第9話 宿屋建築中
結論として、お金を節約しなきゃいけない。お父様から貰ったお金を建築に使ってしまうと、手詰まりを起こす。
かといって、ねだるのは筋が通らない。私が言い出した事だもの。お父様とお母様には認めてもらっただけでも本来は十分だ。
再び研究室に籠って調べものをしていると、やっぱりこれしかないと思い当たる。
「このバルエンの森の木なら、防寒や断熱ばっちりの木材が伐採できる」
「しかし、アリエッタ様。木でも個体によって」
「問題なし」
「さすがアリエッタ様!」
雑に褒められたけど、ミルカなりの優しさだ。その辺の知識は習得済みだから、後は作業だ。
バルエンの森は質が高い木材なんかの宝庫だけど、例によって魔物がいる。それだけにバルエンの木は市場でも高値で取引されてるみたいだ。
私はというと転移破壊でサクサクと伐採開始。木を転移させて一か所にまとめていると、ミルカが思案顔だった。
「アリエッタ様。魔術を使うには魔力が必要なら、いつかなくなっちゃいますよね。アリエッタ様はそんなに魔術を使って平気なんですか?」
「私の魔力は一般的な基準で言えば『化け物』みたい。工夫しないと魔力だだ漏れで、魔術師達から騒がれるから抑えてるよ」
「つまり魔術を使い放題なんですか?」
「無限じゃないけどね。常に張っている転移層も極力、消費を抑える魔術式を組んでいるから寝たり食べてるうちに全回復する」
魔術師じゃないミルカですら腕をさすっている。思えば幼い頃に指導してくれた魔術師も、最後のほうはそそくさと帰っていったっけ。
あの頃は自分の異常性に気づかなかったから、変な人としか思わなかった。今はお父様とお母様のおかげで、きちんと自覚できている。
「ひとまずこんなものでいいかな。後はキゼルス渓谷で建築だ」
「その建築が大変そうですね。私もこればかりは力になれそうにないです」
「すべてを転移でまかなう」
「さすがです!」
雑に褒められたけど、ミルカなりのリアクションだ。さ、ボチボチ始めましょうか。
と思ったところで魔物の襲撃だ。大きな角を振りかざす昆虫型の魔物ヘルクレス。人家なんか簡単に貫くから、防衛力がない村なんかは一溜りもない。
「あの角、いろいろと使えるね。それ、瞬転移」
角だけを残して、ヘルクレスが地に落ちる。丸太と一緒にまとめたところで、また一匹。
虫独特の不快な羽音が森の中に響く。飛んでくる際に角を振って大木をなぎ倒してしまった。
「あー! 貴重な木がー! もう! このこのこの!」
「ア、アリエッタ様! 角が……」
「あ……」
頭にきて瞬転移で角ごと消滅させてしまった。魔術は感情のコントロールも大切、指導者の魔術師も言ってたっけ。こういう反省は次に活かそう。
* * *
転移破壊で切断して、転移破壊で表面を滑らかにして、転移で組み上げる。ログハウスというものを参考にして、ひたすら作業に明け暮れた。
途中でミルカのお弁当を食べて気力回復。やってみてわかったけど私が転移魔術を駆使しても、結構な日数がかかる。
「こりゃ一ヶ月はかかるね……」
「普通はもっとかかりますよ」
「こうやってお弁当を食べて魔力を回復しないとね。宿屋が出来たら次は家具だ」
「そういえば、アリエッタ様。お風呂も用意されるみたいですが、水回りはどうされるので? さすがに水道魔術局もここまでは厳しいかと……」
「それも問題ないよ。空間転移でどうにかするから」
「くーかんてんい? さすがです!」
先に褒めるとはさすがです。離れた場所から目的の場所まで、空間を越えて転移させる方法を考えている。
排水は王都の下水道あたりに転移させればいい。後で許可を取れば問題ないはず。問題があるとしたら、そもそも申請が通るかというところだけど。
「でも、それだけ魔術を使ってはやはりアリエッタ様への負担が心配です……」
「多少は平気だよ。冒険者の人達は命をかけてるんだもの」
「アリエッタ様は冒険者がお好きなんですね」
「……私を屋敷まで送り届けてくれた人達のイメージが強いからね」
良くない人間もいるだろうけど、あの女性のように冒険者達に癒やしの空間を提供したい。
私が冒険者になってあんな風に、と考えない事もなかった。だけどいくら妄想しても、イメージが沸かない。
それはきっと私がやりたい事じゃないからだと思う。嫌々やって仮に結果を出したところで、真面目にやってる人に失礼だ。お父様とお母様に申し訳ない。
「さすがに夜は作業できないから、今日はここまでかな。骨組みは出来たから成果は上々、と」
「工程としては前倒しですね。建物は特に手抜かりがあってはいけないので、慎重に進めましょう」
「そうだね。あ、忘れちゃいけない」
ここは野営ポイントだから、普通に冒険者が来る可能性がある。看板を立てなきゃいけない。
「冒険者の宿、建設予定地と」
「大丈夫なんでしょうか。ここで野営をする予定だった冒険者の方々はどうすれば……」
「あっ」
私だってミスをする。人間だもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます