第23話 魔力暴走?

「ライトポーション五つ!」

「こっちは七つだ」


 朝、目覚めた冒険者達がライトポーションを買い求めに来た。

 寝る前にメンバー同士で必要個数を相談したんだと思う。いくつ買うかな、なんて悩んでる人はいない。

 一級冒険者パーティ、金色の荒鷲も同じだ。リーダーのレクソンさんが二十個ほど買ってくれた。


「お買い上げありがとうございます!」

「いいポーションに金の糸目はつけない。それが一流の条件さ」

「金にシビアなレクソンにここまで言わせたんだ。これからも頑張りな」

「頑張ります!」


 ちょっとキザっぽいリーダーに筋肉質な爽やか好青年の魔術師ウォルースさん。

 何でも魔術だけじゃなく、その気になったら杖でぶん殴るらしい。ここの猿程度なら一撃だとか。


「何でも魔術に頼らない。リーダーはわかってるねぇ」

「お前は魔術を使わなすぎなんだよ……。たまにはドカンとやってくれ」

「人は便利なものがあると溺れる。俺ってやつはよくわかってるんだ」

「じゃあ、このライトポーションはいらないな」


 こういうやり取りだけを見ていると、とても一流には見えない。

 だけど他の冒険者は距離を取ったりなんかして、恐れ多いといった感じだった。

 昨夜、シャーロットさんはあんな事を言ったけど冒険者の中でもこうした上下がある。違いがあるとすれば、互いを尊重し合ってるところだ。


「シャーロット。ウォルースに便利なものは毒だから、ポーションは作らなくていいぞ」

「はーい」

「冗談の類じゃなくて? 続くの? マジで?」

「嫌なら魔術を使え」

「殴り魔術師って個性あるよね?」


 そんなに殴るのが好きならなんで魔術師をやってるんだろう。ちょっと笑いそうになった。

 軽快なやり取りを見てると、こっちも和んでくる。こういうものが見られるのも、冒険者の宿屋の醍醐味だと思う。


「宿屋さん。トラップ作製アイテムはさすがにないかな」

「ないですね。すみません」

「いいのよ」


 大きな弓と矢筒を背負ったクールな女性アーチャー、ケイティさんも金色の荒鷲のメンバーだ。

 口数が少なくて、この騒がしいメンバーの中ではちょっと浮いて見える。というか気づいたけど、冒険者達が注目してるのはこっちの女性二人だ。

 シャーロットさんとケイティさんに鼻の下を伸ばしたり、浮かれている。色白と褐色という正反対なビジュアルがより、あの人達を興奮させてた。


「お前、どっち派よ?」

「そりゃシャーロット派よ。美白に加えて、あのローブの下のポテンシャルは相当なものだぞ」

「くっきりとダイレクトに攻めてくるケイティの良さをわからないようじゃお子ちゃまだな」


 なんだ、くっきりとダイレクトに攻めてくるって。こういう下品な会話も冒険者の一面という事かな。

 男の子ってやつは皆こうんだからって前にミルカが言ってたっけ。ま、私には無縁だからいいけどさ。


「宿屋さんもよく見たら可愛いよな……」

「そうだな。俺としちゃ、あと数年後ってところだがな」


 なんて?


「いやぁ、なんといってもメイドの子だろ! メイドだぞ、メイド! 実物なんざ初めて見たよ!」

「メイドってなんかそそるよな」

「ちょっと声かけるか。純朴そうだし案外コロッと……」


 ミルカがコロッと? 何?


「こ、この圧……!」

「何かいるのか!」


 武器を手にして臨戦態勢を取ったのは金色の荒鷲だ。さっきまでヘラヘラしてたウォルースさんが別人みたいな顔つきになってる。

 周囲を伺い、一瞬でフォーメーションを作ってしまった。


「なんか一瞬……ズン!ってきたよな?」

「あぁ、何だったんだ?」


 金色の荒鷲の冒険者ですら魔力とすら認識していない。それどころか大きすぎて発生源がわからなかったみたいだ。どうも感情の高まりでついやってしまった。

 一瞬で騒然とさせてしまって、今更ながら猛省した。冒険者達を癒やす場で、明らかに不適切な振る舞いだ。


「もう大丈夫みたいだ」


 金色の荒鷲のレクソンさんが武器を収める。これを皮切りに、他の冒険者達が安堵した。

 さすが、この場で一番強い冒険者だ。気づかなかったけど、あの鉤爪みたいな武器が禍々しい。あの人が荒鷲か。


「もう近くにはいないようだ。依然、警戒は必要だけどな」

「しかし、とてつもない圧だったな……。まさか激昂する大将が?」

「さすがに違うだろう」


 冒険者の宿屋にあるまじき行為だ。魔術や魔術式を理解しても、自分の感情を理解してなかった。

 ミルカは大切な存在だけど、我を失うくらい怒るなんて。


「皆さん、朝食の用意が出来……どうされました?」

「待ってました!」


 厨房から出てきたミルカを冒険者達が歓迎しまくる。不安を吹き飛ばすかのような威勢だ。


「メイドさんが作ってくれた食事だぁ!」

「は、はい?」


 現時点でミルカがもっとも困惑してる。後で説明しておこう。

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