第3話
ナナフシの死を経験してから、カエダの境遇に変化が生まれた。
「あの……カエダくん、ちょっと俺達と話さない?」
クラスメイトではない生徒から――時には上級生から声を掛けられることが増えた。
頷いて見せると、彼らは皆花が咲いたかのように笑った。両親が自分に見せてくれる笑顔のように愛おしいな、とカエダは思った。
最近になって気づいたが、どうやらカエダは一部の生徒の憧れの的となっているらしい。
「今度バスケ部に来いよ。そうしたら俺と同じ下校隊列に入れるし」
「いーや、委員会に入るべきだよ。カエダくんの頭脳は正しく活かされるべきだよ」
「ねぇ、このまま今の部隊にいようよ。一緒に帰ろう」
移動すれば常に複数人の生徒を引き連れている自分のことを、まんざらでもないとカエダは感じていた。
世間は冬の足音が聞こえているが、人生はまさしくこの世の春。
誰もが涼やかな顔で優秀な成績を収めるカエダを自分のコミュニティに引っ張り込みたがる。
「……ちっ」
廊下の中心を肩で風を切って歩いていると、明らかにカエダに向けた舌打ちが聞こえた。
カエダはやれやれ、とため息をついた。
「彼の名前は?」
太鼓持ちなのか友人なのか怪しい線の生徒が、慌てて脳の情報を紐解いてカエダに耳打ちした。
「三年のツチグモです」
カエダが目立てば目立つほど、ヒメコガネの亜種のようなやっかみ男が必ず生まれてくる。
そういう生徒は、生徒会に『相談』して行進の位置を自分の目の届く範囲に変えてもらうのが最近のカエダの常だった。
●
カエダはここ最近の『かわいそうな』生徒のことを思い返す。
文芸部のアリヅカ。
カエダは、かねてからヒメコガネが持っていた高級な腕時計を、ちょっとだけ羨ましく思っていた。
ヒメコガネは良家の子息だ。ああいう高価な品も買い与えられる。高校生が持つには分不相応にも程がある一品なので、カエダは両親にはねだらずアリヅカを転ばした。
隊列にいた周囲の生徒も少し巻き添えになったが、性格の暗い不気味な生徒が一人死んでくれたのだからきっと地獄で喜んでいてくれることだろう。
野球部マネージャーのカゲロウ。
カエダは学問では揺るぎない頂点を手に入れたが、しばらくして他に箔をつけてもいいだろうと考え始めた。
カゲロウは、ナナフシのように求心力のある生徒だった。容姿も整っているし、近隣の女子高にファンクラブもあるらしい。その人気を彼に独り占めにさせておく理由はないので、しめやかに行進から外れてもらうことにした。
それからカエダは、現在のように常に周りに人が絶えない生徒となった。休日に、見知らぬ女子生徒から声をかけられたときは、緊張のあまり思わずポケットに入れたがま口を握りしめてしまった。
二つ隣のクラスのヒバカリは――別に怨みもないし顔もあまり覚えていないが、その時カエダはどうしても肉が食べたかったので下校行進でさくっと転ばした。
おかげでその日のカエダ家の夕飯はすき焼きだった。本当は焼き肉が良かったが、ヒバカリの献身があったので文句は言わなかった。カエダは、自分がナナフシにも劣らない聖人だと確信した。
これまで、自分の代わりに呪いを肩代わりしてくれた生徒を思い返して、カエダは懐かしくなった。
がま口の中はいっぱいになりそうだ。そろそろもう一人転ばして、もっと大きながま口を手に入れようか。もしくは、時計に見合うようなブランド物の財布もいいかもしれない。
さっきのツチグモは、そのために取っておこう――。
「なぁカエダ。そろそろいい返事を聞かせてくれよ。俺のバスケ部に――」
「いいや、君は生徒会に入るべきです」
突然、氷のように冷たく、氷柱のように尖った声が、カエダを刺し貫いた。
●
カエダはその声に嫌というほど聞き覚えがあった。
カエダが振り返ると、カエダの意を察して取り巻きが道を開けた。
人垣の向こうに、カエダ同様指先ひとつで人を動かす少年が、後ろ手を組んで佇んでいる。
「生徒会長……」
オロチはにこりと不気味に微笑む。
そしてゆっくりと歩み寄り、他の生徒には目もくれず、カエダの前に立ってまたにこりと笑った。
「相変わらず人気者ですね、カエダくんは。まるでタマムシくんやナナフシくんを見ているようだ」
自分が転ばせた生徒の名前をピンポイントで言われてカエダは一瞬呼吸が止まった。
顔は平静を取り繕おうとした。隊列の再編成の『相談』でオロチと話す機会は多いので、ポーカーフェイスもお手の物であったが――。
しかし、この男は今なんと言った?
「……生徒会? 本気ですか?」
「ええ」
オロチはほとんど唇を動かさないでそう告げる。
生徒会。この高校の生徒会に選挙はなく、完全に現行役員からの推薦で決まっていた。
よって、この高校の生徒は誰もが生徒会に取り入ろうと必死であった。学校中が生徒会の顔色をうかがうので、必然的に権力は生徒会に集中する。
この冷酷さを人の形にしたような恐ろしい男が巨大な権力を手にしているのは、つまりそういうわけであった。
カエダががま口の中を満たすついでに行っていた生徒会への『相談』行為も、点数稼ぎの一環である。
カエダはうつむいた。
しかし脳裏で花が咲き、そして実が結ぼうとしている。
「すごいじゃないかカエダくん!」
取り巻きが鼻息荒くカエダの背中を叩く。
「俺の友達が生徒会なんて、鼻が高いよ」
「すげー、本当に最高だぜカエダ!」
「いつかはお前はそこまで行くと思ってたよ」
口々にカエダを褒めそやす級友達に遠慮がちに礼を言いながら、その実カエダは彼らの声をいちいち受け止めていなかった。
生徒会への参加は、優秀な兄ですら――一族の誰もが果たせなかった悲願である。
あまりにも遠い願いなので、かつてのカエダはそもそも夢にすら思い描いてなかった。
しかし。
カエダはオロチの顔を見る。途方もない喜びが、いつしか腹の底から湧き上がる興奮へと変わっていた。
オロチの絶え間ない笑顔。その笑顔は絶妙に瞳の奥の闇を押し隠している。
この、常に獲物を狙っているかのような眼光のせいで、オロチは生徒会長ながら生徒達の親愛は集めておらず、むしろ畏怖の対象と見られ絶対君主のような支配者的イメージを持たれていた。
皆が皆、オロチに好意的なわけではないのだ。
カエダはオロチという人間の隙を改めて見直し、笑顔を返した。
「光栄です、生徒会長」
カエダはオロチに一歩歩み寄り、手を差し出した。勿論、快諾を表す握手である。
しかし視線は、オロチの顔のずっと向こう側を見ていた。
耳元で蛙が鳴く幻聴が聞こえる。
カエダは、身体中に湧き上がる喜びを表情の一点に集めてオロチに笑いかけた。
「微力ながら、この高校の力にならせてください。精いっぱい務めさせていただきます」
(この僕が、生徒会の一役員ごときで収まる器な者か)
カエダは、オロチの座る椅子に、自分という器を置きたくなってしまった。
「ね、生徒会長」
しかしオロチは一瞬カエダの手に目を落とし、それだけだった。
カエダは面食らい、宙に浮かせた手を所在なさげに泳がせる。
「では、明日から君を生徒会特別編成隊列に入れます。遅刻しないように」
要件を手短に伝え、オロチはすたすたとその場を去ってしまった。
固唾を飲んで一部始終を見守っていた生徒達は、オロチの放つ圧から解放されて誰もが気を緩めている。各々が、自分の生活に戻り始めた。
唯一、カエダのみが床に視線を落としたままであった。
「あの……カエダくん?」
取り巻きが恐る恐る声をかけてきた。
「生徒会長は、ああいう人だから……気にしないで」
カエダは生徒会長の為に浮かしていた手をがくりと落とす。
そして歯を食いしばった。
取り巻き達を振り払い、カエダは早足にその場を後にする。
喜びと興奮がないまぜになった感情が一気に反転し、身体から漏れ出しそうだった。
やがてカエダは走り出し、人気のない教室に滑り込んで、誰かの机に向かってがま口を逆さにして振った。
油紙に包まれたちいさな蛙たちがばらばらと机に落ち、山となる。
カエダは震える手で山を掴み、渾身の力で握りしめた。
「絶対殺す……」
未使用の包みにカエダは願った。
手の隙間から。黒々とした粘着性の何かがしたたり落ちた。
●
生徒会特別編成隊列。
この高校に籍を置くものならば誰もが憧れる、誉れある行進グループである。
「あ。きたきた」
「新しい子?」
「おはよう、君がカエダくん?」
まだ日も昇っていない真っ暗な時刻に駅に辿り着いたカエダは、そこに集まった面子を見て一瞬で目が冴えた。
生徒会長の腹心である役員、各学年の成績優秀者や学校へ多額の寄付金をする父兄を持つ生徒、校長の孫に至るまでとにもかくにもVIPばかりがカエダを笑顔で出迎えている。
「――おっ、おはっ」
うまく言葉が出ず、カエダはひきつった笑みを浮かべた。
彼らは、繋がりを持てば卒業後も一生もののうまみが得られるタイプの人種である。
「――おはようございます」
「なんだよー緊張しちゃって。君が新人のカエダちゃんだろ? よろしくなー」
ガタイの良い生徒がカエダの顔を覗き込んで満面の笑みで笑った。確かこの人は、弱小であった柔道部を全国大会に導いたハブ主将だ。
ハブの笑顔が眩しくて、カエダはますます委縮した。
今まで、何故自分がこのグループに誘致されなかったのか、カエダは確信めいた理解をしていた――意図的にターゲットのポジション近くに自分が配置されるよう『相談』していたせい――。
――だけだろうか? 本当に?
彼らは、カエダにはあまりにも光り輝いて見える。
カエダは深呼吸する。ヒルマがきょとんとした顔でカエダを見ている。
常ならカエダが昨日までいた下校隊列を指揮しているヒルマなので、見慣れた顔だが――この隊列にいる彼は、いつもより段違いに光って見える。
「大丈夫? カエダくん」
「……ええ」
カエダは自分に言い聞かせた。
生徒会長になれば、こんな連中怖くない。
今後は、学校の中でも特に輝かしい存在である彼らを始末することになるだろう。昔のカエダであれば、一も二もなく死んでほしいと願うタイプの連中だったが、今のカエダは彼らの命が『惜しい』とも思えるようになった。
「ご心配をおかけしました。さぁ参りましょう」
「参るか参らないか、決めるのは僕ですよ。カエダくん」
オロチがすっとカエダとヒルマの間に割り込んできた。
カエダは悲鳴を上げそうになり、慌てて両手で口を押えた。
オロチの腹心であるヒルマは嬉しそうに高い声を上げる。
「会長!」
風が枯れ葉を揺らし、身体が底から冷える――。しかしオロチを目の前にすると、全身が粟立つような感覚に陥るのは寒さのせいばかりでない気がした。
「す、すみません」
朝から全然調子が出ない気がする。カエダはポケットの中に手を突っ込み、がま口を握りしめた。
すると、途端に勇気がわいた気がした。
そのがま口の中には、昨日オロチへの願いを託した包みも入っているのだ。
「本日はよろしくお願いします、生徒会長」
だから恐れる必要なんてどこにもない。”御蛙さま”が、今日か、明日か、もっと先にか――近い未来に、オロチを地獄に落としてくれることは確定なのだ。
だから『我慢』――今は耐えろ――カエダは自分の心に言い聞かせた。
オロチは頷きもせずにカエダを見下ろし、声を張り上げて注目を集める。
「皆さん、本日はこの通り、私の『特別推薦』で呼んだカエダくんを隊列に招いています」
その時、その場にいた全員の目の色が一瞬変わったように見えた。
「よろしく、お願いしますね?」
カエダが駅に到着した頃には、皆それぞれくつろいだ様子だった。それが今や、誰もが仮面のように無個性な無表情になってしまっている。
カエダが呆気に取られていると、生徒達はまるで誰かの意図に操られたかのようにスムーズな動きで隊列を成す。
「えっと……」
たった一人、隊列から外れているカエダは、急に心細くなり目が左右に泳ぐ。
なんだかひどく居心地が悪かった。今、学校中の憧れの的の輪に立っているというのに、逃げ出したい気分になった。
「あ、そういえば……」
全員が無言でカエダを見ている。
「僕、今日の行進に関するレクチャーは受けていないですよね? うちの学校に来たばかりの時に受けたみたいなやつ」
当時は取るに足らない生徒の一人に過ぎなかったカエダにすら懇切丁寧な指導をしたというのに、生徒会特別編成隊列への参加でそれがないのはとても奇妙であった。
どこかでしかるべき手順を外してしまったのだろうか? そう思い焦りで身体が強張り始めたとき、ヒルマの声が上がった。
「心配しないでカエダくん」
ヒルマは、先頭を張るオロチのすぐ隣に立っていた。オロチのサポートの為かもしれない。
「生徒会長の『特別推薦』ならば、場所は生徒会長の『隣』だよ。僕の反対側ね。これが特別編成のしきたりさ」
「しきたり……」
ルール、という言い方でいいのではないか? と無粋なツッコミをしそうになって、カエダはやめた。そんな軽いノリを披露できるような空気の緩みはどこを見渡してもないのだ。
「何をしているのですか。カエダくん」
オロチは腕を高く上げ、人差し指をぴんと伸ばして地面を差す。
「ここに立ちなさい。すぐに。手間を取らせないように」
オロチはしつこく地面を指差す。
カエダは、その執拗な動きと、取り澄ました顔に、脳の奥がこじ開けられたような感覚を覚える。
自分の居場所でない場所に迷い出たような、そんな孤独感の奥から、むらっと、怒りが現れた。
「……ええ」
カエダはふてぶてしい声が出そうになるのを押し殺してオロチの隣に並ぶ。
行進がゆっくりと進み始める。
●
カエダは、栄光の第一歩を踏みしめながら、過去の自分を思い返す。
人間でなかった頃のカエダは、どこかで人間扱いされない自分を身分相応だと感じていた。
人生の何もかもを捧げた努力の末に何一つ手に入れられなかった自分は、笑ったり、泣いたり、怒ったり――そうやって自己を表現して他人に関わる資格を持たないのではないかと。
それが今やどうだ。欲しいものは何でも”御蛙さま”が手に入れてくれる。呪いはバカ共に押し付ければいい。
今、学校中の憧れと共に軍靴の音を立てる自分は、人間以上の存在だとカエダは思った。
昨日の夜、生徒会特別編成隊列に参加できると報告したときの両親の顔。
『あなたが生まれてきてくれて、本当によかった』
望外の台詞だった。
とうさんとかあさんがよろこんでくれることが、とてもうれしかった。
この幸せの為ならば、この幸せの為ならば何でもできると誓ったのに――。
だというのに、あのオロチとかいう男――。
カエダはこれまで、自分は怒りを表現するに値しないと人間だと思っていたので、怒りを発露して、『我慢』した経験がなかった。
だからカエダは、『我慢』できなくなった。
●
この隊列は特に慎重を期した編成が成されており、その入念さは間違いなく校内一であった。
だから、ターゲットの隙を見つけるのは苦労するだろうとわかっていた。しかし、まさか生徒会長の隣のポジション、つまり先頭を行くこととなるとは。
カエダは横目で何度もオロチの様子を見た。
全体像を見なくてもわかる。そのフォームは完璧だった。まるでオロチという男の人間性を体現しているかのようだった。
カエダは口の中でちいさく舌打ちした。
(まったく、どこまでもいけすかないヤローだ)
学校に到着するまでのおおよそ10分弱の時間。
カエダはそれまでに、必ずオロチを『仕留めて』、がま口の中の蛙にしてやろうと心に決めていた。
今カエダが何もせずとも、”御蛙さま”が悲願を叶えてくれる。
しかし、今日、この時でなければだめだ。何故ならカエダはもう我慢ができないからだ。
カエダは編入初日を振り返る。
あの日初めて目の当たりにしたオロチの冷徹な眼光に、カエダはすくみ上るばかりだった。
『あの行進はあくまで”非公式”なイベントです。よろしいですね?』
見下すような眼差し。自分の命令に背く存在など夢にも思っていないかのような絶対的強者の態度。
当時の恐怖や焦燥はそのまま殺意へ転じ、カエダの体温をじりじりと上げている。
カエダは全身全霊をオロチの観察へ費やした。
息を殺す。オロチの澄ました横顔が、規則正しく上がっては下がる両腕両足から、一秒たりとも目を離さなかった。
そうするうちに、段々と周囲が見慣れた景色へと変わってきた。辺りは暗いのでいつもよりずいぶんと様子が違って見えるが、間違いなく学校が近づいてきていた。
まずい。
カエダは焦りから行進を乱れさせ、慌てて取り繕った。
これでは本懐を遂げられない。今日でなければ意味がないのだ。
あの能面ヤローと鉢合わせるのは、もう勘弁だった。殺したいほどのいら立ちを押し殺してオロチと対面することは、もうきっと二度とできない。生徒会へ『相談』ができなければ、がま口の中は潤わない。まずい、まずい――!
そのとき、木枯らしが地面の砂を舞い上げ、狙ったかのように隊列に襲い掛かった。
――ここだ!
カエダは左腕をふわりと上げた。
素早くオロチに向かって手を伸ばす。緊張はあったが、何度も転ばしてきたカエダはその動作が熟練の域に達していた。
勝利のファンファーレが頭の中で鳴り響く。
とうとう辿り着いたのだ。
幻想の中に、オロチが引きずりおろされた生徒会長の椅子に腰かける自分の姿が見える。全国区の名門校の、その頂の上に自分が立っている。誰もがピラミッドの頂点にいる自分を見上げ、恐れ、愛するために群がってくる。そんな未来が、すぐ目の前にあった。
だから、腕が不自然な方向にねじれて悲鳴を上げるなど、あってはならないのだ。
●
「あんぁぁっ!?」
これまで感じたことのない鋭い痛みが左腕を駆け抜ける。腕がもがれてしまいそうで、カエダは全身から力を奪われた。
命の危機とも思える痛みがカエダに判断を遅らせた。抵抗する間もなく、身体がぐるんと一回転し、カエダは固いコンクリートの上に投げ出された。
「生徒会長、ご無事ですか」
受け身が取れず、衝撃を全て受け止めてしまったカエダは、混乱する頭でその声を聞いた。
「ええ。さすがハブくん、素晴らしい身体能力です」
目が白黒する。口の中に鉄の味がする。口内を切ったようだが、身体中どこもかしこも痛すぎて顧みる余裕がなかった。
冷たい風が額を撫で、なんとか上半身を起こす――。
「全員が見ました。やはり、君だったのですね」
気づけば、カエダを中心に、生徒会特別編成隊列が円を描いて取り囲んでいた。
前後左右がすべて、学校中の憧れの的たる生徒がカエダを見下ろしている。しかし誰もが、能面のように無表情であった。
カエダに転ばされたはずのオロチが、カエダの目の前にいた。怪我はなさそうだ。
「ナナフシくんを殺したのはまずかったですね。あの子は君と違って本当に他人から愛されるから、死んでもなおその存在にすがろうとする者が大勢いるので」
カエダの背中に冷たい汗が流れた。
「なっ――」
「ええ、君の行い、気づいていましたよ。むしろどうしてあんなにお粗末なやり方で気づかれないと思ったのですか?」
オロチはやれやれと言ったような口調だったが、表情は眉一つ動かさなかった。
反面、カエダは自分の顔が真っ青に染まっていくのを感じた。見なくてもわかる。
だってカエダは――転ばされたのだから。
「”御蛙さま”は君の願い通り成績だけを上げてくれたが――だからと言って、おつむまでよくしてくれたわけではないらしい」
オロチは、そこまで調べ上げていた。
カエダは、確かにオロチを転ばしたはずだった。オロチを思いきり突き飛ばした手ごたえがあった。
では、何故オロチは涼しい顔をしているのだろうか。どうして、今もなお自分を見下ろしているのだろうか――そう考えたとき、カエダの目にオロチの隣にいる生徒の顔が映った。
オロチの隣にいるのはヒルマだ。彼は他の生徒と比べて、オロチとの距離が近い。
他の、気色悪いくらいに顔から表情を消している生徒と比べて、彼だけが、昨日までカエダを囲っていた取り巻きと同じ顔をしていた。
オロチは、カエダが転ばそうとしていることを知っていた。知っていたから、対策ができた。
「こ……このガキ……!」
オロチが転ぶ瞬間を支えた少年へ殴りかかりたかったが、図体のでかい生徒の目がぎらりと光り、カエダはひっとちいさく悲鳴を上げた。
ハブ主将だ――。腕をひねり上げたのは、この男だ。カエダはつい先ほどの痛みを思い出して、心がしおしおと委縮していくのがわかった。
「かわいそうな人ですね、君は」
氷の無表情をしたオロチの目に、一瞬憐れみがよぎった気がした。
「……死んでいった生徒達が浮かばれませんね、本当に」
戦意を喪失したカエダは、ようやく、きちんと、悟った。
「……僕は、はめられたのか?」
「ええ、その通り」
こともなげにオロチは答えた。
「近頃、あまりにも不自然に行進をしくじる生徒が多かったものでしてね。犯人はあまりにも残忍な上に残念な奴で、少し挑発したらすぐにノッてきてくれて助かりました」
頭がカッとなると思いきや、カエダは別の感情がじわじわと心を支配していくのを感じた。
今、この空間で、カエダだけが他の生徒と異なる姿かたちをしている。
ポケットの中で、がま口の中ががさりと揺れた気がした。
それが何を意味しているのかは、誰よりもカエダが知っていた。
「あ……あ、あ、あ、あ」
カエダは弾かれたかのような動きでオロチの膝にすがりついた。
「結構ですよ、ハブくん。そろそろ”御蛙さま”が迎えに来られるので、君はじっとしていなさい」
カエダが動いた瞬間、ハブがぴくりと反応したのをオロチは見逃していなかったらしい。
ハブにかける、その慈悲深い言葉の一片だけでも、カエダは分けてほしかった。
「お……”御蛙さま”! “御蛙さま”が、僕を、殺しに!」
「そのように我々が手配したのです」
「た……助けて! いや助けてください生徒会長!! 助けて助けて助けて」
最早カエダは、自身が生徒会長の椅子に座る幻想を霧散させていた。
その代わり、断頭台に立つ自分の姿を見た。生徒達が一様に同じ姿で、同じ表情、でギロチンへとひったてられていくカエダを見送っている。
首に刃が降りかかってくる寸前に、カエダは民衆を見回す。
そこにいるのは、名前があやふやだが――今やがま口の中の蛙と成り果てて死んでいった生徒達――。
オロチは無表情のままため息をついた。それはひどく不気味な光景で、カエダは体内の緊張の糸が限界まで張られていくのがわかった。
「せっかく泳がしてあげていたのに、馬鹿な子です」
「泳がす……?」
「さっきも言ったでしょう? ナナフシくんですよ」
カエダが意味が分からずに黙っていると、オロチは『地獄への手間賃』として話してやると言った。
「ヒメコガネくんのようなに……素行の悪い生徒を犠牲にしてくれるのは、生徒会としても助かるのです。君がやらなくても、生徒会がいつか始末していた。しかし……」
その時、誰かがぐずっと鼻をすすった。
振り返ってみても、誰もが同じ制服、同じ立ち姿、同じ表情をしているので、カエダには誰がその音の主か判別ができなかった。
ただ、それが涙をこらえる人間の仕草だということが、なんとなく理解できただけだ。
「ナナフシくんを手に掛けたときから、君は歯止めが利かなくなった」
カエダは、近頃では友人であった頃の記憶すら危うくなっていたナナフシのことを思い出す。
記憶の中のナナフシは、いつだって笑顔だった。彼の顔が負の感情で染まり上がったのは、行進から外れさせたあの日だけだ。
いつだってカエダの成功を我がことのように喜び、カエダの話をよく聞いてくれていたナナフシ。カエダと共におらずとも、喜びを分かち合う相手なんて他にいくらでもいたナナフシ。
そんなナナフシは今や、がま口の中の蛙だ。
「……本当に……ナナフシくんを殺したのはまずかった」
カエダは今度はオロチの胸倉を掴み、額をこすり合わせた。
ざわりと輪の空気が揺らいだが、オロチは「結構」と短く言ったのみだった。
「僕は……僕だって……」
かじかんだように力の入らいない指でオロチの制服を引っ張る。
そこまでされても、オロチは顔色ひとつ変えなかった。今のカエダの程度を理解しているからこその余裕の構えであることは違いなかった。
「がんばったんだ! いっぱい、がんばったんだ!」
この高校に入るために、きっと幸福だったはずの少年時代をすべて捧げた。それが人間でいるための条件だった。
それが叶わず、無名の高校で過ごしたあの日々――あの日々こそが地獄での刑罰だ。
カエダは、親戚の間では存在しないことにされていた。両親は次男が生きていることを恥じ、汚物を家に抱えているような顔で生活していた。
カエダは、食卓を囲む両親と兄の姿を眺めながら、空っぽの腹を抱えてよく思っていた。
(いいなぁにいさんは。とうさんとかあさんに笑いかけてもらえて)
「でもだめだったんだよ、僕みたいな奴は」
だからこそ、”御蛙さま”の存在がどれだけ奇跡的だったことか。
カエダは、最近になって、どうやら自分が人間として何か重要な欠陥を抱えていることに薄々気づき始めていた。いくら懸命に努力してもろくな成績を取れないのはそのせいだとも思っていた。
だから、神さまの奇跡でもないと、その欠陥を埋められない。
奇跡が足りなくなってきたら、生贄を捧げるしかない。
そうやって、たくさんの屍で自分を補って、カエダはようやく人間として『認めてもらえた』。
「だからナナフシくんも転ばしたと?」
返事ができなかった。
カエダは再び、最期の日のナナフシの顔を思い出す。
信じられないようなものを見るように、彼はカエダを見上げていた――。
ナナフシはあの瞬間、自分を毒牙に掛けた人間がカエダであることを、理解していたのだろうか?
「っ」
そのとき――耳の奥がざわりとした。
音がした。耳慣れない、それでいて怖気が立つ、気味の悪い音。
ひた……ひた……。
カエダは後じさり、勢いよく背中から転ぶ。
痛みで一瞬意識が飛びそうになったが、それでもその音だけは嫌らしいほどにはっきりと耳に届いた。
ひた……ひた……。
「"御蛙さま”に呪われた生徒がどうなるか、君は知っていますか?」
オロチは唐突に言った。
カエダの脳裏に、葬儀で出会ったタマムシの両親の姿が浮かび上がる。
カエダは、上ずった声で言った。
「死――」
「半分正解です」
オロチが目線だけでカエダを見下ろしている間にも、湿ったものが地面を踏むような奇怪な音は近づいてきていた。
ひた……ひた……。
「呪われた生徒の顔は蛙みたいに真っ青でしょう? あれはね、呪った生徒を自分の眷属として引き入れているのですよ」
オロチが言い終わった後に、カエダは頭が潰れそうな勢いで耳を塞いだ。
(なんだって? なんだって?)
死んで、天国へ行って、それで終わりではないのか。
ひた……ひた……。
死んで終わりではないらしい。
音が、静かに、しかし鼓膜が破れそうなくらいうるさくなっていた。
ひた……ひた……。
何かが来る。まっすぐに、カエダを目指して一直線に歩み寄ってくる。
これが――。
(死にたくない)
カエダはそう思った。しかし。
(死んでしまう)
カエダはそうも思った。
「あ……あははは……」
カエダの頭の中枢で、何か風船のようなものが弾けた。
カエダはふらりと立ち上がる。少しの力も残っていないカスカスの身体で、カエダは夜が明けようとしている大空を仰いだ。
「"御蛙さま”に呪われるのはお前も同じだ! 地獄行きは僕じゃない、お前だ!」
カエダはゲラゲラと、オロチを指差して笑った。
そしてポケットからがま口を取り出し、紙吹雪のように辺りにまき散らす。
宙に舞い上がった油紙がぼとぼととその辺に散乱し、包まれていた蛙の死体が地面にばらまかれた。
醜悪な匂いが地面から昇ってくる。
「"御蛙さま”に願ったんだ。お前を殺してくれってさ!」
(ざまぁみろ、一矢報いてやったぞ!)
カエダは破れかぶれな気持ちで、踊るように歩いて蛙を踏みつぶしていく。
ひた……ひた……。
音はもう目の前まで来ているようだ。
最期に、あの澄ました顔が恐怖で歪むところを一目見たかった。
どうせ死んで"御蛙さま”に取り込まれるならば、もろともだ。
カエダはオロチの前で止まり、にんまりと笑いかけた。
「僕は問題ありません」
しかしオロチはしれっと答えた。
「昨日、ツチグモくんに殺させた蛙に、僕を守ってくれるようお願いしておきました」
カエダは、笑った顔が、凍り付いてくのを感じた。
ひた。
音が止んだ。
ぐわ。
蛙が鳴いた。
ぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわ。
蛙が一斉に鳴き始めた。
次に瞬きすると、カエダは真っ黒に塗りつぶされた闇の世界の中に座っていた。
逃げなければいけないのに、どこへ逃げたらいいかわからない。ただただ冷たいばかりの恐怖が脳に警鐘を鳴らす。
「ひ……」
オロチは、他の連中はどこへ。
得体の知れない恐怖が、涙となって流れてくる。
カエダは涙がとめどもなく溢れる瞳を凝らして、闇の中で人の気配を探した。
「助けて、誰か……」
よくよく見れば、闇の中で、カエダは変わらず円陣に囲まれたままであった。
安心感がどっと胸に広がっていき、目の前の生徒に縋ろうとする。見慣れた制服が、かつて憧れてやまなかった制服が、ひどく愛おしかった。
ぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわぐわ。
カエダは腕を掴んだその蛙は、無表情で鳴いた。
「あっ……! うわああっ……!!」
蛙だった。
カエダと同じ制服に身を包んだ少年の――頭部だけが、真っ青な皮膚をした蛙だった。
カエダを取り囲んでいるのは、全員蛙だ。
蛙は、カエダを見ている。蛙を殺したカエダを見ている。
「あ、ああああああ!!」
カエダは転びそうになりながら円の中心へと逃げた。無意味な抵抗だと理解していたが、それでも目の前の呪いの権化の手から少しでも逃れたかった。
ひた……ひた……。
カエダが逃げると、蛙が近づいてくる。蛙を殺したカエダに近づいてくる。
カエダは腰が抜けた。
無表情な蛙。しかしその心中は計り知れない。殺された蛙は、必ず殺してきた。
"御蛙さま”はお怒りだ。
カエダは頭を抱えながら、血走った目でたくさんの蛙を見た。
慈悲を求めた。ほんの少しでいいから、慈悲が欲しかった。
「やめて……許して……ごめんなさい……もうしません……ゆる……」
ふと、一人だけ、小柄な蛙がいることにカエダは気づいた。
まるで少女のように儚げで、いとも簡単に転ばすことができそうな蛙だった。
「……お、ま、え……」
どこかで見たような蛙が、他にも何人かいた。
カエダがそのひとつひとつを思い出すことができないまま、蛙は鳴きながら迫ってきた。
そして、とうとう、一斉にカエダに手を伸ばしてきた。
「“御蛙さま”を欺いた罪はさぞ重いでしょう」
闇のどこかから、オロチの声がかすかに聞こえた。
「大丈夫、心配しないで。これは”非公式”なイベントなので。公式のどの記録にも、君のことは残りません」
耳が潰れてしまいそうなほどの轟音が、カエダの悲鳴を塗りつぶした。
肌にぬらりとした、粘液のようなものが降りかかる。その粘液をまとった固く、冷たいものが全身を容赦なく這い回る。骨を、内臓を、ぐちゃぐちゃにする勢いで、蛙はカエダという存在をちぎっていこうとする。
カエダは最後の瞬間にオロチの顔を見た気がした。
爬虫類の如き無表情だった。蛙を食らう、蛇のような――そんな目ににらまれて、カエダは蛙の群れの中に落ちていった。
●
生徒会室は、季節問わずにいつでも寒々しい。
カエダが"御蛙さま”の眷属となって間もなく雪が降ったが、生徒会室には暖房がかからない。
しかしオロチは、冷血な種族の住まいとしては丁度良い環境であると勝手に思っていた。
オロチはがま口を取り出し、中に入っていたひからびた蛙を机の上に並べる。
「ツチグモくんの分は使い切ったようですね。死を回避するほどのエネルギーを消費すればさすがに一回でガス欠ですか」
「帳簿につけておきます。あと、今日中にデータベースにも反映させておきます」
ヒルマはノートに素早く情報を書きつけた。
ヒルマの優秀な仕事ぶりに満足して、オロチは深く頷いた。
「カエダくんのおかげで多くのデータが取れました。今後の"御蛙さま”の運用に大いに役立つことでしょう。彼に感謝ですね」
「……でも僕」
ヒルマはノートをぱたんと閉じると、少しむくれた。
「あいつ嫌いです。馬鹿だし、会長にいじわるしたし」
「ああいう手合いはたまに出るのだから、気にしないことですよ。僕の任期では初めてでしたがね」
それに、とオロチは机の上にもうひとつのがま口を取り出した。
ずいぶんと年期の入ったそれは、カエダが持っていたがま口だった。
中には『未使用』の蛙がたくさん入っている。現在は生徒会役員に命じてカエダの動向を追わせている最中なので、間もなく蛙を潰した生徒との紐づけも完了するだろう。
ナナフシが生きていれば調査ももう少し楽だったから、本当に彼の死は惜しかった。ナナフシのように人徳のある生徒は役に立つのだ。
ともあれカエダは、生徒会に十分なリソースを提供してくれた。それだけでオロチはカエダの作り出した負債を許せるのである。
「でも……」
それでもヒルマは不満そうだったので、オロチはヒルマを座らせ、目線の高さを合わせた。
「カエダくんは愚かなことをしましたが、"御蛙さま”のシステムはそれだけ魅力的ですからね。仕方のないことです」
蛙を殺してがま口に入れれば、あらゆる福が手に入る。
その代わり、"御蛙さま”の怒りに触れて呪い殺される。
しかし呪いを誰かに押し付ければ、福『だけ』が手に入る。
「かつて田舎のちいさな私塾でしかなかったこの高校が現在のような名門校となったのは、そのシステムを上手に利用した我らが先達のおかげですなのですよ」
生徒会が理想的な支配体制を築くために使用していたその奇妙な現象に、時折気づいてしまう生徒がいるのだ。
そのような生徒の発生も生徒会は織り込み済みなので、あまり派手に動かない限りは好きにさせておく。時に、誘導のような形で邪魔な人間を殺させることもある。
そしてその生徒が手に余るような行動を取れば、また"御蛙さま”の力を借りて始末する。
オロチは蛙を小突きながら、小さくため息を吐く。
オロチは、"御蛙さま”の――その都合の良さが、時折馬鹿らしくなった。
(神は人の世に取り込まれるが定めか……)
「会長?」
オロチは首を横に振り、がま口の中に蛙をしまう。
「いえ、何でもありません」
そのときチャイムが鳴った。
どこかのグループの下校隊列が始まろうとする時間だ。指揮をする生徒会役員には、蛙を持たせておいた。
カエダのせいで不自然なほど生徒の数が減ってしまった。だから、蛙に願っておいたのだ。
『生徒会の指名した生徒以外が、決して転ばないように』と。
「共に手を取り合って頑張りましょう。我らが母校の名誉を保つために」
オロチの言葉に、ヒルマはようやく納得したのか、笑顔を見せてくれた。
オロチもつられて微笑んだ。
●
ヒルマのポケットにも蛙が入っている。
それは、ヒルマが潰した蛙だ。
ヒルマは、それをいつの日かオロチに差し出したいのだと言っていた。オロチへの忠誠の証として。
オロチは、そう遠くない未来で、自ら行進の列を外れるヒルマの姿を思い描き――。
そしてまた、微笑んだ。
●
蛙を殺した お前が殺した
蛙は死んだ 潰れて死んだ
お前を殺した 蛙が殺した
蛙みたいに 潰れて死んだ
がまぐちのなかのかえる ポピヨン村田 @popiyon_murata
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