~卑劣! カワイイぱんつは正義~

 さて語るぞ、と砂漠の国の女王陛下は俺たちを見た。


「エラント、おぬしの求めた情報をわらわはしっかりと手に入れてやった。しっかりと感謝するように」


 もちろんでございます、女王陛下。

 俺が求めたのは七星護剣の情報だ。

 セツナたちが求めている物ではあるが、強力な武器であるのは確か。それを持って勇者パーティに加わってもらえれば、強力な味方となってもらえる。

 魔王討伐に一歩近づけるというわけだ。

 七星護剣をすべて集められれば、勇者パーティに加入しても良い。

 そんな条件がセツナたちから提示されているので、こちらも協力を惜しむことはない。

 なにより、七星護剣・火をしばらく使わせてもらっていたから分かるのだが、相当に強い武器だと分かる。

 あと、なにより合体剣がカッコイイ。

 たぶん、勇者が大好きだと思う。できれば見せたくないくらい。あとで、欲しい、とか言い出さないかめちゃくちゃ心配になるくらいに気に入りそう。

 ケンカにならないといいんだけど。

 なんて心配している間に女王陛下が口を開いた。


「以前にそなたらに教えた七星護剣とやらの情報じゃ。月属性じゃったか。それが所在すると思われる場所を突き止めたので教えてやろう。そういうわけで呼び出した」


 わざわざ追加で調べてくれたらしい。

 ということは……なんか別件でやらされるんだろうなぁ。

 頼んでもないのにわざわざ女王陛下が動くわけもなく、なにか見返りを要求してくるに違いない。

 にやにやと笑っている女王陛下を見て、俺はげんなりとした表情を浮かべたかったが……それを我慢した。

 ギャンブルスキル『ポーカーフェイス』。

 取得した覚えはないが、いつの間にか使えてしまっているのは……大人になったから、なのかなぁ。


「エルフが治める森は知っておろう。いくつかあるが、その森のひとつ『アルタ・シルヴァ』じゃ。知っておるか? うむ、よろしい。その森に伝わっておったのが、その七星護剣と思われる剣の泉の話じゃ」

「『スペクロ・ヴェレルーナ』の話?」

「ほう、よく覚えておるのサティス・パルヴァスよ。そなたは賢いのぅ」

「えへへ」


 パルが嬉しそうに笑った。

 さすがの女王陛下もパルの笑顔には勝てまい。

 うんうん。

 すべての少女はカワイイのだ。大人の魅力? ふん。年を取った人間の言い訳とは見苦しいものだ。

 うんうん。


「何か文句でもあるのか、盗賊」

「なんでもないです」

「おぬしは好かん。もっと可愛くなってはどうだ?」


 無理な注文でございます、女王陛下。


「性別変換ですか! 師匠さんが女の子に!?」


 吸血鬼がアホなことを言い出した。


「そのような面白いマジックアイテム……いや、アーティファクトレベルじゃのう。聞いたこともないわ。知っておるのか、ルゥブルム・プルクラよ」


 イノセンティアが省略された。

 清廉潔白がどこにも見当たらないので、省略されて当然だったのかもしれない。


「いえ、残念ながら。女王陛下も知らないということは存在しないものなのでしょうか」


 はぁ~、と残念そうにため息をつくルビー。

 残念なのはおまえの頭なのだが?


「諦めるのは早いぞ、そなたら。今やマジックアイテムは自分で作れる時代になった。それも全てエラントのおかげと言うではないか。遠隔会話装置は素晴らしいし、暑さを防ぐ指輪も快適じゃぞ。魔具とは大発明じゃ。ならば――性別を反転させるマグを作ることなど簡単じゃろうて」


 簡単なわけあるか!

 と、叫びたかった。


「おぉ~」


 と、美少女三人組は愚かにも感動している。


「では、では、では! 師匠さまを女の子にして私が男の子になって、というパターンも!?」


 お姫様が興奮してる。

 あってはならない方向に興奮している。

 俺のいろいろな未来が危ない!


「カカカカカ! おぬし、天才って言われぬか末っ子姫よ!」

「いま言われました!」


 王族同士で仲良さそうですね。

 もう勝手にやっててください、俺は帰ります。帰らせてください。

 マジで怖いです。

 俺、女の子になりたくありません。


「そうじゃそうじゃ、末っ子姫よ。以前、プリンチピッサという者が言っていた物を実際に作ってみたんじゃ」

「はい? なにか注文しましたでしょうか?」

「うむ。冗談だとは分かっておったが好奇心に負けた。おい、持ってまいれ」


 女王陛下は後ろで待機していた美少年に声をかける。

 はい、と返事をした美少年は走ることなく、だができるだけ早く歩いて謁見の間を出て行った。

 何を言ったのだったか、と俺が記憶を辿っているうちに美少年が戻ってくる。

 うやうやしく女王陛下に持ってきた箱を手渡すと、また後ろに控えた。


「これじゃ。許す、ヴェルス・パーロナよ。近くへ寄れ」

「ありがとうございます」


 王族同士なので、そういうことも可能なのか。

 ヴェルス姫は立ち上がると段差を登り女王陛下の元まで移動する。そして女王の持つ箱の中身を覗いた。


「まぁ!」


 驚いた声をあげるお姫様。

 なんだ? 何を見たんだ?


「こ、これを頂けるんですか?」

「うむ。おぬしのサイズに合わせたものじゃ。あぁ、安心せい。男は一切触れておらん。すべて女性に作らせた一品じゃ」

「ありがとうございます、女王陛下。このお礼は父を通じて必ず――」

「よい。不要じゃ。礼ならそこの男にするが良い」


 女王と末っ子姫の視線が俺を貫いた。

 なんで!?

 というか箱の中身ってなに!?

 見せてくれないの!?


「パル、パル。なにか分からないか? 前の謁見での話、覚えてないか」


 こそこそと弟子に聞いてみる。


「たぶんスケスケな下着です」

「……な、なるほど」

「師匠、あたしも欲しいです」

「わたしも欲しいですわ」

「――俺は透けているよりも可愛いデザインのぱんつが好きだ」

「本音は?」

「透けてるのは透けてるので素晴らしい」

「「師匠(さん)のスケベ」」


 あ、はい。

 ごめんなさい。

 マルカさんが軽蔑するような視線を俺に向けていた。

 マジでごめんなさい。

 冗談です。

 いや、本音の本音は可愛いデザインのぱんつが好きで、透けているというかセクシー系統はせっかくの幼さを打ち消しにしているというか、良さに対してマイナス補正というか。

 ロリとはその未熟性こそが素晴らしいのであって、そこに男性の視線を意識したかのような豪奢な下着というか、デザインが華美な下着はどうにも似合わない。良さを消す。いや、むしろロリという良さを殺している。

 無垢で無邪気な存在こそ嗜好である。

 大神ナーに祈りを捧げたい気分になるのはそのためだ。

 ので。

 やはりカワイイものは可愛いでお願いします。

 可愛さと美しさの両立?

 そんなものはルビーが達成しているので、人間種には不可能ということを思い知って欲しい。

 ギリギリで学園長か。いや、学園長はちょっと違うよな。

 ロリババァはロリババァの良さがあるのは分かっているが、やはり俺はロリが好き。


「まだ何かあるのかエラントよ」


 いつの間にかお姫様と女王陛下の下着談議が終わっていた。それにも関わらず、うんうんと悩んでいたので女王陛下がいぶかしげに俺を見ている。


「いえ、なんにもありません」

「うむ。では存分に楽しめ」

「はい。いえ……う~ん」

「煮え切らぬのぅ。だからおぬしはダメなのじゃ。」


 いや呆れるように言われましても。


「ほれ、去れ去れ。用件は終わりじゃ終わり。ブラの売り上げでも受け取ってさっさとエルフの森に行ってこい」

「はい」


 まぁ、なんだか知らないが呆れられてしまった。

 とりあえず余計な仕事を任せられなくて済みそうだ。


「しっかりとわらわの宣伝をしてくるんじゃぞ」

「はい?」

「エルフに贈答品を用意しておる。おぬしならば運ぶのは容易かろう」

「……なにが狙いで?」

「さぁて、なにが狙いじゃろうな。行ってみると良いのではないか、その腕輪で」

「なるほど」


 思わずつぶやいてしまうほどに理解した。

 腕輪で行け、と言われれば『転移の腕輪』なわけで。そして、転移の腕輪の技術には何が使われているかと言うと、エルフが秘匿している『深淵魔法』だ。

 そこに贈答品を用意している砂漠国の女王……と、考えると深淵魔法関連と思われる。

 あからさまに言ってきたというか、情報が漏れているというか。

 このあたりも、何か理由がありそうな気がするなぁ。


「よいか、必ずヴェルス姫も連れていけ。これもパーロナ国王に許可を取り付けておる。さらにわらわからの命令でもある。もしもヴェルス・パーロナを置いていけばわらわの命令にそむいたことになるからのぅ。ゆめゆめ忘れるな」


 どうしてヴェルス姫を?

 と、俺たちはお姫様を見た。お姫様自身も初耳だったのか首を傾げている。マルカさんなんか今にも右往左往しそうな勢いだ。実際に視線が右往左往している。

 転移の腕輪で安全にエルフの森に行くことはできる。

 加えて、エルフの管理している森だ。多少は森の中で野生動物やモンスターが出現するといっても、そこまで危険なことはない。

 一応は安全、ではあるのだが……少し問題がありそうなんだよなぁ。

 深淵魔法の大元だろう?

 たぶん、転移に関して何らかの措置がありそうな気がする。それでなくとも転移の巻物があるのだから、秘匿している技術を盗まれてはかなわない。

 よって、転移障害というべきか、転移障壁があってもおかしくはないわけで。

 下手をしたら深淵世界に置き去りにされてしまうんじゃないだろうか。

 なんかそんな気がする。

 もちろん杞憂だったらいいけど。そうでない可能性があるので、気をつけておいた方がいい。

 たぶん大丈夫だろう、という思い込みほど怖いものはないからなぁ。

 学園長に相談してから行くほうが良さそうだ。


「では、良い結果を期待しておるぞ。そうじゃな、もしその七星護剣とやらが手に入ったら見せに来い。月の幻惑とやらを試してみたいものじゃしのぅ」


 カカカカ、と笑いながら女王陛下は立ち上がると、そのままペタペタと歩いて謁見の間を退出した。

 女王陛下が扉をくぐり、パタンと閉まったところで――


「はぁ~」


 全員で息を吐く。

 俺たちだけでなく美少年たちも息を吐いてるので、相当な負担なんだろうか。かわいそうに。もっと良い仕事にしてもらえることを祈っているよ。


「こ、こうしてはおられません。まず皆に報告を――」


 慌てて立ち上がるマルカさんに、待った、をかける。


「その前に学園都市に行きます」

「学園都市ですか? なんででしょう?」


 ヴェルス姫が首を傾げて質問してくる。

 それに対して、深淵魔法のことをこんなところで伝えるわけにもいかず、ましてやベラベラと話して良い内容でもないので俺は言葉を濁した。


「とりあえず情報収集です。あと砂漠国で準備をするより学園都市の方がいろいろと手に入って良いのではないですか?」

「確かにそうですね」


 女王陛下のお膝元というか、謁見の間で言うことではないのだが。

 やはり砂漠国は資源に乏しい。

 砂ばかりの世界では、まともに作物も育てられない。いくら年中夏のような日差しだからといっても、高温過ぎるし、砂ばかり。どうあがいても農業には向いていない土地だ。

 そんな国でマトリチブス・ホックやメイドさんの分の食料や物資を買い込むのは、なかなか難しいかもしれない。

 なので、一度学園都市を経由したほうが効率的なはず。

 もっとも。

 転移の腕輪があるからこその話だけどね。


「分かりました。急いで情報共有を」


 謁見の間を出てマトリチブス・ホックのメンバーに報告をする。にわかに慌ただしくなるが、さすがに宮殿の中を走り出すわけにもいかないので早歩きで去って行く近衛騎士たち。


「姫様良かったですね」

「遠征ですよ、遠征」

「エルフの森楽しみ~」


 しかし、全員が全員慌ただしいわけではなく。

 ヴェルス姫の護衛に残った三人はわりとノンキだった。

 お気楽な三人だなぁ。

 ルーランなんて走り出して怒られてたっていうのに。


「ねぇねぇベルちゃん。いっしょに寝る?」

「うんうん、いっしょうに寝ようねパルちゃん」

「あら、わたしも仲間に入れてくださいまし。ベル姫が真ん中ですわ」


 もっとお気楽な三人がいた。

 弟子と吸血鬼と姫である。


「はぁ~」


 俺は大きくため息をつく。


「遊びじゃないぞ、遊びじゃ」

「はーい」

「分かっておりますわ」

「師匠さまはどこで寝ます? 私の上?」

「「「上!?」」」


 という感じで。

 ご機嫌なお姫様なので、まぁ、楽しそうでなによりです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る