第58話 メギド隊の調査

 左右から気配を感じる。三つは魔術師。他は非魔術師が十二人ほど。合計十五人と、そこそこの規模だ。

 隠したつもりだろうが、このメギド隊の前ではあまりにお粗末な仕業でしかない。


「いいぞ! 堂々と奇襲するがいい!」


 猿の魔物が数を減らしたと思えば、今度は盗賊か。人の往来が活発になりかける前、絶好のチャンスという事だろう。

 何故なら街道として機能してしまえば当然、国も本腰を入れて周辺の警備を強化するからだ。

 そして矢の嵐が俺達を襲った。当たるとでも思っているのだろうか。

 矢の軌道は湾曲して、それぞれ主へと刺さる。数人が呻き声と共に崖上から落ちた。


「なんで、矢が……」

「知る必要はない!」


 死体も残さず焼却処分してやった。残り半数ほどが、まだ息をひそめている。

 つまらん相手だが今回は少し事情が違う。例の未知の魔物について、少しでも情報がほしい。


「面倒だ、ワルモ。引きずり出せ」

「クックックッ……お任せを。ひょい、ひょいっと」


「うわぁぁっ!」


 全員が隠れた位置から飛び出して、地面に叩き落ちる。どうせ何が起こったかもわかるまい。

 だが三人の魔術師のうち、一人はそこそこの魔力だ。盗賊に落ちるにはやや惜しいが、俺達に会ったのが運の尽きだろう。


「貴様ら、俺達が何者かわかってて手を出したのか!」

「そ、そのエンブレムは……!」

「馬鹿どもが! 見逃してほしければ、質問に答えろ! ただし、こちらが嘘だと判断した段階で殺す!」

「ミドガルズがなんでこんなところにいるんだよぉ!」

「質問その一! この渓谷に生息していた猿を変異させた存在を知ってるか!」

「なんだそりゃ……」


 俺は注意深く三下どもの表情や仕草を観察する。が、それ専門のバトラクが首を横に振った。奴の前で嘘を通すなど不可能だ。

 潔正術は不誠実な者を見抜き、行為も許さない。複数人による闇討ちなど無効であり、バトラクを倒すのであれば一対一でなければいけないのだ。


「質問その二! お前達は十二死徒と関わっているか!」

「じゅ、十二死徒? 知らん……」

「質問その三! お前達は更生する気があるか!」

「あ、ある!」


「嘘ですな」


 バトラクの無情な一言が、奴らの運命を決めた。もっとも、最後の質問は道楽に近い。例えこの場にバトラクがいなくとも、俺は消す気でいた。真偽に関わらず、悪党を見逃す気などない。


「う、嘘じゃない! 俺達だって家族がいるんだ! 食うものもなくて仕方なく」

「ヴァンフレム隊長、もうよろしいでしょう」

「セティル、始末しろ!」

「ハッ!」


「く、クソォ! 木操!」


 魔術式を持つ男が、周囲の木を操作して枝を伸ばす。植物を操る魔術式か。使いようによっては強力だ。地形を活かして勝つ気でいたのだろう。その判断自体は間違っていない。

 枝がセティルによってすべて叩き斬られて、自身の首が飛ぶまでは。きっと、わずかな希望を抱いていたのだろう。

 しかし、一人だけ残っていた。仲間の無惨な死体の真っただ中で、座り込んで粗相をしている。


「ま、魔術の、桁が……」

「何を言ってる? 私は魔術など使っていない。それより今度は私の質問に答えろ」

「は、はい! 何でも!」

「他に仲間はいるのか?」

「オレ達だけです!」

「誰かに雇われたのか?」

「いえ!」

「お前が知っている悪党の情報をすべて吐け」


 なるほど、と俺はまたも感心した。俺に欠けている部分を、こいつが補ってくれるのだ。

 ベラベラと喋る魔術師の男は饒舌だった。大した情報は持ってないが、嘘は言ってない。


「では最後の質問だ。この渓谷にある宿を知ってるか?」

「や、宿? こんな場所に?」

「そうか。知らないならいい」


 最後の質問を終えたセティルが、男に止めを刺す。短絡的な俺と違って細かいのはいいが、どうにも解せない事がある。


「セティル! ご苦労だった! だが、最後の質問に意味はあるのか!」

「悪党の間で、あの宿が知れ渡っていたら困ります」

「あのアリエッタがその辺の悪党にどうこう出来るか!」

「あの少女なら心配はないでしょうが、そういう問題でもありません」

「ではどういう問題だ!」

「それは……」


「セティル副隊長はアリエッタちゃんが大好きなんですよね?」


 アミーリアの指摘が図星だったようだ。慌てて取り繕っても意味がない。

 なるほど、それならば理解できる。俺が知らないうちに、いつの間にか親交を深めていたようだ。


「そ、それより隊長! 奴らの持ち物を確認しましょう! といっても、ほとんど隊長が焼いてしまいましたが……」

「む! それは失態だな! すまん!」

「いえいえ、謝らないで下さい! 奴らの口振りからして、大したものはないでしょうから……」


「やれやれ……。早く調査を進めましょう」


 ギャルマンの言う通りだ。盗賊の殲滅が目的ではない。

 ワルモが杖を振りかざしてから、ある方向を示した。こいつの超常術は探索から攻撃まで幅広い。


「ククッ……見える、見えるぞ。複数の魔術師が見える。それも今のザコとは比較にならん」

「ほう!」

「巧妙に魔力を隠しているが、私には見える。クククッ、馬鹿どもが……。さぁ、隊長。行きましょう。奴らは黒に近い……」

「殲滅だけなら造作もないが、今回は出来る限り生け捕りだ!」


 やはり何かが関わっているのは確かだ。どんな企みか知らんが、奴らにとっての不運はメギド隊が相手になってしまった事である。

 しかしアリエッタも、とんだ場所に宿を構えたものだ。これこそ幸運か不運か。

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