第17話 ライトポーション製作 2
「バーストボアベーコンうまっ!」
「野営を覚悟してたところで、これは嬉しい!」
お客さんが朝食を絶賛してくれている。あれからミルカが早起きして仕込みをやってくれたようで、本当に助かった。
この人達は三級冒険者パーティ『さすらいの大狼』だ。何でも最初に討伐したネームドモンスターの名前が由来なんだとか。
それなりの実力者みたいで、クルスとネーナに比べると物腰が違う。なんかこう、隙がなさそうというか。
「ふぅ……うまかった。昨夜はいい湯に浸かったし、出るのが惜しい宿だよ」
「ありがとうございますっ!」
「君達は只者じゃないよな。何せ、この宿にだけ魔物が寄りついていない」
「私、魔術師なんです」
「やっぱりな。しかも相当な実力者だ。無名なはずはないんだが、心当たりがないなぁ」
「アイル、手合わせしてもらったらどうだ?」
仲間の一人がリーダーのアイルさんにとんでもない事を言い出した。お断りしようと言葉に出そうとした時だ。
「さすがに遠慮がなさすぎる。この娘だって困るだろ」
「ハハッ、だよなぁ」
「いい飯に布団、風呂まで用意してもらったんだ。ここは素直に金を払って出ていくべきだ」
「すまん、すまん。でもあの張り紙に書かれている転移サービスってのも気になるな。これ本当かい?」
私が本当ですと答えると、少しの間だけ沈黙した。
魔術式持ちでありながら酔狂な事をしているなという声が聞こえてきそうだ。
「なぁ、君。本当に何者だ?」
「あまりプライベートな質問はちょっと……。それよりご利用なさいますか?」
「いや、いい。激昂する大将も討伐しておきたいからな。そうだろ、アイル?」
「あぁ、その通りだ」
矢次に質問されるケースを想定して、早々打ち切る。それにメンバーの一人が、質問した人の腕をつっついていた。
魔術師らしく、何となく私の力を察したのかもしれない。目を合わせようとしないし、逸らされたもの。
「じゃあ、世話になったな」
「ありがとうございした。またのご利用をお待ちしております」
物分かりがいい人達でよかった。三級ともなると、落ち着きがあるというか雰囲気が違う。
クルスさんとネーナさんの初々しさとはだいぶかけ離れていたもの。
* * *
さすらいの大狼を見送った後、ポーション製作に入る。
基本レシピを見直していると、片付けを終えたミルカが来てくれた。仕事が早すぎる。
「アリエッタ様。もう少し煮込み時間を伸ばしてみては?」
「足りないかなと思ったんだけどな」
「それを恐れて煮込みを切り上げる方もいるんですけど、実際には不十分な事が多いんですよ」
「料理の話?」
「はい」
ミルカを信じて少し時間をかけて煮込む。スプーンですくって味見をすると、確かに何かが変わった。
「いい感じだ。レシピの時間よりも長いのに……」
「レシピはあくまで目安です。煮込み時間は素材の質や気温によって変化します」
「そうか。食材も同じだよね」
「少しずつ調合してみましょう。レシピよりも長く煮込んだので、魔力の水との配合比率も変わってるはずですから」
そんなの思いつきもしなかった。恐るべし錬金の世界、恐るべしミルカ。
この子がいなかったら、ここでしばらく詰まっていたかもしれない。
「オリジナルまであとわずか……ですね」
「じゃあ、このくらいでやってみる。一口、と。うん……いいかな?」
「あぁーーーーっ!」
「な、なに!」
「これです! 正解ですよ!」
ミルカが奇声を上げるのも無理はない。オリジナルと比較しても、まったく同じ味だ。
売り物のポーションと比べても遜色ない。ただこのままだと普通のポーションだから、これに魔力の砂を調合しなきゃいけない。
レグリア地下迷宮の深層で調達した魔力の砂は需要が高い。このまま売っても十分、稼ぎになる。
「次はこの砂をポーションに調合するわけだけど……。改めて考えると砂を飲み物に加えるってすごいね」
「最初に発見した方は偉大ですね。この砂の成分がポーションの回復力を引き上げるだけでなく、重量も軽減してくれるそうですよ」
「これを……叩く?」
叩くとより成分が抽出されやすいらしい。魔術の世界に劣らず、錬金の世界もとんでもない。
ミルカの提案通り、砂を小分けして叩いて様子を見ようという事になった。
一つ目、二つ目、三つ目、四つ目。成功するまで何度でも繰り返す。転移魔術の研究と同じだ。
「どれ……。よし、重量は軽くなってる。ミルカがいてくれてよかった」
「お役に立てて嬉しいです」
「もうずっと役に立ってるよ。この分だと、アルケミストを雇わなくてもよさそう」
「私、アルケミストになっちゃいます?」
「いやいや、そこまで無理はさせられないよ」
優秀なアルケミストを雇うとなれば、とてつもない金額になる。
そもそもそんな人達はとっくに専属で働いていたり、フリーでも忙しくて私達みたいなのを相手にしてる暇なんかない。
「さて、もう少し詰めてみようか」
「はい。完成まで頑張りましょう」
「あ……」
「どうかされましたか?」
「砂がなくなっちゃった……。ちょっと取りに行ってくる」
試作をやりすぎて素材が底を尽きた。今度はもっと多く採取しておこう。
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