第4話 お昼休みの避難場所

「じゃあこの問題、来週やるからなー。」


そんな担任の声に続いて、昼休みを教えてくれるチャイムの音。やっと飯が食えるぜ……あれ?そういやスマホどこやったっけ?


「まあいいや。」


「ねえ進士」


何か聞こえたかい?何も聞こえないなよし!お弁当持ってさあ行こう癒しの場へ。そんな俺はるんるんと教室を出て、いつも食べてる場所へ。

いや待てよ?もっっしかしたら、騒がしい奴らが俺の幸せを邪魔しに来るのでは?


「ちょっ、ちょっと。」


「あ?浅原じゃねえか。朝の続きってんならお断りだからな。」


「違う!……違うの。」


「うっるせえな。」


「……これ。」


そう言って浅原が突き出してきた手には、んー?すんげー見覚えのあるスマホがそこに。


「朝あんたから取った後、その、返し忘れてたから。」


「あーはいはいありがとね。」


パッと受け取り済ませてさようならってね。スマホを握って横を通ろうとしたが、道を塞がれ仕方なーく相手をする。


「なんだよ。話も用事も終わっただろ?」


「菫はどうしたのよ。」


「橘さん?」


そういやすっかり忘れてたわ。元カノ様がどうなってるかを見て、分かってない浅原に丁寧に教えてやるか。


「えー現場からですけど、クラスの方々に囲まれて昼食のお誘いを受けていますけど。」


「なんで!あんたが誘わないのよ!?」


「なんで俺が誘わなきゃいけねえんだよ?」


「だってあんた」


「何もないけど?」


「え」


「別に彼氏じゃないし、仲良くもないけど。それにさ、いつも浅原、お前がいたじゃんか。」


「あ、たし?」


「そうそう。俺と橘さんとお前、んでお前と橘さんが楽しそうに話してなかったか?記憶違いならすまないんだが、俺は黙って飯食ってたけど。」


「で、でもあんた言ってたじゃない。好きな人と一緒にいれ」


「もう好きじゃないから。そしたら苦痛しかないだろ。」


「」


本当にこいつ分かってんのか?ったく朝しっかり話してやったのに、まぁだ分かってないのかよ。ちゃんと頭働いてるこいつ?


「俺だって飯食いたいからもう行くぞ。」


「……」


沈黙は肯定ってね。さっさと横抜けて歩きだす俺、さて目的地はどこへ行くか。屋上は飛び降り防止とかで入れない……いやまあ一部生徒が侵入してるらしいけど。

そんな奴らと対立したくねえし、中庭のベンチはカップル達に使われるとか。これ逃げ場ないな?


「……はっ!あそこなら良いんじゃないか。」


考え抜いて名案を思い付いた結果声出ちゃった、仕方ないよね。俺は唯一と言ってもいい逃げ場を考え付いて、手に持ったスマホでメッセージを送る…頼む。


[席はまだ開かれているか?]


[裏切り者に残す席なし。]


[我目を覚まし現実へと帰還せり。]


[それは真実か?]


[審議の場にてそれは判明する。]


[ならば許可する。]


一通りのやり取りをしながら、俺が目指すのは封印していたあの場所……そう図書室。しかしこの学校の図書室は特に騒ぎ汚さなきゃ誰でも使える。

辿り着いた俺がノックすると中から返事、はなくドアの隙間から紙が出てくる。その紙は誓約書のようなもので、俺が掟を破らぬ限りは使用を許可するといった内容だ。迷いなく了承を書いた紙を返せば、いよいよドアが開かれる。


「久しぶりだな……。」


「ようこそ、暗闇の園へ。」


「光からの帰還と聞いたが、それは誠か?」


「いや本当変わらないなお前ら。」


「「な、何を言うか!!」」


部屋の中にいる奴らは中学からの付き合いであり、暗闇だなんて言ってるが……ようは非リアでの集まりと思ってほしい。


[お帰り。]


「相変わらずメッセでやり取りか?」


[うるさい。]


「うぉっほん!それで進士よ、どういうことだ?」


「そうだそうだ!進士はリア充になって、楽園へと旅立ったと。」


「毎度大袈裟なんだよ才太、高志。」


[それと?]


「あーはいはい朱音。」


昔から付き合いがある非リア同盟とまで言われる、角戸才太かくとさいた 佐熊高志さくまたかし 前嶋朱音まえじまあかねの三名だ。

図書委員である才太が鍵を開け、こうして暗闇の園が開かれるってわけ。他の生徒?あいにくこの学校の生徒たちは本よりも会話や青春を楽しんでるから、滅多に来ない。


「まあよく帰ってきたな、しっかり歓迎はしてやるぞ。」


「しっかし進士!お前どうしたんだよ。」


[光は?]


「そういや話してなかったか。俺の光は失われ、再び闇に堕ちたのさ。」


「……なるほどな。朝方から耳にしていたが、本人から聞くと真実さが確実になるな。」


「進士まじか!?いや俺は嬉しい……嬉しいは駄目か?えっと、んーと。」


[おめでとう(^o^)]


「1人だけなーんか気に食わねえけど、やっぱここ良いな。」


懐かしい空気に俺はつい笑ってしまう。ここは非リアが集まる、つまり橘さんがいた俺には踏み入れなかった領域だった。

そのお話はさておいて、やっと飯が食えると近くの椅子に座り弁当を広げる。ん?図書室で飯が平気かって?あー……汚さなきゃいいだろ。


「いただきます。」


[礼儀正しすぎ。]


「まあそう言うな。進士はそこら辺の礼や義理、重んじているのかもしれないぞ。」


「んーっと……進士どんまい!」


「お前らもう食ったのか?」


「いや今からだ。」


[食べるよ。]


「よっし上手いこと言えたぜ、飯食おっと。」


どうやら全員これからだそうだ。やっぱ……ここは落ち着くな。これからも世話になろうそうしよう。

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