第10話 楽しい楽しい作戦会議

「つーわけで、来週の話しようぜ。」


「気が早いのではないか?」


「そーだぜ進士。まだ座席とか班とか、こっちは決めてもいねえぞ。」


[焦るものでもないし。]


「……だよなあ。」


やっぱうちの担任がおかしいんだな、と朝を思い返しながら話を強行する俺。ここで逃がしたら当日の安全がっ!


「まあまあ良いだろ?それともあれか、気になる子と回りたいとか?」


「断じてない!俺はどのような班に組まれようと、当日はサマルたんと過ごすのだ。」


「んー俺は……組む奴はいつものだろうけど。進士や高志が空いてんなら、それも面白そうだな!」


[特になし。]


「じゃあそれで」


[で、理由は?]


「……ヒューヒュヒューピュピィー。」


すいません下手くそな口笛で。朱音の奴……俺の必死さに何か感じやがったか。隠す事でもないか。


「いや実はさ、ちょっっと気にしすぎなんだろうけど。」


「ほう。しかし橘さんとは別れ、思い残しもないのだろう?」


「だよなー。本当だったら橘さんと回るからって、進士から話しすら出なかっただろうし。」


[もしかしてだけど。]


「「ん?」」


[橘さん絡みとか?]


「あっはっはー……はぁ。そうなんだよ、俺の勘違いや気のせいであって欲しいんだが。当日の俺は狙われるかもしれない。」


そのまま朝の班、バスの座席決めのなかで感じた違和感を話す。いや違和感つうか、あれは完全に俺に合わせてたよな?


「つまり、橘さんは進士をまだ諦めていないと?」


「いやいや進士!未練あるなら言えよ~。」


[女々しい男。]


「ざっけんな!もう橘はこりごりだっつの。」


「わ、悪かった……しかしそうなると、接近してくる可能性が高いと見る。」


「けどさ、今さらまた近づいてどーすんだろうな。」


[復縁とか。]


「いやいや無いだろ。結構俺きつく言いましたよ?」


「では恨み返しということか。」


「うわあそれだったら……ドンマイだな進士。」


[あーあ、短い人生だね。]


「お前らに相談した俺がバカだったよ。」


言うもんじゃなかったな……少し真剣に考えないといけないか。食べかけの食事をさっさと終わらせて、風にでも当たるか。


「どうした進士?」


「んだよ~怒ったか?」


[どうしたの。]


「悪いが意外と真剣なんでね。ただでさえ別れるために色々考えて、やっと決着つけたことがぶり返すんだぞ?今じゃ話したくないし、近くにいたくもないレベルだ……今の話しは忘れてくれ。」


こいつらは良い奴だと思う。ちょいとリア充で浮かれて離れた時期もあるが、こうして当たり前のように迎えてくれた事は感謝してる。

ただよく考えたら、橘と俺との問題だったな。周りに頼るのはどうしようも無くなってからにするか。


「待て進士」


なんだか話し掛けてくれたが、今はそうだな……屋上にでも侵入しよう。基本入れないようになってはいるが、何せ古い扉に古い鍵。一人になりたい時とかにこっそり力技で侵入してるのよ。


「あー気持ちいい。」


ちょうど良く吹く風と過ごしやすい気候……っべ寝かけたか。とにかく要点を出すか。

まず前提として、俺は橘と豊美に狙われている。理由は考えたくもないが、来るなら逃げるだけ。バスの座席選びはどうにかなったが、肝心なのは現地での動き。


「あれま、誰か来てた。」


当日は美術品の歴史館?みたいな場所だと聞けたし、作品を見てる後ろでこっそりフェードアウト……これしか手がないな。


「ちょっとお邪魔してるよ。」


しかし最後には班として点呼される。合流のタイミングを逃さないよう……例えば誰かと連絡先を交換しておいて、点呼前のタイミングに呼び出してもらうとか


「もしもーし。」


「ん?」


なんだ?この屋上には俺だけのはずだが…


「こっちだよ。」


「こっち?」


声がしたのは上の貯水タンク辺り……嘘だろ梯子で登ったのか?


「どうもどうも。おや、初めましてだね。」


「はあどうも、津原進士と言います。」


「ほほー礼儀があるね、自分は七畝祷ななせいのりと申しますよ。」


なんだか気の抜けた挨拶してくれた七畝さんとやらは、ゆっくり梯子を降りてこっちまで来た。


「そんでどしたの?」


「何がでしょう。」


「いやいや~屋上にフケに来るとは、悩み事か不良の二択だよ君。」


「じゃあ不良の方で。」


「なんとっ!」


「まあ冗談です。」


「ほっ……」


「にしても……ええと、先輩ですよね。」


うちの学校は学年によって、上履きの先端の色が違う。一年は青、そこから緑・赤と学年ごとに色違いになっている。七畝さんは緑だった。


「そうだぞ後輩くん。」


「津原です。」


「んまあ細かいことは良いでしょ~。」


「そういや何時からいたんですか?」


「さっき津原くんが悩んで、んーんー言ってた頃かな。」


「まじか、声出てました?」


「いかにも悩んでます……といったオーラと共にね。」


「はっず!」


「それでどんな」


その時チャイムが鳴った。しかしこれは昼休み終わり、授業開始はこの後のチャイムだ。


「ちぇ~面白そうだったのに。」


「いやー鳴っちゃいましたね。と、いうわけでさようなら。」


「そしたらさ~津原くんよ。」


「……なんですか先輩。」


「七畝さんで良いぞ~。放課後ここで待っててあげようか?」


「そこまでする事ないですよ?つまらないはなしだし。」


「まあまあ~……先輩健気だから、来ないとずっといるかもよ。」


「もしかして脅されてます?」


「さあどっちでしょ~。」


なんだこの人怖いな初対面だよな、すげえ馴れ馴れしい。だが俺が来ないと春とはいえ、屋上にずっとは……


「はぁ、分かりましたよ。相談は絶対しませんけど、一応来ます。」


「え~。」


「それじゃ。」


軽く会釈して教室へ急ぐ。なんだか別れて落ち着くと思ったのに、どうしてこう平穏は掴めないもんかね……やれやれだぜ。

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