第21話 繁盛してきました
「ここが冒険者の宿か!」
「野営地だったよな?」
冒険者ギルドで空き瓶をくれた人達が本当に来てくれた。中でも一級冒険者パーティ、金色の荒鷲が目立つ。
アルケミストのシャーロットさんはさっそくカウンターの奥に並べられているライトポーションに目をつけていた。
「いらっしゃいませ! ようこそ冒険者の宿へ!」
「ど、どうやってこんな場所に建てた?」
「君は?」
特殊な立地すぎて宿よりも私への興味が強い。隠しても無意味なので私の魔術式を含めて解説してあげた。
これは意外にも上位の冒険者ほど驚きが強いみたいで、それでいて深く追及してこない。逆にそうでない冒険者ほど食いついてくる。
悪い気はしないけど、宿の仕事を優先させてほしいから適当なところで打ち切った。
「ルシフォル家の他にもこんな魔術師がいたとは……」
「国が知ったら騒がしくなるだろうな……。食事も出来るのか」
「おぉ……ここは宿なのか?」
次々と冒険者がやってくる。ギルドで騒がれただけあって宣伝効果はあったみたいだ。
だけど喜んでばかりもいられない。私達はこれから、この人達をもてなさなきゃいけないんだから。
「……以上が案内になります。お食事は希望があればいつでもお申し付け下さい」
「先に風呂だな! なんたって野営で風呂に入れるんだぞ!」
「いやいや、そうは言っても大したものじゃ……」
などと疑った冒険者の悲鳴が大浴場から聴こえてきた。王都の宿と比べても遜色ない大浴場があるものだから、驚かないはずがない。
これも地味に快感になる。自分が作ったものが他人にいい意味で影響を与えるというのは何物にも代えがたかった。
「俺達はひとまずメシだな! バーストボアの石焼きなんてのもあるのか!」
「ご用意しますか?」
「頼む! 腹が減りすぎて頭が狂っちまいそうだ!」
「そうならないようにすぐに準備しますね」
転移魔術でものの数秒でセッティング完了。呆気にとられる冒険者を他所に、ミルカが仕込んでくれた肉も転移させてきた。
やがて石の上で焼かれた肉の匂いが室内に充満する。換気も十分だ。
「これこれ! バーストボアは四級で手強い魔物だけど、これがたまらないんだよな!」
「豚肉よりも余計な脂身がなくてね!」
「精がつくなぁ!」
栄養価も高くて次の冒険の為のスタミナも十分なはず。
匂いをかいでるうちに私もお腹が空いてきた。なるほど、これは弊害かもしれない。
そしてまた入ってきた冒険者、大浴場から上がってきた冒険者で食堂に人が溢れた。
「こっちも石焼きで!」
「飲み物!」
「酒は!?」
「申し訳ありません。アルコールの類は取り扱っておりません」
さすがにこうなると忙しくなってくる。転移魔術で各テーブルに転移させつつ、お客さんの注文も聞かないといけない。
私や物が転移で移動してる様はやっぱり異質で、冒険者達が目を奪われている。
「すげぇな……」
「なんでこれで宿をやろうと思ったんだ」
「でも肉もうまいし、大浴場も温泉でホッカホカだよ! 節々の痛みが引いて助かった!」
私もあの温泉にはたまに入る。我ながらよく出来たと思うし、何ならまだパワーアップさせたいとすら考えていた。
露天風呂も実装予定だし、もっと他の宿を勉強してサービスを充実させたい。
その為の課題として、やっぱり人手だ。私がこうしてついてるうちはいいけど、離れるわけにもいかない。
今にして思えば、あの人はこれを転移魔術なしでやっていたんだ。
「あんた、三級なのか! こっちは三級昇級試験に落ちてしまってなぁ」
「試験内容を教えてくれるか?」
「ラフラワーの討伐と採取だよ。毒も花粉もあって厄介すぎる……」
「あいつはコツがあってな」
こうやって冒険者同士の交流が始まるのはいい事だ。
一方で盛り上がってきたのか、宴みたいなのが始まった。
「では一曲! 竜にまたがりしはぁ! 空色の髪をぉ! なびかせしぃ! 幼顔のぉ!」
「我こそはぁ! 瞬撃ぃ! しょーじょ!」
「ドバサァ! 魔王は即死!」
「グシャア! 神すら屠る!」
なんか物騒な歌を歌い始めた。ノリノリだから冒険者の間では有名な歌かもしれない。
それにしても、アルコールなしでここまでとは。
「俺だってなぁ、もう四十過ぎだけどさ。チャンスさえありゃ一級くらいよぉ……」
「いやいや、その歳だろうが、四級は立派だ」
「そうかなぁ……いい加減、村に帰って親孝行したほうがいいかなぁ……」
「昔、俺とパーティを組んでいた奴は片足を失った。もう一人は死んだ。トラウマになって精神に異常をきたした奴も知ってる」
泣き始める熟年の冒険者にシビアな現実を淡々と語る老齢の冒険者。
その後、老齢冒険者もそろそろ引退を考えていると語り始めた。危険な仕事だから長続きしている人はあまりいないのが冒険者だ。
冒険者じゃない私はこんな時、相談に乗ってあげられない。思い出すのはあの日、私を屋敷まで送り届けてくれた人達の顔だった。
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