第6話 冒険者という人達

 お父様のおかげで元手は手に入ったから、後はどう使うか。あの人がやっていた宿屋を参考に、私は研究室で計画を立てた。

 まず冒険者が必要としているものは冒険者に聞くしかない。徹底してリサーチだ。

 それとお客さんが探索中の冒険者なので、怪我の面倒も見たほうがいいと思ってる。だけど私は回復魔術が使えない。だったら今からでも練習するかとなれば、ノーだ。

 魔術式もないのにそんな事をしていたら、おばあちゃんになっちゃう。


「課題は山積みだけど、まずはどこに宿屋を構えるか。そこではどんな冒険者がいて、どんなものを必要としているか。これだ」

「あの、アリエッタ様がやる宿屋というのはもしかして危険な場所なんですか?」

「うん。そうじゃないと意味がないからね。街なら普通の宿屋や治療院があるもの」

「魔物が襲ってきたらどうするんですか?」

「転移層結界で凌ぐ」

「アリエッタ様の凄さが広まっちゃいますね……」


 転移層を宿屋全体に結界として張る。私が自分に張っているものと同じで、害意があるものは近づけない。そう魔術式を組めばいい。

 一番の問題はミルカが言った通り、私の転移魔術だ。一応、これに関しては隠さない。何故かって、これを利用したサービスも考えているから。


「お父様とお母様は私に、好きにしなさいと言ってくれた。私はその言葉を尊重するし、だからこそ危険だって受け入れる。

でも、家族にまで迷惑がかかっちゃうなら……私が責任をもって対処するかな」


 ミルカがコメントを返せない。怯えさせてしまったみたいで、表情が強張っていた。


「ごめん」

「いえ……」


 微妙な空気になってしまった。改めて私は宿屋計画を練る。

 私がサポートする冒険者というのは、誰もやりたがらない仕事をやる人達だ。或いは国の手が足りない時に動く。

 等級別に受けられる依頼が分けられているから、これについても真剣に考えなきゃいけない。


「冒険者の等級が高いほど、危険度が高い場所に行く。低ければ……だし、そこに合わせる必要もある。というわけでまずは冒険者の人達とお話してみようか」

「ぼ、冒険者と?!」

「どうしたのさ」

「荒々しい人達が多いと聞きますし、叩かれないでしょうか」

「大丈夫だって」


 確かに中にはそういうのもいるし、同業者同士のいざこざもあるみたい。だけど私達はあの人達からすれば客でもある。

 ましてや今から行くのは国王のお膝元であるレグリア王国の王都だ。


                * * *


 冒険者ギルド王都支部に着いた。ミルカのイメージとはかけ離れて、冒険者達は落ち着いた雰囲気だ。

 談笑したり、報酬の清算について真剣に話し合ってる。私達が来たところで見向きもしない。ミルカ、これが現実だ。


「皆さん、意外と落ち着いてますね……」

「皆、真面目だよ。まぁ一部、変なのはいるだろうけどさ」

「これなら怖くないです」

「そうだね。さて、誰に声をかけるか」


 見渡した結果、若い男女のパーティに決めた。ベテランにも聞きたいけど、今は清算に夢中だから邪魔しちゃいけない。


「あのー、少しお話いいですか?」

「うん? 君は?」

「私達、冒険者の人達に興味があってお話を伺いたいんです」

「いいけど、俺達が話せる事なんてそんなにないぞ?」


 熱心な素振りを見せたおかげで、心証は悪くない。そんなにないぞ、と言いつつ興味を持たれて口元が緩んでる。

 よく行く場所、苦労する魔物、後悔した事。私は根掘り葉掘り聞いた。


「意外にネックになるのは重量だな。必要なものが多い場所なら尚更だ。しかし軽くて良質なアイテムは売値が高い……」

「どこでも手軽に補給とはいかないからね」


「オイオイ。ひよっこどもの話じゃ大した参考にならんだろ」


 やってきたのはベテランっぽい風格を漂わせている剣士のおじさんだ。ニッと笑って、私の隣に来る。


「ガロウルさん! 帰ったんですか! 魔獣討伐は?!」

「おう、バッチリさ。五級魔獣とはいえ、くたびれたぞ。今はパーティメンバー各々、それぞれくつろいでる」

「さすが烈剣のガロウルですね……」

「それより、この子達が冒険者の話を聞きたがっているみたいだな」


「フッ……ガロウルか。三級冒険者では文字通り、話にならんな」


 壁に背中を預けたフードかぶりの怪しい人物が口を挟んできた。魔術師っぽい見た目だけど本当に怪しい。


「お、お前は二級の……」

「そう。魔術式が刻まれながら、あえて冒険者をやっている風殺のエンサーさ。そこの君達、俺が四級魔獣を討伐した時の話をしてやる」


「いや、ここは一級冒険者である俺だろう」


 今度はガロウルとエンサーが道を開けるほどの人物だ。不敵な笑みを浮かべた男が、遠慮なく割って入ってくる。どんどん増えるし、話が偏り始めた。


「かっこよくて強い冒険者の話を聞きたいんだろ?」

「いえ、別にその条件は必須じゃないです」

「いいだろう。まずはレグリアの勇者と呼ばれた俺が、かつて討伐した魔獣の話をしてやる」

「まずこっちの話を聞いて下さい」


 その後、冒険者が集まってきて次々に武勇伝を語り始めた。我先にと自己主張して、途中からリアクションが面倒になる。

 そんな中でも、実になる情報はあった。冒険者達が必要としている物、手強い魔物や危険な場所。何より宿屋を建てるべき場所だ。

 そんなわけで、さっそく開店準備に向けて動き出す。

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