第73話 いざ、お城へ!

 宿のほうはミルカとフィムにお願いした。それはいいんだけど問題は服装だ。

 私も貴族令嬢だからそれなりに服くらい、と思ってた。結果、全然なくて焦る。これが十年も研究棟に籠ってたツケだ。

 どうしよう、処刑かなと考えたところでシスティアお姉様から天の声を授かる。


「そのままでいいよー。私もコレだし?」

「そんな魔女みたいな恰好でいいんだ!」


 それでも、ミルカが今から買いに行くとご乱心で大変だった。システィアお姉様が同伴してなかったら、本当に買いに行ってたと思う。

 そんなこんなで今はレグリア王都にある城の前まで来た。 


「アリエッタ、城の中に転移しなかったねー」

「する可能性があったと思われてたんだ」


「システィア様! どうぞお入り下さい!」


 さすがシスティアお姉様、門番に元気よく通されている。私は王文を見せてから入城だ。

 ここにきてお姉様が積み重ねた実績を実感した。闇呪術が負のイメージを持たれているにも関わらず、よくここまで。

 お姉様は私がいてくれたおかげだなんていうけど、これは紛れもなくお姉様の実力だと思う。自分を変えて、魔術を極めたお姉様を本当に尊敬している。


「これがお城の中かぁ。いろんなところで騎士が目を光らせているよ」

「城内でも徹底してお仕事してるからねー」


 城内には騎士だけじゃなくて、魔術師もいる。ミドガルズのエンブレムが刻まれていて、通路を通る時に杖をかざしてきた。

 無言で通されたけど、何かのチェックだったんだろうな。


「今の人は宮廷魔術師?」

「ミドガルズのガーディアン隊だねー。城内や王族の身辺警護を担当してるー。実力だとヴァンフレム兄様が指揮してる本隊に次ぐ感じかなー?」

「さすが王族周りは抜かりないね。今の人、人間だけじゃなくて持ち物も探ってたよ」


「なに……?」


 後ろから思いっきり呟かれた。魔術式がバレたと思ったみたい。視線を感じるけど無視。私はただの宿屋さん。

 城内を進むと、いろいろな人がお姉様に挨拶をしている。すごい人望だ。


「システィア様、いらしたんですか!」

「やっほい! ところでねぇ、美人の霊がまとわりついてるよー!」

「ひぇっ!」

「祓ってあげるから結婚式がんばってねー!」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございまぁす!」


 うん、本当に尊敬してる。とてつもなく感謝されてるし、よっぽど悩まされていたのかな。

 なんでそんなものにまとわりつかれてるのかは、あえて考えない。エンサーさんのようにね。


「お姉様。なんであの人が結婚式を控えてるってわかったの?」

「これで三回目の結婚だからねー。そのたびに女の人の霊にまとわりつかれてるのー」

「ひっ!」


 まさに闇を垣間見た。聞かなかったことにしよう。

 ようやく応接室に通されるところまで来た。中にはソファーとテーブルしかないけど、無駄に広い。

 メイドの方に案内してもらって、畏まりながら座る。


「お待ちしておりました。陛下は所用につき遅れるとの事です。今しばらくこちらでお待ち下さい」

「わかりました。あの、お父様……ディクトールはまだ来てませんか?」

「はい。まだお見えになってません」


 仕方ないので、この無駄に広い応接室で待つ事にした。

 お姉様とお話でもして時間を潰そうと思ったら、なんかテーブルにドクロを置いてる。だから何なの、それ。


「こ、これ……。魔除け……」

「むしろ魔を呼び寄せそうな気がするし、ここで出す必要ある?」

「ご、ごめん……」


 二人きりになった途端、あのテンションがウソみたいになる。口数が極端に減って俯いてしまった。


「お、お姉ちゃんが、ついてるからね……」

「ありがと。心強くて助かるよ」

「王様は、わ、悪い人じゃないから……」

「思えばお父様はずっと昔から、王様みたいな偉い人達と付き合ってたんだね。ますます頭が上がらないや」


 私が宿屋をやっていられるのもお父様やお母様のおかげだ。

 ヴァンフレムお兄様は私を褒め称えてくれたけど、ここにいるシスティアお姉様を含めた家族がいてこそだもの。

 思えば今日までこうならなかったのは、お父様が何かしていたおかげかもしれない。などと考え事をしていると、静かな応接室のドアが開く。


「お待たせしました。謁見の間へご案内します」

「ついにこの時が……」


 今度はメイドじゃなくて騎士だ。謁見の間への道のりが遠く感じられた。大袈裟な扉を前にして、私は呼吸を整える。

 そしてついに開かれたその先にある玉座に、王様は座っていた。老齢と呼んでも差し支えない風貌で、見るからに厳しそうな顔をしている。その眼が私を捉えてるわけだけど、どう思っているのか。

 左右にはガーディアン隊らしき魔術師や騎士がそれぞれ立っていた。特に魔術師は見ただけでわかる。魔力を隠そうともしないし、牽制のつもりなんだろうな。別に攻撃とかするつもりはないんだけど。

 私達が歩き出してから、遅れて後ろから何人かがやってきた。


「あ、お父様……と。他は誰?」

「アリエッタ、前を見て歩いて……」


 ちらりと見えたお父様の顔つきが別人だった。その冷たそうな顔つきは、見て安心できるものじゃない。

 他は見ない顔だけど、心当たりがある。


「五大貴族が揃い踏みで何より。よくぞ参った」


 そう、五大貴族。ルシフォル家と並ぶ王家と密接な関係にある名家だ。今、その当主達がここにいるわけか。何のために? え、私?

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