07 Love,

 ごはんを食べ終わって。

 何をするでもなく、テレビを見ていた。

 さっきのアナウンサー。さっきの速報ニュースが誤報だったらしいということを、話していた。

 つまらない。

 世界なんて。

 なくなればいいのに。


「ちょっと。どこ行くの」


「コンビニ」


 アイスが食べたい。


「雑誌買ってきてよ」


 答えずに、家を出た。

 夕暮れが終わって、夜の気配が濃くなっている。


 いつもなら、彼に連絡をして。彼とコンビニで会って、何をするでもなく一緒にいたりするのに。


 彼は、いない。


 コンビニ。


 入ろうとして。


 何かに、ぶつかられる。


 すごい速さで突っ込んできたから、避けられなかった。


「くそがっ」


 彼。

 彼だった。

 汗だく。死にそうな顔をしている。


「くそがっ。これでいいかっ」


 彼。



「ふふっ」


「なにがおかしい」


「はじめて聞いた。あなたの、綺麗じゃない言葉。くそがっ、て」


「おまえ。なんでだ」


「何が?」


 彼に覆い被さられたまま、喋る。彼の汗。彼の頬を伝って、わたしの身体に落ちてくる。


「世界が。滅びればいいとか。思ってた、だろ」


「世界?」


「おまえ。なんで。世界が。ふざけるなよおまえ」


 世界。

 世界が、滅びればいい。


「思ってるよ。今も。世界がなくなればいいって」


「やめろまじで。ほんとに。俺がどんな気持ちで」


「あなたと付き合えないなら。世界なんて、いらない」


「あ?」


「わたしね。あなたのことが好きなの。なんとなく流されてとか、思春期だからとか、そういうので好きなわけじゃないの。あなたのことが、真剣に好きで。あなたとなら、死ぬまで一緒にいたいって思ってるの」


「ごめん。よく分からない」


「あなたが別れるって言ったから」


 なんとなく。涙が、流れてきた。


「あなたのせいよ。あなたがわたしを振ったから。わたしは」


 いままで、泣いたことがなかったから。こんなにも、涙が。息をつまらせるものだと、思わなかった。


「おい」


 彼の汗だくの顔。

 覆い被さられたまま。

 彼に、抱きついた。抱きしめる。

 彼の、心臓の音。とっても、早い。


「おい。勘弁してくれよ」


「なにが?」


「俺は。ひとりで生きてきて。ひとりで死ぬんだと、思ってたから。おまえとも、いつか。普通に付き合って、普通に別れるときが来るんだと、思ってた。学生の恋愛なんて、そんなもんだって」


「そっか」


「俺は。ごめん。俺。限界来た」


 彼の体重が。すべて、自分の身体にのしかかった。重い。

 彼。もう、ぴくりとも動けないみたいだった。


「よいしょ」


 彼の下から、いったん脱出して。


「よいしょ。よいしょ」


 コンビニの裏側、駐車場と監視カメラがあるところに引きずっていった。


「ふう」


 そこで、あらためて。

 彼に、抱きつく。

 彼の、汗の感じ。

 心臓の鼓動。

 身体の熱い部分。全身で、感じる。


 彼。されるがままにしていた。


「いいのか」


 彼が、つかれきった、小さな声で。耳許でささやく。


「俺は。こんな夜中に。自分から別れを切り出した女性にぶつかっていくようなやつが」


「どんなあなたでも。好きよ」


 彼を。抱きしめ続けた。少しして。彼は、安心したように、眠りはじめる。

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