カエル狩り Ⅱ
「僕の肌、そんなにカエルに見えるかな。まあ、まだ日焼けとか分かんないか……」青年は缶のプルタブを開けると、少しずつ口を付けながら続けた。「……天使でしたっけ、先生は。良いなあ。僕も先生みたいな色にしよっかな」
「ジュヴァンに暮らせば、嫌でも銀髪になれますよ」
「へ〜!先生ってジュバンの人なんだ。どうりで……その、魔法とか出そうな感じの」
「魔法ねえ……使えますよ。見ます?」
「えっ?」
「冗談です」
セヴォンは青年の顔を確認しながら、サラサラと所見を書き留めていった。
「ああ、もしかして今、職質受けてます?僕」
「まぁ」
「……そっか。僕も白衣を着ようかな」
「冗談ですよ、立たないで」青年は続けた。「もう此処には来ません。警戒されたら元も子もない」
◇
「シャチ先生の親に会ってみたくて。どうすればあんな良い感じに育つのか、聞いてみたかったんです。………先生、シャチ先生と仲良さそうでしたよね。何か知ってますか?シャチ先生の秘密」
「知ってたとしても貴方には教えませんし、何も知りません」
「ちょっと、怖いなあ先生。流石は天使様だ」セヴォンがムッとしはじめたのを感じ取り、青年は天使イジリをやめた。「すいません、もう本当に出ますから……あの、これだけ聞き逃げさせてください」
「…………親が…」青年はえづいた。「親が、どんなにダメな奴でも、子供は真っ当に育ってくれますかね?」
青年は申し分程度に笑ってみせたが、却って逆効果だったのは彼自身にも分かっていた。彼の薬指を見る限り、これが、ただの苦し紛れの──『即席で思い付いた、時間稼ぎの議題』でないと言うのは誰の目にも明らかだったのだ。辺りはもう切り上げていい時刻だったが、セヴォンはこの歳の離れた友人の悩みを聞いてやろうという気になった。
「僕自身、そうであって欲しいと思いますけどね。分かりませんよ、そんなの。僕に聞かないでください。ただ──…お腹の子に恨まれたくないなら、手を上げるのだけは」
「実体験?それ」
「……」
「え?」
「えっ?いや、ほら。信憑性がさ……」
職員と不審者としてではなく、似たような命題を抱える羊同士として。どうせ話すなら実のあるものにと歩み寄ったセヴォンだったが、所詮不審者は不審者だった。
「さあね」
やはり、自分に友などいないのだ。
一気に気を悪くしたセヴォンは容赦なく机を叩くと、それを職員へ合図として席を離れた。不審者は瞬く間に行き場をなくしていき、最後の最後までやかましく吠えていた。
「あっ、シャチ先生!お久しぶりです!ねえ、シャチ先生。シャチ先生は、シャチ先生のご両親にどういう教育を受けてたんですか?僕の子供にも、シャチ先生みたいにクールでいてほしいなあ。どうすればいいんだろう!ねえ!シャチ先生!……離せよ!シャチ先生!おーい!シャ、」
空き缶が床に転がり、次に不審者が倒れた。
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