第74話 レグリア王国五大貴族

 レグリア王国五大貴族。国を支える五大柱とも言える存在で、ルシフォル家もその一つだ。

 国内における生活魔導具関連の商会を経営しているパールムーン家。

 物流全般を取り仕切っているラインフォード家。

 王都の学院を含む教育施設を設立して運営しているクレチア家。

 そしてこれまた生活には欠かせないエネルギーを供給する魔石の製造、発掘、加工を行う団体や商会のビッグスポンサーのラメル家。

 それぞれの当主が今、ここに集結していた。明らかに場違いなのは私だ。


「国の腎臓部とも揶揄される貴族家の集結となれば圧巻である。無論、道楽でそなたらを呼び出したわけではない。ディクトールよ、何か物申したいのであれば発言を許可しよう」

「……心当たりが多すぎる故、お時間をいただきたく存じます」

「ホッホッ……相変わらず殊勝な男だ。唯一、個々の力で五大貴族に居座るルシフォル家の当主とは思えん」

「恐縮です」


「陛下。我々も忙しい身ゆえ、円滑な進行を希望します」


 大胆な発言をしたのはラインフォード家の当主だ。丸いメガネに硬そうな雰囲気のおじさんって感じ。国王にそこまで突っ込んだ発言を許される立場なのが五大貴族だ。

 そこへ柔らかく笑うクレチア家の当主のおばさん。衣装から顔つきまで、すべてが上品に見える。


「オッホッホッ……。聞かずともわかりましょうよ。そちらのお嬢さんについてでしょう? あなた、名前はなんていうの?」

「アリエッタです。ルシフォル家の当主、ディクトールの娘です」

「そう。ルシフォル家のお嬢さんが二人もここにいらっしゃるのね」


「私は付き添いだよっ!」


 システィアお姉様って、こういう時もそのノリなんだ。メンタル強すぎる。


「これは一大事よ、あなた達。個の力で圧倒的存在感を示しているルシフォル家の子が二人もいるのです。つまり、これはそちらのアリエッタさんの個の力に関する……いわば取り扱いね。そんなのについて、私達の見解を述べればよいのかしら? どうかしら、パールムーン家のご当主さん?」

「どうかしらも何も陛下の御前ですぞ、ご婦人! ウワッハッハッ!」

「あら、いやだ。私ったらつい……。陛下、申し訳ありません」


 おばさんも自由すぎる。口に手を当ててオホホなんてやっていられる場じゃない。


「良い。まさにその通りだ。まずディクトール、そちらのアリエッタについてはおおよその情報が私の耳に入っている。その上で申そう。そなたが想定するアリエッタへの処遇はすべて不問とする」

「……ありがたく存じます」

「その力を把握しながら、一切の介入を行わない道理については理解しかねるがそれもいい。ハッキリと皆の者に伝えよう。そこのアリエッタはコキュートス隊をたった一人で撃退しておる」


「ほう……」


 ほう、なんて感心したのはラメル家のおじいちゃん当主だ。この中で最年長だと思う。


「なるほど。それは確かに捨て置けんかもしれんな。それで陛下はこのアリエッタを競り落とせと、そう仰るわけですかな?」

「さすがに察しがよい。ディクトール、先程の不問とした意味を理解したか」

「手厳しい……」


 手厳しい、じゃないよ。要するに私を欲しがる人達がこの場に集まったわけか。

 それぞれの分野でも、私なら役立つと思ったわけだ。私に初めから自由はないと。それから王様は私の情報をここにいる全員に教えた。

 そもそも何が不問なのさ。コキュートス隊の件なら完全に正当防衛だ。


「……以上だ。魔術師としての力量は間違いなく国内でもトップクラス。特に転移であれば物流における様々な問題が解決するであろう」

「お言葉ですが、陛下。我々は彼女を必要としておりません」

「ラインフォード家の……。そなたが一番、欲しがると思っていたのだがな」

「一秒でも早く物を送り届けるのが我々の義務。しかし、少女にその気がないのであれば一秒の短縮にもなりません。故に私は辞退します」


 ラインフォード家の当主! いい人! いい男! ちょっとエバインっぽい雰囲気があったから心配したけどナイス!


「ふむ……これは意外であった。ではパールムーン家はどうか?」

「ワシも却下ですな。恐れながら申し上げますが陛下、我々を見くびらないでいただきたい」

「む……?」

「ラインフォード家の当主殿の言う通りですぞ。生活魔導具の設計は消費者の心が見えてないとお話になりません。やる気だけでは務まらないのに、やる気がないのであれば当然ですな。陛下のほどの方であれば、おわかりでしょうぞ。ラインフォード家だけではなく、クレチア家もラメル家もワシとそう遠くない意見でしょうな」


 小太りで豪快そうなおじさん当主も良い事を言ってくれた。その言葉に同意するかのように、クレチア家のおばさんが微笑み、ラメル家のおじいさんが何度も頷いている。


「……これは私の負けだな。せっかくの機会だと勇み足を踏んでしまったようだ」

「陛下も大概ですのう。我々との付き合いが短いわけではない。こうなるのはわかりきっていたはず。むしろその上での本命があるのでは?」

「さすがラメル家の当主……年の功とも言うべきか。そこまで見抜かれていたならば仕方ない。そう、本命は私なのだ」

「そう仰ればよい。我々のメンツを立ててもらえたのはありがたいですがな」


 この人達、王様相手にズケズケとすごい物言いだ。さすが五大貴族。結局、お父様がもっとも謙虚だ。


「五大貴族抜きで私だけ独占するわけにはいかんだろう。が、どうやら全員の了承を得られたようで何より」

「りょ、了承って。なに、怖い」

「そなたをもっとも欲しているのは私なのだ」

「そう、なんですか」


 まさかの王様からの熱烈な誘いだ。これこそ一番やる気ないんだけど。断ったら死刑かな。今すぐ転移して逃げたい。 

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