第18話 ライトポーション製作 3

 ここ数日、ライトポーションの試作を重ねては冒険者達に試飲してもらってる。

 宿屋に来るお客さんはまだ少ないから、場所は王都の冒険者ギルドだ。

 反応は様々で、等級が低い冒険者にはおいしいと言ってもらえるけど高いと今一つだった。


「悪くはないんだけど、これなら俺達が飲んでるやつのほうがうまいな」

「どんな方が作ったポーションなんですか?」

「こいつだよ」


 紹介されたのは冒険者として活動している女性アルケミストだった。一級くらいの冒険者となれば、パーティ内に一人はいる場合もある。

 戦闘面で大きな活躍は出来ないけど、薬品による特殊効果による縁の下の力持ち的な役割だ。

 この人達は日常的にライトポーションを使用しているみたいだから、参考になる。


「その冒険者の宿屋ってところでライトポーションを販売するのかい?」

「はい、そのつもりです」

「他の冒険者は大助かりだぞ。何せ素材を持ってきて、こいつにライトポーション製造を依頼してくる連中もいるからな」

「儲けがなくなるのはキツいけどねー」


 このパーティのアルケミストは優秀らしい。さすがは上位のパーティだ。

 だけど最低でもこのアルケミストと同等以上の品質がないと、お話にならない。

 いくら道中で補給できるといっても、この人のポーションと比べられる可能性がある。


「ポーションは味だけじゃなくて目で判断できる部分もあるんだ。特に濃淡なんかは重要だね」

「品質がよければ鮮やかに見えるというアレですか?」

「そうそう。まぁ濃いとか薄い程度なら素人でも判断できるけど、些細な違いは熟練者じゃないとわからないね」

「それは経験によって鍛えるんですね」

「うんうん、よくわかってるじゃん。簡単にわかるほど単純な世界じゃないってこと」


 簡単に出来ればプロはいらない。まさにその通りだ。

 逆に言えば可能にしてしまえば、他の宿と比べても大きな差になる。

 道中、仕方なく利用するみたいな宿にはしたくない。あの人の宿みたいに、いや。あの人の宿以上に、心から冒険者がくつろげる空間を提供するんだ。


「あの、あなたが作ったライトポーションを売ってもらえませんか?」

「高いよ?」

「いいんです」


 ライトポーションを手渡された途端、ふわりと手が浮いた感覚を覚える。

 これはほぼビンの重さしかない。いや、ビンの重さすら軽減されてる気がした。なんというプロの御業。


「こうして透かすと背景がはっきりと見えるでしょ? それでいて青いともわかる」

「はい、段違いな品質ですね」

「楽しみにしてる。冒険者の宿、いつかは寄らせてもらうよ」


 大口との約束を取り付けたと解釈していいんだろうか。さっそく戻って研究の再開だ。


                * * *


 一級パーティ『金色の荒鷲』のアルケミストから貰ったライトポーションを二人で一口、飲んでみる。


「これはまさしく天上の蜜……!」

「それは大袈裟だけど、おいしいよね」


 良薬、口に苦しなんていうけど本当に質がポーションがおいしく飲めるとわかる。

 飲んでばかりもいられないので、これを研究して私達もライトポーションを作るわけだけど。


「なるほど。これは魔力の水を一度、濾過してます」

「こっちのライトポーションの透明度の謎はそこかな? 調べたら魔力の水って熱で蒸発する不純物が含まれてるみたい」

「調合の際に静かに注ぐ必要もありますね。空気が入ると台無しです」

「この色合いはただヒリング草を煎じただけじゃなさそうだね」


 たった一つのサンプルを参考に私達は試行錯誤を開始した。

 器具が足りなければ買い足して、見当違いなら出直す。大変だけどミルカと意見を出し合って作業するのは楽しい。

 魔術の研究は基本的に私だけだったもの。


「あ、いいんじゃない?」

「かなり近づきましたね!」

「と、ベルが鳴った。お客さんが来たから行ってくる」

「いえ、私が行きますよ」


 宿屋のドアが開けばベルが鳴るようにしてる。ミルカには転移層を張ってあるし、不穏な連中だったとしても問題なかった。

 だけど、あの子への負担が心配だ。休みを与えてもすぐ戻ってくるし、挙句の果てには拒否する始末。どうしたものか。


「ミルカ、お帰り」

「珍しく一人のお客さんでしたね。自信のある方みたいで、激昂する大将を討伐しに来たみたいです」

「大将といえばこの前やってきた、さすらいの大狼も討伐するとか言ってたね」

「そういえば……。先を越されていたとしたら気の毒ですね」


 せっかくだから試作品のポーションを訪れた冒険者に格安で配布した。完成品なら正規の価格で販売する予定だ。

 試飲してもらうと大絶賛で、また頑張れると大喜びだった。研究と宿の両立は少し大変だけど、喜んでもらえるとこっちも嬉しいからやりがいがある。

 そんな日々の末、ついにあと一歩まで迫った。


「これは……」

「こっちのライトポーションと比べてもほぼ変わらないね」

「しかし、あと一理です。料理もそうなんですが、ここからが大変なんですよ」

「魔術もそうだったよ。九十九里の道、残り一理をもって半ばとするって言葉を思い出したもん」 


 とはいえ、半ばまで来た事には変わりない。このほぼ完成版をまた冒険者に試飲してもらおう。

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