第9話 その後、僕は。

僕は今小高い丘の上に立っている。

そう。彼女とブルームーンを見たあの丘だった。

隣を見れば彼女が笑っている姿が今にも見えそうな気がして僕は昔懐かしむように目を閉じた。

深い悲しみを含んだような夜に満月が希望の光を照らし出している。

僕はその満月を穴が開くほど凝視していた。

すると僕の目の前で満月が強く光を放った。

突然の出来事に驚きながらも僕は眩しくて、咄嗟とっさに目を瞑った。

僕がおそるおそる目を開けたその先には信じられない光景が広がっていた。

ついさっきまで淡いクリーム色だった月が青い光を射光していたから。

「ブルームーン……」

ブルームーンは大きな形で空に存在を主張するかのように圧倒的な玲瓏さを放っていた。

彼女と一緒に見た月。一年に何回も出ることはない月。彼女が倒れた原因でもある月。

沢山の思い出が詰まった月。


きっと彼女が見せてくれた奇跡——。

僕は自然とそう感じていた。

先程まで普通の色だった月が青に変わる現象なんて聞いたことがない。

なんの予兆もなく、現れたブルームーンは僕の真上の夜空で静かに光り続けていた。

僕は彼女のためにも前を向いて生きていかなければならない。

いつか彼女に本物の「好き」を言ってもらえるように。

いつか君みたいな笑顔溢れる人になれるように——。



今、ブルームーンは笑っている。

僕にはそう見えた気がした——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る