13. 家族達
「……こりゃすごいな……」
「あわわ、や、宿が……お家がめちゃくちゃ……はふん……」
「うわ、セルナさん!?」
ヨードを引きずって宿へ戻ってくると、ロビーがめちゃくちゃになっていた。警備団と思われる人が倒れているゴロツキを回収していった。そこに一人の団員が俺に気付いて声をかけてきた。
「その女性はセルナさんですか?」
「ええ、ちょっと気絶しちゃいましたけど。で、今回の騒動の元凶がこちらです」
まだのびているヨードを差し出すと、分かりましたと言ってヨードも連れて行った。明日、事情聴取という事で話を聞きにくるそうだ。こういった観光地は外からの人が多いので荒事にはなれているらしく手際よく、そしてあっという間にゴロツキ達を回収しきった。
「おかえり、クリス。セルナさんを無事取り戻したようだね?」
「あ、父さん。知ってたのかい?」
すると今度は母さんが奥から歩いてきながら声をかけてきた。
「さっきフィアに聞いたわ。その子もあなたと同じなんですって?」
「……どういう意味?」
恐らくフィアが言ったのだろう。だけど何となくはぐらかしてしまった。
「別の世界から来た転生者……よね? 親父さんは知らないと思うけど、私達はフィアから聞いたのよ」
やっぱりか。仕方ない、と俺は観念して話す事にした。
「そう、俺は別の世界から転生してきたんだ。記憶も持ったまま……向こうでの俺は……」
「ストップだよクリス」
「?」
父さんが指を口に当ててそれ以上は言わなくていいと呟いた。とても優しい笑顔で。そして母さんが俺の前に立ち、頭を撫でてきた。
「クリスが前の世界でどんな人間だったか、なんて大したことじゃないし、聞く必要もないわ。あなたは私が産んだ息子、クリス=ルーベインなんだから。今までもこれからもずっとね。あ、でも向こうの世界の生活とか道具は気になるわねー今度暇な時にでも教えて頂戴」
「母さん……」
「そういうことだ。クリスは僕の息子。向こうの世界の知識を悪用しない、立派な自慢の息子さ」
「父さん……どうしてこのタイミングで……?」
「その子を必死に助けに行ったからかな? もしかしたら転生者という事は後ろ暗いと思っていたかもしれないしそうじゃないかもしれない。それはクリスにしか分からない。けど僕は君の父親だ、君の事は理解している、そう言いたかったんだよ」
フッと笑い、セルナさんを指差して父さんが言う。
「ほら、彼女が目を覚ますみたいだよ。クロミアちゃんはこちらで預かろう」
眠ったままのクロミアを母さんが背負い、三人は部屋へと戻って行く。その背中を見ながら、俺はふいに涙を流していた。俺はもしかすると父さんたちにバレるのが怖かったのかもしれないな……だから言いだせなかったのだ。ポタリと涙がセルナさんの頬へと一滴落ち、目を覚ます。
カチッ
「ん、ん……冷たっ!? ……どうしたんですか? クリスさん?」
「いや、何でも……なくは無いか、俺は転生してきて良かったなってそう思ったんだ」
「ふふ、そうですね。色々大変でしたけど、今は良かったなって思います。この世界でもあなたに会えて……」
「え? そりゃどういう……」
<クリスさぁぁぁぁぁん! ぃ良かったぁぁぁ! 無事セルナさんを助けたんですね! もう生きた心地がしませんでしたよ!!!>
「うぅぅるせぇぇぇ!? 今頃出てきやがって! すまん、セルナさん。ちょっとうるさいかもしれないけど勘弁してくれ」
「ああ、例の……」
がっかりした顔で俺の手を握ってくるセルナさん。ドキッとするが、今はそれどころではない。
<ま、これで転生者同士仲良く結婚コースに入った訳ですね。私も手を尽くした甲斐があったというものです! 結婚すればポイント倍! さらに年間パスポートも! ふひひ、ありがとうございますクリスさん……これで私の地位も安泰……>
「やっぱりお前が糸を引いていやがったか……お前の思い通りになって……」
<クク。使えるものは使うのが私、オルコスですよ? それにそんなことを言っていいんですか? セルナさんはあなたと同じ転生者。このまま放っておけるんですかね? まあ、好きになさっていただいても結構ですが……セルナさんが他の男と結婚するのを、あなたは黙っていられるんですかねぇ……目を離していたらまた誘拐、なんてこともあるかもしれない……>
開き直ったオルコスが嫌な事を言ってくる。確かに同郷の人間を見捨てる真似は俺にはできない。今回のように助けに入るだろう。知ってしまった以上、特に。そして異性というのも大きい。
だからこそ結婚相手を同じ転生者に選んだ。そういうことか……汚い手を使う。
「クソ野郎が……!」
<何とでも。この町に来た時点であなたの運命は決まっていました。誘拐騒ぎは少々焦りましたがね? いいじゃありませんか、あなたは可愛い嫁をGET。私は富を得る。WIN-WINの関係ですよ>
「お前はいつか必ず俺がケリをつけてやる……せいぜい今を楽しんでおくんだな」
<怖い怖い……ではまた……>
カチッ
「大丈夫ですか……? 怖い顔になってますよ……」
「あ、ああ、大丈夫だ……ごめん」
「ううん。何かあったら言ってくださいね、同じ故郷を持つものなんですから。あ、台所は無事かしら? お夜食、作りますね!」
俺の手を離し、パタパタと台所へと向かうセルナさん。俺はぼんやりと背中を追い突っ立っていた。
正直な所、同じ転生者という事で少し、いや、かなりテンションが上がったのは事実だ。性格もあの世で話したままだったし、何より可愛い。彼女となら結婚してもいいとも思う。
しかし、彼女の気持ちは分からない上、オルコスのヤツに言われるまま彼女と結婚するのはどうなのか? という思いは拭えないのだ。
「俺はどうしたら……「クリス様……」はい、いらっしゃいませぇぇぇ!?」
ボソッと呟いたその時、背後から声をかけられ、1メートルくらい飛び上がってしまう。尻から着地し、振り返るとそこにはセルナさんの親父さんが立っていた。
「す、すいません!? 今、警備団の詰所から戻りまして……丁度ロビーにクリス様が立っていらしたもので。ここにいらっしゃるということはセルナを……?」
「え、ええ、今は夜食を作りに行ってくれています」
「そうですか! それは良かった……」
おいおいと泣きながら親父さんは俺の肩に手を置いてお願いをしてきた。
「クリス様、不躾なお願いで申し訳ないのですが、セルナをもらってやってくれませんか! 妾でも、メイドでも構いません。こんなボロ宿に縛り付けていい娘ではないんです……もしクリス様がもらっていただけるなら、私もこの宿を廃業して、適当な仕事をしながら余生を過ごしたいと思っています」
「そんな、ここは母親との思い出もあるんでしょうに!?」
「もちろん取り壊しはしません。ここで暮らすのは私だけでいい、そういうことですよ。妻も分かってくれます」
「……」
この時、実は廊下の影でセルナさんが俺達の話を聞いていたのだが、この時の俺はそれを知る由も無かった。親父さんの独白、俺の気持ち。オルコスの馬鹿。
色々な思いを抱えて出した俺の結論とは……。
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ついに転生者としてのクリスとして家族と向き合ったクリス。
セルナとはどうなってしまうのか?
そして、ヨードへ面会へ行くクリス。
次回『さらば、温泉街』
ご期待ください。
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