09 final & prologue.
はじめて、彼を抱きしめたときのことを。なんとなく、思い出した。
彼の心臓の音が、肌を通して。自分の心臓の音に繋がったような、それでいてふたりとも違う鼓動を打つような。どきどきして、全身が熱くなるような。そんな感じだった。
今更、思い出したところで。彼はいない。
「どうしたの。にやにやして」
友達。不思議そうに訊いてくる。
聞こえないふりをして、窓のそとを眺めてやり過ごした。友達。別な生徒をつかまえて、また違う話をしている。
この友達にとって恋愛は、ファッションとかゲームの実績解除とか、そういうのと同じみたいだった。中身のない、ただ誰かと一緒にいるだけの、空虚な作業。
そして。
学生の恋愛なんて、そんなもの、なのかもしれない。自分のように、まともに人を愛して、真面目に人と過ごすなんて。学生のやることではないのかも。
窓の外。
特に何の変わりもない、街の景色。
遅刻した彼が、急いで走ってくるのが、見える。
「ふふ」
彼は、朝が遅くなった。わたしのせいで。
きっと、ぎりぎりで教室に滑り込んで。そして、くそがっ、て、言うのだろう。
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