第30話 求人募集した結果
今日はミルカと冒険者ギルドで面接希望者を待っている。ギルドの投書で確認したところ、希望者は男性みたいだ。
「冒険者の宿屋の方ですか?」
「あ、はい。面接をご希望ですか?」
「はい、お願いします」
やっと来てくれたのは大人しそうな青年だ。見た感じ、真面目そうな雰囲気がある。
さっそく仕事の説明をしてから質問開始だ。その最中にチラチラと私達を交互に見比べていた。
「何か?」
「あ、いえ。それで、給料のほうはいくらですか?」
「……仕事内容によりますが時給制で一時間あたりこの辺りですね」
「なるほど」
「時間帯や通勤については相談に乗りますが、ご希望の仕事はありますか?」
「えっと……。清掃がいいです」
「はい、わかりました。ところで私達の顔に何かついてますか?」
「い、いえ。何も」
答えは顔じゃなくて胸だ。こいつ、私達を執拗に品定めしていた。合否を考えるまでもない。
「合否の結果を後日、郵送しますのでご住所を教えていただけますか?」
張り切って住所を書いてもらったところで悪いけど不合格だ。
後でミルカと相談したところ、やっぱりいやらしい視線が気になってたみたいだった。
* * *
「宿の支配人をやっていた実績があるのだ! 私に任せておけば安泰なのだよ!」
そう主張する初老のおじさんだけど、すべての仕事を拒否した。そして希望しているのが宿の支配人だ。そんなもの募集してない。
「お聞きしますが、どちらの宿で支配人をされていたのですか?」
「なんだ、疑ってるのか?」
「一応、面接ですから」
「こんなところにいやがったのか!」
冒険者ギルドに荒々しい人達が入ってくる。おじさんが立ちあがって逃げようとするけど、あっさり捕まってしまった。
「なぜここにいるとわかった!?」
「夜逃げなんざお見通しなんだよ! 場所を変えて借金について話し合おうか!」
「必ず払う! 払うから見逃してくれぇ!」
拘束されて連れていかれながらも、おじさんは最後まで喚いていた。
ツッコミの余地もない顛末だ。あんな状況で上から目線で支配人だなんて言えるメンタルはすごい。
* * *
選り好み出来ない立場なのはわかってるけど、まともな人がこない。
下心満載の男、借金まみれのおじさん。質問に対して舌打ちする人、そもそも女だと思って舐めてかかる人。小さい宿屋だから楽な仕事だと勘違いしてる人、これが一番多かった。
「雇うのも雇われるのも楽じゃないよねぇ」
「辛抱しましょう。待ち続けていれば、きちんとした方が来るはずです」
「そう信じるしかないね。さてと、今日も……来てた」
一通の手紙をギルドの受け付けで受け取る。まったく期待せずに読んだ。
「どれどれ。『どんな仕事でもやり通すので、雇って下さい。お願いします』って……」
「いいじゃないですか」
「いいけどさ。問題はこれ、そちらに向かいますって書いてあるんだよね。どういう人?」
性別も年齢も不明。書かれているのはそれだけだった。今までの中で怪しさ一番だ。変な人に尋ねてこられても困る。
「というかさ。この手紙、いつ出したんだろ? 昨日だとしても、時間差を考えたらすでに向かってるよね」
「そうですね。どんな方かわかりませんが、温かく迎えてあげましょう」
急いで宿屋といきたいところだけど心配なのは道中、魔物にやられないかどうか。
でもキゼルス渓谷を通るなら、実はものすごく強い毛むくじゃらのおじさんかもしれない。でも何とかのダルドーみたいなのは勘弁。
* * *
王都側からの渓谷を転移で移動しつつ、それらしき人を探す。よほどの捻くれものじゃない限りはこの経路を通るはずだ。
「いませんね……」
「まさかすでに魔物に」
「ひゃああー!」
空気が抜けるような悲鳴が聴こえる。転移で駆けつけると、二匹の猿に追い回されている女の子がいた。
ひとまず何も考えずに瞬転移で二匹の猿の頭部をぶっ飛ばす。目の前で惨事が起こったものだから、女の子は悲鳴すら出ない。尻餅をついて震えていた。
「あ、あ、あぁぁあぁ……」
「えげつない方法で助けてごめん」
「あーあー? あ、うん……」
「立てる?」
女の子についた転移破壊による血をミルカが拭き取る。
赤髪のショートカットに猫目で年齢は十歳前後かな。何より目を引くのは獣耳と尻尾だ。ふさふさしている。
「あなた獣人族?」
「うん……。助けてくれてありがとなのです」
「もしかして冒険者の宿屋を目指していたり?」
「なんでわかっ……あッ!」
突然、女の子が飛び跳ねて逃げ出した。とてつもない俊敏さだ。
猿達に負けず劣らず速い。だけどこのまま逃げられてもよくない気がするから、転移で戻ってもらった。
「みゃ!?」
「私がその宿屋さんだから安心して」
「うみゃっ!」
振り向いたと同時に転んでしまった。
そりゃ逃げたと思ったら背後から話しかけられている状況だ。転移したなんて認識できるわけがない。
何かすごく動揺しているようだから、ひとまず落ち着かせよう。
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