第19話 ライトポーション完成!

 残り一理、それはヒリング草の煎じ方だった。これが超重要で、塊が残らないようにするべきだとミルカは言う。

 塊が残ってる状態だとなかなか溶けずに煮る時間が長引く。だったらゴリゴリと、なんて頑張るけど簡単じゃない。


「これこそがプロの技が必要な部分なんだね」

「力を入れてるだけじゃなかなか潰れませんね。私にやらせて下さい」


 ミルカがやってみると私よりはいい結果を出した。私の場合、余計な力が入りすぎていたみたいだ。

 そして普通の水を霧状に散布してやる。これこそが安定に秘訣だと、ミルカが他の料理を参考にして結論を出した。

 レシピにはまったく書かれてないことばかりだ。


「あ、溶けてる溶けてる!」

「不純物が取り除かれた魔力の水と合わさって……」

「鮮やかーな青色!」

「最後に叩いた魔力の砂を低い位置からパラパラとまぶして……」


 出来上がった私達のポーションとアルケミストの女性ももらったポーションを並べてみる。

 この違いはプロにならないとわからないみたいだけど、素人の私からは同じに見えた。


「飲み比べてみませんか?」

「そうだね。サンプルの残りが少なくなってるし、ここら辺で決めたい」


 スプーンですくって飲む。相変わらずプロ製は完成された味だけど、私達のものはどうかな。


「これって……」

「私の味覚が確かなら完璧です!」

「うん、私もいいと思う。よし! さっそく味見してもらおう!」

「冒険者ギルドに行くんですか?」

「金色の荒鷲の人達、いるかな」


 あそこにいる冒険者に試飲してもらえば、全体的な評価は見えてくるはずだ。

 これで完璧じゃなかったとしても、私達はこれからも精進を続ける。続けていれば完璧に近づくはずだもの。


                * * *


「こ、これ、あなた達が?」


 金色の荒鷲の女性アルケミストが愕然として倒れかける。ギルド内は騒然として、何事かと野次馬達が集まった。


「どうですか?」

「か、完璧……」

「完璧ですか!」

「に近い……」

「わーお」


 テーブルにしがみつきながらも、アルケミストの女性はようやく態勢を安定させた。完璧だと思ったのにちょっとショックだ。


「完璧じゃないんですか」

「いや、私ならもう少し拘るかなってところだよ。何がすごいかってね……。あれから数日しか経ってないのに、ここまで完成させたところ! わかる!?」

「わ、わかります!」

「この完成度のものを作るには、一から修行しても年単位はかかる。天才どころじゃないよ。あなた、何者?」

「私だけじゃなくて、もう一人の子のおかげです」

「もう一人の子!? 何者!」


 藪をつついてしまった。迫られすぎて鼻と鼻がくっつきそう。

 さすがに仲間に取り押さえられて、ひとまず落ち着いてもらった。

 水を一杯もらって飲み干してから、アルケミストの女性は私のライトポーションのビンを片手で揺らす。


「この百錬のシャーロットとしたことが……。あなたにライトポーションを渡したのは失敗だったかな」

「そんなぁ」

「冗談よ。でもあなたともう一人の子、本気でアルケミストを目指してみない?」

「私達は宿屋なのでそちらはちょっと……」

「あぁもう悔しい!」

「ひっ!」


 突然、テーブルを両手で叩いた。なんか情緒が激しい。

 百錬のシャロットといえば、希代の錬金魔女ヘラの弟子の一人だ。

 師匠は引退してるけど弟子の活躍は凄まじく、錬金術版のルシフォル家みたいなものだと認識してる。

 そして周囲のどよめきがいよいよ強まってきた。


「シャロットがあそこまで悔しがるポーションって……」

「飲んでみたいぞ」

「どうぞ。一つしかないので、一口ずつになるけど……」

「いいのか!」


 群がった冒険者達がスプーンを取り出す。そんなものを常備してるのかと思ったけど、野営で食事するなら必須か。

 カップに少しだけ注ぐと、すごい勢いでスプーンが伸びてきた。


「んまぁぁぁい!」

「するっと飲める!」

「上位の冒険者はこんなのを飲んでるのか! けしからん!」

「四級なんて大量生産品がせいぜいだからなぁ……。おいしくないし、傷の治りも遅くてさ」


 やっぱり等級が低い冒険者にはひどいポーションしか回ってこない。

 冒険者は国の手が回らない案件を片付けてくれる重要な存在だ。激昂する大将だって討伐に向かってくれる。

 魔物は基本的に繁殖力が高い。だからこの人達が狩り続けないと、あっという間に魔物パラダイスになると言われていた。


「これはどこで売ってるんだ! おい! なぁ!」

「落ち着いて下さい。キゼルス渓谷でやってる冒険者の宿で販売する予定です。ただしまだ大量生産は難しいので数は少ないです」

「ポーション生産において地味にきついのはビンだよなぁ! おい! お前らぁ! この子の為に空き瓶を確保しろぉ!」

「嬉しすぎますけどまず落ち着いて下さい」


「っしゃああぁぁぁぁ! えっほえっほぉ!」


 ギルド内が熱気に包まれて、なんか踊り始めた。当てがないわけでもなかったけど助かる。

 これでキゼルス渓谷に冒険者が頻繁に訪れてくれるといいんだけど。

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