第11話 放課後 夕焼け お話

「それじゃあまた明日だ。」


がやがやと放課後にもなったからか、クラスが賑やかに騒ぎ出しましたとさ……俺?俺は屋上へ向かう準備さ。まっっじであの先輩が待ってるとしたら、帰らせねば。


「あ、あのさ進士」


「そ、そのっ!」


何もない聞こえない分からない、さあて向かおう風吹く場所へ。これでいなかったらお笑い者だな。

とまあ着いた所にちゃんといたんだよあの人、堂々と真ん中に立ってるの。ちょっと危ない人かしら?


「おー来てくれたか後輩くん。いやー先輩不安だったよ……まあ、来るかなって考えてたけどね。」


「はあそうですか。」


「それじゃー津原くんよ。ほれ、こっち座れ。」


準備が良いことでシート完備、何故かドリンクまで付いてくるとは予想できなかったな。ひとまず勧められるままに座って、ついに始まる対談。


「それで、先輩は」


「七畝さんだぞ~。」


「……まあ先輩は」


「七畝祷さんだぞ~。」


「……はぁ、七畝さんは俺に何かあるんですか?」


「んまあそれでいっか。」


にししと笑う先輩に苛立ちしかないが、しっかりと屋上で待ってたのは事実だ。知らない下級生の悩みに付き合うからって、こんな時間に待つか?っつーのが俺の考え。


「後輩くんは」 


「津原です。」


「っかー。まさか仕返しされるとは、私ちゃん驚いたよ。それで津原くんさ。」


そこで先輩は言ってのける。ぶっちゃけそれは考えてなかったし、本当にまさかって展開だったと後でも思ったさ。


「なんであんなに熱い告白した彼女さんと、お別れすることにしたの?」


「……は?」


「いやさー、言い出しにくかったんだけど……僕よくここにいるんだ。」


「まあ、会ったのもここですし。」


「一応聞くけど、津原ちゃんは屋上にどうやって来たのかにゃ~。」


「静かな場所を探してて、屋上のドア力任せにやったら開いたので。」


「いんや~そんな感じか。実はさ、鍵は先輩が開けてたのだ。」


「……と、言うと?」


「七畝さんもここがお気に入りでね。昼休みになったらぴゅーんと飛んできて、先生には無くしちゃったって隠したこれで。」


そう言って先輩はポケットから鍵を見せる、そこには屋上とタグが付いた鍵。なんとなーくだが……理解してきた。


「じゃ、じゃあ屋上は俺だけって思ってたのは。」


「七畝大先輩のおかげなのだわ。」


「それで俺の告白も?」


「んやー放課後にゴロゴロも斬新だなってべたーっとしてたら……ふふっ。」


ま、まじかよ。俺の今思えば黒歴史、強いては忘れたい過去NO.1なあの出来事を!?


「その後もさーちょいちょいご飯食べに来てたじゃん?全ては私様のおかげざますよ。」


「……こんな事言うのは変ですけど、七畝さん屋上好きすぎません?」


「クラスは騒がしくてさ~それに……一人の方が楽だったり。」


おどけた顔で笑うけど、なんだか暗い笑顔って感じだ。まあそこを突っつくほどじゃねえから、一旦この話を終わらせよう。


「で、七畝さんは別れた理由が聞きたいと。」


「まあね~。あんな熱々を見せられて、一緒にご飯食べてるだけで笑顔だった後輩ちゃんが、なんで悲しい顔をしてたのか。七畝さんは優しいから、気になっちゃった。」


「……そこまで見てたんですか。なんか恥ずいんですけど、そりゃ別れた理由も気になりますかね。」


「頑張れ若者っ!と先輩勝手に見届けた気分だからね~。」


「そっすよね、まあ他言無しなら。」


「任せなさーい。僕、口は固いから。」


「結論から言うと、まあ幸せだったのは俺だけかなって。」


一度話し出したら止まらない、それほどに鬱憤があったみたいだ。昼間才太達には止められたが、先輩は頷きながら聞いてくれてる。たまに変なツッコミしてくるのが傷だが、なんだか助かった。


「……とまあ。」


「ほほーん。苦労したね少年よ、お姉さんが胸を貸そうか?」


「いやいらないです。」


「……冷たくないかな?先輩も人なんだよ?」


「逆につい最近まで彼女いた男が、他の女性に泣きつくとかどうなんですか?」


「んはは~津原くんは強いね~。」


「どうも。」


「とりあえず分かったよ。君は思いを伝えて幸せに、でもお相手さんは違ったのかな~。」


「さあ、今となってはですね。例えになりますけど、俺が100好きを伝えても1つも帰ってこない。そんな関係だったんだなと。」


「ふーん……じゃあ七畝さんが言ってあげようか?」


何を冗談……なんて思って隣に座る七畝さんを見たけど、表情がガチで何も言えなかった。


「好きだぞ津原くん。君が好きだと伝えた人は僕じゃないが、あんなにも熱く人を思い相手を敬い、明るく笑う君の顔をいつの間にか追ってた。薄々気づいていた。彼女さんの付き添いが邪魔をして、君が悲しんだ顔をするのが嫌だった。でも僕は外野だ、言う権利はないと黙ってたよ。」


「……」


「君が悲しい顔をしたら、僕まで悲しいのに気づいた時は驚いたよ。君が一人で……昼間思い詰めた顔をしてたら我慢が出来なかった。だから……こうして踏み出したんだ。いやー勇気が出たよ、出して良かったよ。……で?どうかな後輩くん。」


真剣な顔からまたふにゃけた顔になり、七畝さんはこっちを見てくる。さっきまでのが嘘みたいだ……でもその目は真剣だって分かった。


「七畝さん……これくらい真剣なの初めてなんだけど。」


「……なんだか、一人じゃなかったんだなって。」


「んえ?」


「いや、俺が別れたって聞いた途端に俺が悪いって。彼女に不備はないと言われることが多くて、俺一人が悪者か……とか勝手に沈んでたんです。でも先輩が見ててくれたなら、変な感じですけど知ってくれてる味方が出来たかなって。」


でも、こんな感情で答えていいような物ではないと。心のどこかで引っ掛かるところがある。先輩の言葉が嘘か本当か、正直疑ってしまうのが俺だ。


「じゃ、じゃあ?」


「……すいません。まだ整理したい時期と言うか、しばらく恋愛とかには疲れたかもしれません。」


俺の言葉を聞いた七畝さんは少し、見間違いかと思うほど一瞬の泣きそうな顔。でも次には笑って


「んにゃあ津原くんが芯のある男で、先輩は感動してるよ~。ぽいぽい女の子作らない辺り、ポイント高いぞ~?」


「……七畝さん。」


「どうかしたかい?」


「本当に嬉しかったです。人生で始めて、人から好意をいただいたかもしれません。あんなにも真っ直ぐで、凄く綺麗だったのは本当です。」


「……」


「しばらく俺、この屋上に来るかもしれません。他の場所はなんつーか……いづらくて。」


「ウェルカムだよ。ここは私ちゃんと津原くんの場所、避難所ってことだね~。」


「よろしくお願いします。」


「りょーかいだよ。」


「これからは友達……とかでどうですか?」


「……仕方ないな~なってあげるよ。」


笑った七畝さんと握手して、俺たちは帰ることにした。帰り道で、今まで屋上でやってた好き好きアピールを見られてた事を思いだし、叫んだのは内緒だぞ。

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