第63話 一件落着です
影男は無事、王都に連行される予定だ。お兄様達が転移サービスを利用してくれるみたいでしっかりお金も貰えたし、私としては言う事ない。
だけどお兄様、すごい不穏なセリフを残していったっけ。
「アリエッタ! お前の件は陛下の耳に入っている! コキュートス隊にあれだけの事をしたのだからな!」
「それで私はどういう心構えでいればいいの?」
「お前ほどの魔術師を陛下が捨て置くと思うか! それと父上も近いうちに呼び出されるだろう!」
「それは気が引けるなぁ」
ルシフォル家の当主が、娘である逸材を野放しにしているんだ。そりゃ王様からすれば面白くない。
でも王族と貴族、ましてやルシフォル家だ。持ちつ持たれつつの関係だから、その辺の駆け引きなら分があるはず。いや、自信なくなってきた。
「アリエッタ殿。もし国王陛下から、このくらいの報酬で宮廷魔術師に仕えろと申されたらどうされます?」
「お断りします。その質問には意味があるのですか、バトラクさん」
「あ、いえ。不快になられたのであれば謝ります」
「こっちこそ、そうじゃなくて。なんていうか、あなたの魔術式に関わっているのかなと」
「むぅ……これは参りましたな」
バトラクさんが黙ってしまった。この人の魔術はなんというか捉えどころがない。
大した経験はないけど、見てきた魔術師の中でも特殊だ。何か察したのか、ワルモさんがまたすごく気味悪く笑う。
「素晴らしいぞ、アリエッタ。その力、手放すには実に惜しい……クックックッ」
「いや、私をどうする気だったんですか」
「さぁ、どうだろうな?」
こういう発言が人を誤解させる。見た目と口調ほど悪い人じゃないのはわかったけど、発言の意図はわからない。
ギャルマンさんが近くにきて、首を傾げながら私を観察していた。
「ふぅむ……。どこをとっても清潔極まりない。これも君の魔術式によるものですか?」
「意趣返しですか、ギャルマンさん。残念ながら関係ありませんよ。ところで私もあなたもマナー違反ですよね。魔術式への質問とも取れますし……」
「仕方ないですよ。人は綺麗事だけでは生きていけません」
「アハハッ、そうですね」
この人の魔術式もよくわからない。ただ魔力の雰囲気からして、発言や性格に寄ったものかなと思う。
この中で一番わかりやすいのはヴァンフレムお兄様だ。抑えていても刺々しく熱い魔力を感じる。
次にセティルさん。鋭く人を寄せ付けない雰囲気があるし、何せあの剣術に依存した魔術式だ。シンプルながら、下手をすればお兄様に匹敵する。
といってもお兄様が戦ってるところを見た事がないけど。
「じゃあね、アリエッタちゃん。オフの日に泊まりにきてもいい?」
「歓迎しますよ、アミーリアさん」
「うふふ、今度、ヴァンフレム隊長と来るわね」
「何だと!」
「ア、アミーリアッ!」
セティルさんが尋常じゃない速さでアミーリアさんに迫る。肩を掴んで、まさに迫真だ。
この人の流れるような優しい魔力が戦いでどう活かされるのかな。水着姿というからには泳ぐとか?
「そのような発言の意図を伺いたい!」
「冗談ですよ。セティル副隊長がヴァンフレム隊長とご一緒にどうぞ」
「しょ、しょのような発言の意図を!」
「わかってるくせに」
ゆで上がったように真っ赤になるセティルさん。一体、どうしたのかな。
よくわからないけどアミーリアさんはからかいすぎだと思う。
「……アリエッタ! 我々は魔力をほぼ抑え込んでいる! それにも関わらず、なぜそこまで理解できる!」
「いや、なんとなくだから」
「貴様、やはり宿屋をやるべきではないな!」
「やるよ。そもそも国を守るだけなら、お兄様達がいれば安心でしょ」
「それはもっともだ!」
簡単に抑え込めた。この人が一番、わかりやすい。
お世辞でも何でもなく、影男を初めとした魔術師達でもメギド隊の一人でもいれば勝てる。
まったく本気じゃなかったというのも理解できるし、ウィザードキングダムもこの人達だけは敵に回さないほうがいい。
「では影! 貴様を連行する!」
「か、影……?」
「貴様にかかっている記憶関連の魔術も解いてやる! そういうのが得意な奴がいるのでな!」
「う、それは……」
そんな途方もない人がいるんだ。私はそっち方面はさっぱりだから、すごすぎるとしか言えない。
もし解けたら、と思うけど。私がウィザードキングダムの偉い人なら、影男に重要な情報は握らせない。お兄様もそれはわかってる節がある。
「話はすべて聞いてやる! すべてな!」
「お、お前は一体……」
「俺はウィザードキングダムが気に入らん! だから貴様ほどの優秀な魔術師を引き抜けば、奴らへの仕返しにもなろう!」
「俺を……」
「そもそも貴様に選択権はない! 我が国への侵害、侵略なのだからな! 敵対したものはすべて殺すところだ!」
そっちが本当の狙いかな。そもそも記憶を操作されてる時点で信用されてない証拠だし、捨て駒としか思えない。
実力主義が先行して大切なところをおろそかにしているなら、そこに付け入る隙は十分にあった。
お兄様がそこまで考えてるのかは知らないけど、影男は少なくともそこまで悪い人間じゃない。
「またサンドイッチが食いたいだろう!」
「お、お前って……いい奴だったんだな……」
そう、ミルカのサンドイッチをおいしく食べてくれた人に悪い人間はいない。
そう思った時、ミルカが夕食を運んできた。またしても鍋らしい。お兄様達と影男のやり取りを見越した上での仲直りの料理なのか。そこまではわからなかった。
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