第28話 闇術師システィア

 翌朝、意気投合したシスティアお姉様と冒険者達が一緒に出発する事になった。

 ライトポーションも買ってくれたし、こっちとしても大満足だ。


「システィアさんは仕事の為に隣街に?」

「隣街の偉い人が変なツボを買っちゃったみたいでねぇ。たぶん大昔に罪人の生首を入れてたやつだと思うなー」

「た、大変ですね。どうやって解決するんです?」

「消すか取り込むかー?」

「取り込む!?」


 お姉様は宿内の邪気みたいなのを祓ってくれた。人が多いと中には悪いものを背負ってくる人もいて、よくない事になる場合もあるとか。

 古い宿の場合、歴史が古いといろいろな事が起こる上に外からもたくさん持ち込まれる。だから大きな施設では定期的にお祓いをしているみたい。

 私の宿屋はまだ日が浅いからほとんどそういうのはなかった。


「アリエッタの宿も私が定期的にお祓いしてあげるから安心してねぇー!」

「ありがとう、お姉様。大好き」

「わかりきってることをっ!」


 昨夜の時とは打って変わった雰囲気だ。冒険者達は知らないけど、今のお姉様は無理をしてる。

 何もそんなに極端なキャラ作りをしなくてもと思うけど、お姉様なりのポリシーかもしれない。


「ミルカちゃんもアリエッタをよろしくねー!」

「システィア様もお気をつけていってらっしゃいませ」

「ミルカちゃんはメイドの鑑だねぇ! パパも、あれだけ優秀なら自分の専属にすればよかったなんてぼやいてたよ!」

「そ、そうなんですか?」


 ミルカも屋敷に来た当時は何もできなくていつも怒られていたっけ。

 今でこそ何でもこなすけど、昔はお皿を何度も割って怒られて泣きべそかいてた。


「ミルカちゃん、偉いねぇー!」

「あ、あっ……そんな……」

「頭なですぎ」


 背伸びしてミルカの頭を無理して撫でるお姉様。私達より年上には見えない。


「じゃあ、そろそろ出発します。宿屋さん、お世話になりました。他の冒険者達にも、ここにいい宿屋があるって宣伝しますよ!」

「光栄です。すべてのお客様にこういった言葉をかけて貰えるように精進します」

「そんな事を言ったら期待しちゃいま……あれ? ま、魔物だ」


 猿の魔物が数匹、血気盛んに向かってくる。転移層の外にいるから、ここにいれば問題ない。

 だけど冒険達はあんなのを討伐するのが仕事だ。


「素敵な宿屋さんでリフレッシュしたんだ! 負けるかよ!」

「あー、私にやらせてー?」

「システィアさんに?」

「うんー。これから一緒に行動するなら、私の実力も知ってもらったほうがいいからねー」


 これはまたまたラッキーだ。お姉様の戦いなんて私も見た事ない。闇呪術って今一イメージがわかなかったんだ。

 お姉様が転移層の外に出て、冒険者達の前に立つ。まさかの前衛かな。


「キキッ?!」

「キー?」


 猿達の様子がおかしい。突然、急停止して辺りをうろうろと歩き始めた。そして闇雲に腕を振り回したり、飛び跳ねている。


「なんだ?」

「まるで何かに振り回されているような?」


「アハハハー! 私を狙うからこうなるんだよー!」


 お姉様が声を上げると、猿達がピタリと止まる。キョロキョロして、お姉様のほうへと歩いてきた。

 魔力の流れ、お姉様の所作、あらゆる情報を分析してみる。なるほど、あの猿達は頭がおかしくなったわけじゃない。


「あの猿達、目が見えなくなってますよね?」

「うわぁ! ビックリ! なんでわかったの?」

「なんとなく……」

「大正解ー! 私に敵意を持った相手は視界が暗闇になるんだよっ! でも声を出すとバレちゃうから気休めにしかならないけどねー!」


 何が気休めだ。私の転移層と違って意思の段階で発動するんだから、奇襲性が高すぎる。

 しかも猿達がようやくお姉様に攻撃を届かせたと思ったら当たらない。というより攻撃の直前で足を挫いたり転んでる。


「触れちゃいけないものに触れるとこうなるんだよ! 呪いの基本だね!」

「要するにお姉様自体が呪いのそんな性質を魔術で引き出してるとか? それとも呪いそのものを?」

「アリエッタ怖い!」

「お姉様のほうが怖い」


 お姉様は何もしてないのに、やがて猿達が苦しみ始めた。転んで立ち上がれないのもいる。

 猿も木から落ちるとはいうけど、自分の庭とも言うべきこの場所でこの惨状だ。呪われている、という他はない。

 苦しんでいる猿達は何かの病気になったのかな。


「さ、止めを!」

「え? い、いいのかな」

「冒険者でしょー!」

「そうだけど、まぁいいか……」


 さすがの冒険者もあまりに惨すぎて気が引けている。無理もない。

 躊躇しながらも、冒険者の一人が武器でサクサクッと止めを刺した。


「大勝利だね! 私の魔術はこんな感じだから囮になるよ! 一緒に討伐しながら渓谷を出よっ!」

「囮って……さすがにそんな真似はできないよ。システィアさんの実力はわかったけどさ」

「役割、役割! 気にしないで! さー!」


 お姉様に背生を押された冒険者が釈然としないながらも歩みを進める。

 最初に打ち解けた女性冒険者と楽しそうに談笑しながら、冒険者パーティと旅立っていった。


「わざわざ転移を断ってまで一緒に行くなんてね」

「あのノリ、疲れないんでしょうか」

「キャラを作るだけなら、ミルカくらい大人しくてもいいのにね」

「いえ、そんな……」


 なんか予想以上にモジモジされてしまった。それにしてもあの魔術式、皆が恐れるだけはある。

 お姉様はわかっていながら、あえて自分の力を披露したのかもしれない。

 自分からも他人からも逃げずにぶつかっていく。なんてそこまで考えているのかはわからないけど。

 私も自重せずに魔術に誇りを持とう。

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