第20話 ライトポーション量産!

 先日、冒険者の人達のおかげで大量のビンが集まった。これを洗浄して再利用すればいい。

 ポーションを製造した後、ビンに詰めて蓋をする。これが地味というかすこぶる大変な作業だ。

 普通なら人員を集めるか、魔導具による量産体制を整える。だけど私の場合は問題ない。


「アリエッタ様、何が始まるんです?」

「見てて。大釜で作ったポーションをこうやって……転移!」


 ポーションの液体をビンの中に転移した。同時に栓もすれば完璧だ。

 液体みたいな不定形は転移が難しいけど、少量なら問題ない。


「転移! 転移転移転移! あぁそれっ! 転移!」

「てんいっ! てんいっ!」


 手拍子でミルカが私のテンションを上げてくれる。なんだか気分がよくなってきた。


「そーれそれそれそれっ! 転移っ! 転移っ!」

「てん! てん! てんい! てんいっ! いっ!」


 端から順にビンの中がポーションで満たされる。時間差で栓をしてみれば、ミルカがおおはしゃぎ。

 更にお遊びでビンを同じ要領で"〇"を描くように並べてみた。


「なんだかすごく綺麗です!」

「花火ってこんな感じかな。確かアズマという国の文化だったはず」

「絵本の中でしか知りません。見てみたいですよね」


 見ようと思えばいつでも、と言いかけたところでふと思った。私の転移魔術なら宿ごと移動できる。

 そうなるとこの場所に拘る必要もない。世界各地、どこでも宿が出来るんだ。


「旅する宿屋……。いいかも」

「え?」

「さて、これだけライトポーションがあれば冒険者の人達に売れるね」

「価格はどうなさいますか?」

「私の場合はあらゆる経費をカットしてるから安く販売するよ」


 といってもいろんな人達に睨まれない程度の価格にする。

 これで宿泊、食事、お風呂、アイテム販売が揃った。男女の風呂別工事も終わったし、下地は整ったはずだ。

 あとは前から考えていた従業員なんだけど、これは悩ましい。忙しくなってきたら、なんて考えてたけどその間にいい人材が他に流れる可能性があった。


「頃合いを見て従業員を募集しようかな。ミルカみたいな子がたくさん来てくれたらいいんだけど……」

「私一人じゃ満足できないのですか!?」

「なんかニュアンスが引っかかるけど、人手があればそれだけ私達の時間が増えるからね」

「そうですよね、私達の時間は大切ですよね」


 どうした、この子は。

 それより求人情報をまとめよう。まずは募集要項だ。宿屋の業務全般とだけ書くと黒さがすごいので、細かく分類しよう。

 仕込み、接客、清掃、受け付けのいずれかと書いて、来てくれた人と話し合う。

 勤務体系はその人の都合に合わせるけど、住み込みも可能だ。これも考慮して専用の部屋を用意した。

 無理なら規定の時間に私が転移で送り迎えをしてもいい。出来るだけ門を広くしておけば、いろいろな人と出会える可能性が高いはず。

 能力は高いに越した事はないけど、大切なのは信頼と将来性だ。ただし見極めが一番難しい。


「お給料はどうします?」

「他の宿と同じくらいのお金は出すつもりだよ。でもねー、まずお客さんが来てくれて売り上げが安定しない事にはね」

「この宿屋の最重要課題ですね。元々立地が特殊なので、そういった面では難しいかと……」


 クルスとネーナ以来、お客さんが少しずつやってくるようになった。

 ただこれを一般的な宿屋の形態で経営していたなら大赤字だ。私の転移魔術とミルカがいるからなんとかなってるところが大きい。


「アリエッタ様と私だけでも今のところ、どうにかなってますね」

「だけど転移魔術だけじゃ片付かない業務もあるからね。かゆいところに手を届かせる意味でも人手は必要だよ。もちろん大きな宿屋みたいに大人数とまではいかないけどさ」

「募集すればたくさん来ると思いますよ。ただし本当にいい人は……」

「質はまぁ、難しいよね。いっそ引き抜く?」

「それは最後の手段ですね」


 否定はしなかった。ただ王都で経営基盤を築き上げている宿からの引き抜きなんて現実的じゃない。あくまで冗談の半略だ。

 ミルカと話しながらも、ライトポーションを倉庫に転移して在庫を確保した。あとは販売用として店頭に並べよう。

 こんなのは転移で事足りるけど、困るのは清掃や洗濯だ。宿屋である以上、清潔感は保たないといけない。

 今のところミルカがやってくれているけど、さすがに過労が心配になる。


「私はもっと働きたいくらいですよ」

「少しは休んで本当にお願いだから」


 やる気がみなぎりすぎるのも困る。本人が気づかないうちに疲労が蓄積してそのうち、なんてことになったら私が泣く。

 宿屋の為にもミルカの為にも私の為にも、従業員募集はいずれやらなきゃいけない。

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