第8話 涙のその先

インターホンを鳴らすと中からやつれた顔の彼女の母親が出てきた。

「あら……。河原君よね……?」

僕は小さく頷いた。

「水谷さんのお参りに来ました」


僕は彼女へのお参りを済ませ、横に正座している彼女の母親と向き合った。

「僕は、水谷さんのお参りと、それともう一つ。どうしてもお母さんに渡さなくちゃいけないものがあって来ました」

「何かしら……?」

僕が畳に一枚の紙を置くと彼女の母親は手紙を開いて目を見張った。

「美雪の字だわ……」

彼女の母親は一文一文読み落としがないように字を追っていった。

彼女の母親は涙を堪えているように見えた。

「我慢しなくていいと思います。彼女のためにも泣いてあげてください」

僕が彼女の母親を見据えてはっきりそう言うと、彼女の母親は無理に笑顔をを作りながら我慢しきれなくなったのか、涙を一筋、畳の上にこぼした。

やがて彼女の母親は涙を流しながらこう言った。

「ありがとう。美雪のことを大切に想って、愛してくれている人、それは貴方だったのね」

「はい。僕は彼女を大切にしていたつもりです」

僕は恥ずかしがらずに彼女の母親を真っ直ぐ見て言った。

「じゃあ、彼氏なのね」

彼女の母親が微笑しながらそう言った。

僕は鼻水を啜りながら涙を溜めた目で少し笑った。

「彼氏……ですか。でも、彼女にとってそういう存在になっていれば嬉しいです」


僕が彼女に与えてもらったものは無限大の可能性。

だとしたら、僕は。

彼女に教えてあげられなかった全てのことを与えたい。


風にのって彼女の"ありがとう"って声がどこからか聞こえた気がして、滲んだ世界に彼女の面影を探してしまった。

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