第61話 結局、転移です?

「お仕事、お疲れ様です! お弁当を届けに来ました!」


 爽やかに挨拶したけど、なんかそういう雰囲気じゃない。倒れている人達がいる。

 セティルさんに剣を向けられている人も、明らかに敵対している人達だ。謎なのは自分で自分の首を絞めている点だった。


「弁当だと! 頼んでないぞ、アリエッタ! 仕事の邪魔だ!」

「それは失礼しました。でもすごくおいしいので、皆で食べて下さい。あ、お仕事が終わってからで十分です」


「クックックッ……苦しかろう」


 どうも、あの首絞めはワルモさんの魔術によるものみたい。操って自分の首を絞めさせていたのか。

 見た目も喋り方も魔術式もえげつない。転移なんてかわいいものですな。


「それ、もしかして拷問ですか?」

「そうだ、邪魔をするな」

「その人はもしかして、例の件に関わっているんですか?」

「その可能性はある」

「なるほど。それで……」


 ワルモさんが首絞めをやめさせると、ゲホゲホと相手がむせる。これを繰り返していたのか。その発想が怖い。

 お仕事の邪魔はしたくないけど、この光景はえぐすぎる。要するに話してもらえればいいわけだ。


「早く喋ったほうがいいですよ。お兄様、怒らせると怖いですから」

「アリエッタ! いいから帰れ!」


「その通り、帰ったほうがいい……! シャドウッ!」


 自分の首を絞めていた人が気味悪く笑って何かしようとしたみたいだけど、何も起こらない。なんで、みたいな顔をしている。


「あ、私に攻撃しようとしたならダメですよ。あれを見て下さい」

「あ、あ? あぁ!?」


 真っ黒い腕が空中に分離して浮いている。だけど、すぐに陽光に当てられて消し去られるかのように消滅した。

 よくわからないけど、攻撃の元が影なら転移されて分離すればあんな風になるのか。影からの攻撃魔術は想定してなかったけど、これなら魔術式を再構築しなくてもすみそう。


「ど、どうなってる……何者だ! ミドガルズではないようだが!?」

「さっきからこっちのセリフだと思いますよ。あなたが話してくれたら、私も喋ります」

「チッ!」

「あ! 逃げるんですか!」


 しゅるりと消えたと思ったら、地面に円形の影を残す。それが高速でこの場から逃れようとした。

 逃がしたらまずいなら、戻ってきてもらう。


「!? なんだ!」


 逃げて戻されて、の繰り返しだ。何回かの往復でようやく状況を理解したらしい。

 影から人の姿に戻って、四つん這いで息を切らしていた。


「まずい、これはまずい……! ミドガルズに加えてアレは何だ! 想定外だ!」

「というか、あの人達も仲間ですよね。置いて逃げようとしたんですか? お弁当、早く食べてほしいので喋ってもらいますね」

「んのわぁっ!」


 魔術師を高い位置に転移させてから落とす。地面に激突寸前でまた空に転移。高さを変えてやることで、スリル満点だ。


「ああぁぁぁ! 頼む! やめ、死……」

「今度は上空です」


 より高い位置からの加速がついた落下だ。地上に近づくごとに恐怖心が増大して、奇声に近い絶叫が響く。


「喋る喋るからああひゃあああっぁああッ!」

「あ、手元が狂っちゃいました! あ! 本当に落ちちゃいます」

「いいやああぁぁぁぁ!」


 そんなわけない。少し意地悪して縁起したら、叫び声が聴こえなくなった。

 地上に転移させてやると、見事に気絶してる。しかも、お漏らしつきだ。


「……やりすぎたかな」


 メギド隊の皆さんがさっきから何も喋らない。自分達の仕事を取られて怒ってるのかな。

 あのヴァンフレムお兄様ですら黙っているところを見るとまずい。なんて考えていると、倒れていた二人が頭を抱えながら起きる。


「シャ、シャルドー! なんて様だ!」

「おのれ! マッドプールッ!」


「やめておけ」


 二人が突然、胸元から血を噴き出した。斬られたと判断できたのは、セティルさんが剣を振り切った構えをしていたからだ。

 一歩も動いてないのに、一瞬で二人も殺した。セティルさんの魔術だとわかるけど、一度だけじゃ仕掛けはわからない。


「ヴァンフレム隊長。聞き出すなら、そこの影男で十分でしょう。この中でも一番の実力者です」

「……そうだな!」


 お兄様が気絶している影男を起こしてから、平手打ちした。男がカッと目を開く。


「うああああぁぁぁ! 落ちる! 落ちるあぁぁ!」

「うるさいッ! 手間取らせるな!」

「アアッ! あつあつあついいいぃ!」


 お兄様が男に触れた後、悶えて大人しくなる。涙やら粗相やら、もうめちゃくちゃだ。

 今更だけど、これで無関係だったらどうするんだろう。脅したのはお兄様だけど質問はバトラクさんがするみたいで、影男の前でしゃがみ込む。


「お、オレ達、は何も知らない……」

「嘘ですな」

「本当なんだ!」

「嘘、ですな」

「う、う……」


 あのバトラクおじいさん、妙な迫力がある。見据えられている影男が次第に言葉を詰まらせていた。

 そこへ、くるりと私のほうへ向く。


「アリエッタ殿、私には自白させる力はありません。今一度、例の落下を」


「わかった! 何でも話す!」


 早い。しかも、バトラクさんのほうじゃなくて、私にしがみついてくる。確かこの人、お漏らししてたから離れてほしい。

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