第75話 アリエッタ VS レグリア王
「率直に申す。アリエッタよ、その才を持て余すのは実に惜しい。よってそなたを宮廷魔術師として迎えたい」
「光栄なお誘いですが、辞退させていただきます」
おいおい、みたいな雰囲気がすごい。相手が王様とあって最初は緊張したけど、話してみればこの人もただの人間だ。
五大貴族のメンツを保ちつつ、私を手に入れる算段を立てているだけ。しかもいざとなればコキュートス隊の件を持ち出して揺さぶるんだろうな。
「そなたが望むなら可能な限り、すべてを考慮しよう。宿も辞める必要はない」
「ですから、お断りします」
「ではそなたが感じる不都合をすべて排除しよう」
「お言葉ですが、王様。五大貴族の方々はやる気を重視されていたようですが、その点についてはどうお考えですか」
「やる気にさせるまでよ。その上で希望を問う」
この人、何としてでも私を宮廷魔術師とかいうのに任命する気だ。
高く評価されて悪い気はしないけど、嫌だと言ってる相手にしつこく食い下がるのは感心しない。
ここで無理難題を吹っ掛けるのは悪手だ。少しでもその気があると思われたら負けだもの。
「王様、私は断ってます。お話はこれでお終いにしましょう」
「……ディクトールよ。そなたは娘に王族がいかなる存在か、教えなかったのか」
「教育不行き届きを認めます」
認めないで。でもお父様はあくまで中立だ。当たり障りのない返答でやり過ごそうとしてるのがわかる。
一方、王様は少しずつ機嫌が悪くなってるのがわかった。国王という立場を信じていて、その気になれば何でも手に入ると思っていたのかも。やっぱり人の子だ。
「私の代でなければ、不敬罪で監獄行きだ。コキュートス隊の件も含めるなら良くて終身刑。最悪、一族ともに根絶やしとなる」
「王様、それは確かですか?」
「あくまでその権限があるという事だ」
「そうじゃなくて、です。仮の話ですが、王様は私にそれを実行する覚悟もあるという解釈でよろしいですか?」
「愚問であるな。国王に就いた時から、いかなる覚悟も持ち合わせておる」
「そうですか。王族については浅学で申し訳ありませんが、今のお話は承知しました。その上で私の覚悟を知っていただきたいのです」
「ほぉ……?」
今、王様が狩人のように目を光らせた。
「私は家族を尊敬してますし愛してます。いかなる理由があっても害を及ぼすのであれば、私も王族もろとも根絶やしにします」
誰もが言葉を発さなかった。不敬どころか、もはや宣戦布告だ。
ガーディアン隊が咄嗟に国王の前に出て庇うようにして立った。
「王様が国を愛しているように、私にとって家族もそうなんです。この短い間ですが、五大貴族と王族の関係は蜜月だとわかりました。私もその一角の生まれであり、恥のない生き方をしているつもりです」
王様も何も言わない。ただ無表情で私を見つめている。
「今はまだ発展途上ですが宿として、より良いサービスを提供していけたらと考えてます。私は家族を尊敬してますが、負けてるとも思ってません。偏見の目はあるかと思いますが、見守っていただけませんか」
本当に誰も何も言わない。おじいちゃん当主は孫でも見るているかのように、落ち着いていた。
お父様こそ何を考えているのやら。私のせいで呼び出された件については申し訳ないと思ってる。だけど今の私を認めてくれたのは他ならないお父様とお母様だ。だから私は最後までやり通す。
「ルシフォル家は個々の人間が、王族も認めるほど国に貢献した働きを見せておる。宿にそれが出来るというのか?」
「キゼルス渓谷では猿の魔物討伐に一役買ったと自覚しています。現に街道として整備する話が上がっていると、騎士団長から聞いています」
「確かにな。が、それで足りぬと言ったらどうする?」
「向上は必要ですが、私は王様の思惑通りには行動しません。私は私です。王様は国民が全員、国に大きな影響を与えるような動きをしているとお思いですか?」
「そなたはルシフォル家、一般の民とは違う」
「いいえ、私も一人の人間です。両親も認めてくれました」
ジロリと王様がお父様を睨む。口が滑った。
「なるほど。親子揃ってこの私に反するか」
「申し訳ありません。何せ魔力も魔術も、この私などよりも遥かに上……。実の娘といえど、一人の魔術師として尊敬しております」
「雷獅候も歳を重ねて牙を抜かれたか。このまま押し問答をしても時間の無駄だ。アリエッタ、一つ勝負をしてみぬか?」
「私が勝てば、王様に諦めていただけるのですか?」
「よほどの自信、結構だが目に余る。先程の話で飲んでおけばよかったものを。こちらが勝てば、一方的な条件の下で従ってもらう」
「陛下ッ! その役目はぜひ私に!」
ガーディアン隊の一人が威勢よく名乗り出る。見るからに真面目そうな大人のお姉さんだった。この人もどこかの当主と同じように四角いメガネが印象的で、きつそうな女性だ。
「先程から黙って聞いていればその少女、不敬どころではありません。この際、ルシフォル家だからと甘やかす必要はないかと」
「ではガーディアン隊の隊長であるそなたが勝負を買って出るか? シェイルよ」
「はい。つきましてはこの勝負、ガーディアン隊への一任をお許し下さい」
「フ……元よりそのつもりだったのだ」
あの女性が隊長だったんだ。国王の直属護衛部隊ガーディアン隊。国の心臓部を守護するだけあって、メギド隊にも引けを取らない実力者集団らしい。
メギド隊がミドガルズの矛だとすれば、ガーディアン隊は盾だ。まったく、呼び出されたと思ったら面倒な事になってしまった。
「ねぇねぇ、アリエッタ。いいのー?」
「ここまで来たら引けないでしょ」
「うー……お姉ちゃん、心配だなぁ」
付き添いのお姉様を不安にさせてしまった以上、圧勝するしかない。片手に魔力を纏わせたところで、ガーディアン隊の方々の顔色が変わる。
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