堂にお邪魔、そんで色々話を聞いたら座禅をさせて貰うって流れだ。無いとは思うが離れるなよ。」


「「「はーい。」」」


点呼も終わりいざ出発。入り口で靴を脱ぎ奥へ進む、皆広い部屋や畳一面の和室への感想やら話している。俺?俺ですか、独り言になるから黙って歩いてますけど。

一応こっから勉学なので、スマホを弄るのも禁止されてるからなぁ。


「せんせ~写真撮って~。」


「後にしろ後で。」


「ぶーぶー。」


クラスも盛り上がりを見せる中、背後に感じる二つの気配……いや片方にはオマケが多い気がする。


「橘さん見てください!池ありますよ!」


「橘さんは将来こんな家が良いですか?あなたがいる家は、それだけで輝いてしまいますね!ははは!」


「だーあんた達うっさいわよ!菫から離れなさいよね!」


「真祐美ちゃん、ここお寺だからあんまり大声は……」


「ね、ねえ進士見て!鳥がいるよ!」


橘に取り入ろうとする男子達、声量で追い払う人間スピーカーお前クラス戻れよ、あと鳥はそう珍しくねえよ。つか何で俺の後ろ?離れてくれない?

騒音に悩まされながらも着いた本堂。全員が座っても広いと感じるそこに、この寺の住職さんがやってきた。


「本日はよろしくお願いします。」


そう言って一礼され、こちらこそと全員で声を揃えてよろしくの一礼。そこからこの寺の創設話、仏教の流れや徳を積むなんてありがたい話……眠い。

時折質問コーナーがあったが、正直何聞いていいか分かんねぇし。適当に相槌をしながらなるほど、と小さく呟くことで分かったフリをしておこう。


「それではこれより座禅を行い、無心になりましょう。」


座禅場所はここではないそうで、クラス毎に案内された部屋で姿勢からしている間の説明をしてもらう。え?一時間も座るの?


「最初に軽く肩を叩くので、その際に首を避けてください。その次が本当に叩くことになります。叩かれた後は姿勢を崩さず、お辞儀をするように礼をしてください。」


そして始まるんだが……分かるよな?話すことがないんだよ。だって黙って座ってるだけ、一度叩かれたがそれ以外イベントはないんだ。

驚いた事と言えば開けて良いですよ、と住職さんに言われていつの間にか一時間経っていたことだな。


「それではこの後、精進料理を頂きまして本日は終了になります。では移動しましょう。」


「橘さん立てるかい?ぼくが手をかそ」


「いやいやここはしっかりと運動で鍛えてる俺が」


「ふっ、人が立つ際の効率的な立ち方はだね」


「え、えっと……その……」


「進士~大変だったね、僕叩かれた時飛び上がるかと」


お姫様は困っておろおろ、1名話しかけてきたがスルー安定ですね。目を閉じてる間にいなくならねえかなぁと思っていたが、夢では終われないようだ。


「よーし座りは……バスの座席でいいか。用意して貰った料理前に、それっぽく座れー。」


いつでも適当だなこの先生。にしたって座席順だと?おいおい両隣最悪じゃねえか。長いテーブルが2列、そして座席の前後左右で座っていくから……このままだと俺は囲まれる。


「華狼さんやい。」


「なんだ津原くん、特に話すことは無いはずだ。」


「いやぁそのですね?席変わりません?」


「嫌だ。自分はここで問題ないし、変わる必要性がない。」  


「実は俺トイレが近くて、そっち廊下にすぐ出れるだろ?こっちだとぐるっと回らないと、その間が怖いんだよ。」

 

「はぁ……それなら仕方ない。」


「おー助かるぜ!あとついでにバスで言ってた動画のURLを。」


「変わるなら早くしろ、見たいなら後でリンクをメッセージしておく。」


「色々すまないな。」


「というか、こっちで良いのか?そっちに座るメンツの方が、津原も親密だろうに。」


「あー……新しい友情を見つけたいんだよ。ほらあれだ、隣の芝生は美しいみたいな。」


「さっぱり分からん。」


こうして席を変わってもらい、何とか最悪の事態を避けた俺。俺の両隣は名前も知らない一匹狼達、仲良く黙って食おうな!


「あれ進士?こっちじゃないの?」


「つ、津原くんどうしたの?」


「ああ橘さんに豊美くん、すまないね邪魔して。彼がトイレに近いらしいので、僕と場所を変わったんだ。」


「そ、そうなんだ……ふーん。」


「事情があるなら、仕方ないですよね。」


「そういう訳、華狼にはなんか礼しないとな。」


「いらん。」


その後頂いた精進料理は……うん、健康的な味だったよ。あと六十年くらい経ったら美味しいんじゃねえかな。


「なーんか食べた気がしねぇ。」


「肉がないし、量もお世辞にあると言えないからな。だからこその自由時間だろう。」


「この後どこ行こっか!僕ね、美味しそうなお店見つけたんだ~。」


「お土産屋さんに寄りたいです。」


「ていうか津原くん、君一度もトイレに立ってないじゃないか。」


「はっはっはっ。」


さてと、こっからが俺の本当の戦いになるわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る