第8話 夢って幸せな奴多いよな

「た、橘さんっ!お、お、俺と付き合って!くださいっ!」


そうやって頭を下げながら手を伸ばす俺……俺?分かったわこれ夢だな。橘の名前を聞くことが多すぎて、ついに夢にまで出てきやがったか。


「えっと、津原……さんですよね?」


「そうです!私が津原進士と申し」


夢の中の俺よすまないと思いながら殴りかかるも、やはり夢か。すり抜けて恥ずかしいのが止まらないんだが。


「ます!」


「失礼かと思うんですけど。私たちって……えぇと、何かありましたっけ?」


「いえ何もありません。今日クラスが一緒になったので、その時の恋を叶えにきました。」


うわはっず、うわきっも。


「その、私も恋や愛は分からなくて。」


「なら一緒に探しましょう!俺がどうしても嫌だとか、無理だと思ったらすぐに捨ててください。」


「……本当に、私で良いんですか?」


「橘さんだからこそです。今日一目見たくらいの俺ですが……これからあなたを知って、その隣を歩いていきたいです。」


初告白が重いよお!なんだこの男俺かよっ!まあ俺だよなそうだよな!

あー……今思うとすげぇ恋してたな俺。こんなにも真っ直ぐぶつけて、何も知らなくて幸せそうで。


「……えっと……よろしくお願いします。」


「っ!?いよっしゃぁぁぁあ!!」


あーあー跳び跳ねちゃったよこの子、下に落ちて死なねえかな。


「じゃあまずは!連絡先を交換しよう。」


「はい。」


「と、ところでなんだけどさ……」


「?」


きょとんとした顔で見上げてくる橘に、夢の俺はもうくらくら来てるわ……はあ情けねえ。ん?この後何言ったんだっけか?


「し、下のお名前で!呼んでも良いですか!」


あー思い出したこれだっ!告白が上手くいったからと調子のって、いきなり名前呼びに発展さすなや俺!んまあこの時橘は……


「ええと……良いですよ。」


「……マジですか?」


「マジ、という奴です。」


「ぁぁあ、ありがとう菫さん!」


そうやって叫びながら橘の手を掴む俺、おいおいやめろ。他人が見たら無理やり迫るヤバい男だぞ。橘の顔は……いかんなこれは俺の夢だからか。もやってて見えねえぞ。


「ちょ、ちょっと」


「いやあ本当に嬉しいよ!じゃあまた明日な!夜連絡するから、明日からよろしく!」


「は、はあ。」


あーマジで馬鹿みたい。仮にも彼女になった人を置いてスキップで帰ってるよ、改めて見ると破壊力が違うな。見ろよすれ違う奴皆振り返ってるぞ。

んまあこの後は、妹や昔馴染み達に報告してウッキウキしてたさ。もちろん信じてもらえないだとか、リア充爆発など暖かいメッセージを貰えた。


[こんばんは。]


そんな矢先だ。すっっかり忘れてた橘からのメッセージを見て、ウキウキ気分がどん底になったんだよなあ。


[ごめん!俺から送るって言ったのに。]


[連絡がないから心配で送りました。]


[ありがとう、良ければ明日一緒に学校へ行かない?]


[……分かりました。]


いやメッセージで……←これ使うてどんな心境だよ。と今なら思うが、まあ出会って1日だし相手は俺が好きじゃなかっただろうし。悩むわな。


[じゃあ商店街にある大時計の所で待ち合わせしよっか。]


[はい。時間はいつ頃でしょう?]


[遅刻させたら嫌だから、7時30分でいい?]


[はい。]


[それじゃあおやすみ!遅くに本当にありがとう!!]


[おやすみなさい。]


あーあーベッドの上で悶えて、あれだな丸まろうとするダンゴムシ的な?……表現力無さすぎるだろ俺。

と、ここで少し飛んで大時計の所まで、二人きりのあまーい登校が


「あんたが津原進士ね?」


「……あれ?菫さんは?」


「菫はまだ来てないわよ。まだ集合まで20分もあるんだから、当然じゃないかしら?」


「んまあ確かにな。」


「そ!れ!で!あんた……菫と付き合い始めたってのは本当なの?」


「んー、OKは貰ったから。か、カップルになったと思う!」


「ふーん……」


そう言ってあいつは俺の回りをくるくる、この時はやべえ奴に絡まれたと思ったもんさ。まさか想像以上にやばいとは気づけなかったがな。


「あんた。」


「そのあんたってのは失礼じゃないか?そもそも誰なん」


「菫と別れなさいよ。」


「あ?」


何言ってんだこの女ってのが、浅原と会った時の第一印象だったわけだ。こんな最悪な出会いある?


「津原だっけ?あんたに菫は釣り合わないでしょ。」


「お前が誰か知らねえけど、決めるのは菫さんだろ。」


「あたしは浅原真結美、昔から菫の友達よ。」


「ただの友達が色恋沙汰にまで首突っ込むか?」


「菫はね、良い子なのよ。だからあんたみたいな奴の告白も断れなくて、困ってると思うわ。」


「お前頭おかしいんじゃないのか?」


「何よ失礼ねっ!」


「失礼はてめぇだろ!」


「おはようございます津原くん……真結美?どうしたの?」


ここで登場橘さんだ。当時は熱くなってて気付かなかったが、こんな奴と言い合ってたら30分になったって事。


「おはよう菫さん!」


「おはよ菫。」

 

「うん……」


「ここで待ってたら、菫さんの友人だって言うから話聞いててさ。」


ひゅーやるね。上手くこの場を逃げる口実作ったわけで、でも顔は浅原への怒りしか浮かんでないがな。


「そうなのよ。昨日菫が言ってたから、どんな人かな~って。」


「そうだったんですか。」


「さあ行こうか菫さん。」


一刻も早く行きたかったんだろうなあ……手なんか握って歩き出す俺。


「ちょっと!待ちなさいよっ!」


「今日は菫さんと二人で行くって約束なのさ~、悪いね浅原さーん。」


「真結美、また後でね。」


「ちっ。」


うわあ舌打ち?舌打ちだよなあの野郎。まあこの時が最初で最後、二人で通う登校だったな。


「あの……津原さん。」


「どうしました菫さん?」


「……その、手を。」 


「え?あっごめんっ!」


こん時の橘の顔はよーく覚えてる。真っ赤だったね。まあ無意識に握ってたって分かった俺も、すぐに真っ赤になったけど。あー甘い甘いコーヒー無いかな。


「そ、その!嫌……だったよね。」


「い、いえ!なんというか……初めてだったので、凄くドキドキしました……」


んでしばらく無言で見つめあったり。あー……終わりはすぐだぞ~今の俺たちはそんな空気ないぞ~。


「じゃ、じゃあ……また握っても良いかな?」


「……はい。」


顔真っ赤でお手手繋いで登校。いやあ初々しい!なんかカップルみたい!この時はそうだったけど!!

そんなこと思ってたらなんか……こう。世界がぼやけてきやがった。夢が終わるときってこんなんなのか?


まあこれは夢さ。終わりは俺が知ってるし、こっからは落ちていくだけだ……また今度見るだろう。

さて!断ち切った素晴らしき世界に戻りますかっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る